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日本橋の星読み〜ひとみEye's

 旅するスーパースター、蕎麦宗です。

 大学時代の同級生がひょっこりとnote記事にスキ!(いいね)してくれたのをキッカケに、久しぶりに連絡を取った。次の【チャリ鉄の旅 その4】の目的地・富山県の情報を集めるためと、《星読み》を解説してもらうためだった。
 その星占いを始めたばかりで修行中という彼女に、自分の生まれた年月日と時間・場所を伝えたのがニ年近く前のこと。けれどホロスコープから読み取ったその結果はまだ知らずにいた。

 ゆえにアポを取って急遽東京へと向かうことにしたのだが、このところ視界が霞んだようなもやもや感に包まれている自身の感情。そして先のタロットカードの流れから、どちらの用事がこの日の主目的なのかと聞かれたら、明らかに後者だった。
 《占い》を訊ねゆくという全く自分らしくない、まるで女子みたいな心の旅のはじまりだった。

 三越本店を見て回ったあと、約束の時間よりも少し早めに着いた日本橋。江戸時代初期に五街道が整備されて以来、日本の道の起点になっているこの地。つまりは中心である江戸(東京)からの、あるいは江戸への旅路は、全てここから始まりここで終わるという*トポス。
 そんな意味深い場所のたもとにある《日本橋とやま館》での待ち合わせに『少々遅れる』という連絡が入ったのは、スマホの電池切れ直前だった。

 金曜日の、終業定時を過ぎた東京の街はせわしなく、行き交う人もクルマも無理に速回しにしたゼンマイ仕掛け。背筋を丸めてガードレールに腰掛けてぼぅと待つ僕は、まるで亡霊のように周囲には映っただろう。
 ふと、橋を彩るブロンズのオブジェやランプ越しの首都高速をおもむろに見上げる。いずれはこれも撤去される予定とは聞いている。が、『出来るなら早々に、このトポスの空は星が見える位にやはり開かれるべきだ』、そう思った。

『ごめん、用事長引いちゃって』

と言いながらそこへ現れた旧友は、確か同窓会以来6年ぶりの再会。学部学科や体育会バレーボール部も一緒の、落合研究室ゼミで体育心理学を共に学んだあの頃からは30年近い年月が経っている。
 あだ名は《いこ》。当時、ガラス細工の様に繊細だったナイーブさは影を潜め、優しくもタフな母親の恰幅かっぷくが、その華奢きゃしゃで小柄な体躯たいくをふた周りくらい大きく包んでいた。きっと、朗らかで真っ直ぐな旦那(こちらもバレー部の同級生)と娘息子こどもたちの存在がそうさせたのだろう。

『お待たせ、山ちゃん久しぶり!』

ここ最近は呼ばれることもない『あだ名』で声を掛けられて、気付くのが一瞬遅れた。なんとなくこそばゆいその呼び名を発した声色は、だいぶ低くなっていて、どうも仕事のためにトレーニングした成果らしく、そんなストイックさは昔日の彼女にはなかった。旦那譲りのものだろうか。いや、旅行代理店から始まった、今の仕事までのキャリアが作ったのか。
 いずれにせよ、それでも瞬時に30年前の学生時代そのままの会話に戻れるのだから、旧友というのは不思議なものである。

 さっそく職場から移るべく、彼女の勤める日本橋とやま館を出て行きつけのイタリアンへと向かった。挨拶はほどほどに、すぐ本題に入れたのはアポ取りの時にした電話のおかげ。
 店まで歩く間の会話は、富山県情報とタロットや星読みを織り交ぜながら、マスク姿の勤め人達と*センチュリーやマイバッハが交差する路地の景色の中を進んだ。

 イタリアンの店に着くと、常連の顔馴染みや店員さんと言葉を交わす《いこ》。『野菜を沢山食べたい』と言う、酒が飲めない彼女に注文を任せて、僕はとりあえずのビールを頼んだ。それらの品々が来る前に少し説明しておこうと思う。

 …《星読み=西洋占星術》は、産まれた時の*10天体と、*黄道十二宮や各々の角度などで構成された配置図=ホロスコープを元に占うもので、古来より天文学と結びつき広く親しまれてきた。信じる、信じないはさておいて、ある種の統計学と捉えれば個々人の傾向が浮かんでおもしろく、日々の暮らしや人生の生き方に、一つの《見方》を提供してくれる…。

『特に《星読み》は大雑把な長いスパンに適していて、短期的な事柄ならば、無意識を拾う《タロットカード》のような偶然系の方が当たる』

と彼女は説明を付け加えた。

『でさ、電話で言ってた、天才か変態か!あれ当たってるよ』

そう応えた僕は《星読み》の詳しいことは解らない。彼女の説明によると、どうも牡牛座と天王星との関わりが僕の星周りを異質なモノにしているらしく、電話口で伝えられた通りの判定と、《knower=知っている人》である自身の自己評価も同様だった。

『でね…』

びっしりと書き込んだホロスコープをガサゴソと鞄から取り出し、僕に手渡すために作成してくれた2枚のテキストを前に、《いこ》はふんわりと解説を始めた。

『山ちゃんはね、枠にはまった普通の人生はそもそも送れない星なんだよ』

これには一瞬たじろいだ。いくら《knower》とはいえ、なんとなしに思っていることが図星だと、複雑な心境になる。
 いくつかのキーワードを並べて簡単に言うとこうだ。創造性・遊び・衣食住に関わることにけ、リーダーシップを発揮して革新を重ねる。だから、ありきたりに勤め人になり、平穏な家庭を持って…は縁遠いらしい。

 解説を聞きながら、思わず心の中で『嗚呼〜あぁ〜』と頷くこと数回。《星読み》は基本的なロジックはあれど、解釈して選んだ言葉を紡ぐのは占い手による。つまり、ここに記され表現されているストーリーは彼女の視点によるもの。
 その《いこ》の本名は《ひとみ》。まさしく名は体を表す。《ひとみ=Eye's=視点》ではないか。

 そんな感心を含みつつ、その後もカルパッチョやサラダや赤ワインを頬張りながら繰り返される《星読み》の質疑応答は、ほぼほぼ日頃から薄々感じ取り、捉えていた自己分析通り。だからか納得と同時に、諦めいた気分に包まれた。
 しかし、やがて諦観は楽観に変わり、ずいぶんと気持ちが癒されていることにも気付いた。

『ここ最近ね、色んな人から会いたいとか話したいっていう連絡が入るの…』

それは、たぶん癒しを求めている人…という彼女の発言は、現実をも星読みのごとく*布置(コンステレーション)的な《見方》をしているあかし。 
 思わず頷いて、

『考えてみたら俺もその一人かもね。実はこないだのタロットで…』

と、【続、タロットで知った《知っている》自分の知らない今】という記事の内容をサラッと話し《Regenerator=癒す人》のカードをめくったことを引き合いに出した。でも、一方で

『俺もそうなりたいなってね、思ってるの《ズンの飯尾さん》みたいに!』

と冗談めいて笑って投げ掛ける。すると、

『山ちゃんも癒す人だよ、まるで夕焼けのよう。そして光が強い。だから、明日へのパワーを貰える感じで集まる』

『なるほど!《いこ》は春のひだまりみたいな優しい日差しね。気持ちが弱ってほっと癒されたい人達が寄ってくるってわけだ』

 タイプの違いこそあれ《陽射しと癒し》という僕ら二人の共通項への認識もまた、先だっての一枚目のタロットカード《Sun=太陽》に通じていた。

『その《Sun》のカード引いた際にね、タロット師とフォトグラファーの二人が真剣に考えてくれてさ。noteの枕言葉あるでしょ、アレを【旅するスーパースター】に変えることにしたんだ。』

『えっ、すごく良いじゃん!』

と《いこ》。そして言葉を続けた。

『山ちゃんはね、ひと所に居られない人。留まった時点で魅力が薄まる冒険者。だから、旅するのは正解だよ』

と、再び《星読み》を引き合いに出して説明してくれ、

『その方が山ちゃんの可能性を活かせるし、でも、その通りに生きていてすごいなぁと思う。星の力活かしまくり!』

と締め括った。

 イタリアンを後にして、場所は日本橋を眺めるスタバのテラスに替えてからも、ヒーラーや霊や感覚や恋など見えないものへの雑談が続いた。
 恋の話から移ろった旦那への一途なのろけ話を羨ましく聞きながら、再び話題が《星読み》に戻ると、ポツリと《いこ》が言う。

『このところね、立て続けに色んな人から、これだけの『星読み』やるのなら、お金ちゃんと取らなきゃダメだって言われる』。

修行中は無料でもいい。でも、有料だからこその意味もある。そこは商売を営んでいる僕の方が一夕の長があって、語気を強めて力説した。

『…でも、なかなかお金取れないんだよ』

それを聞いて、もやもやと進めずにいる自分自身の今を打開するアイデアが浮かんだ。

『ずっと蕎麦宗でワークショップやろうって思ってて…でもずっと動けずにいてさ。可能ならば今度《いこ》の星読みをやろう!お客さん呼んで!そしたら代金は蕎麦宗が集めれば良いし、講師料なら貰い易いでしょ!』

『それは嬉しい!そうだ、ならば7月に蟹座限定で人数は…』

と、アイデアは矢継ぎ早に浮かび連鎖する。
 会話はひよこ色の春の陽射しのように跳ねて、夕日のようないろどりで明日へと弾んだ。今度は僕の番だったのだろうか。どうやら、彼女を癒すことが出来たようだ。きっと僕が着ていたセーターのようなオレンジ色の夕焼けで。
 偶然としか言いようがないことだが、こうやって互いに呼応した何かを求めるタイミングが、思いつきの、唐突な再会の機会を創り出すのだろう。

 やがて夜は紺色にふけ、少し肌寒くなった風が軒下のテーブルに吹いた。それでも変わらない東京の都会まちの人の流れを眺めながら、冷え切ったキャラメルマキアートの残りの一滴を飲み干す。そうこうしているうちに、帰りの時間がきた。

『*@hoshiirohoshimusubiだね!星色の絵を描いておむすびで縁を繋ぐ。連絡取り合って詳細は詰めよう。では、また!』

と、別れ際にした握手に

『整ってるね〜』

と、伝えてくれた《いこ》、いや、《ひとみEye's》。

 …地下鉄の階段を降りてゆく彼女を、歩きながら見送った僕は日本橋を渡る。ふと、立ち止まって見上げた先に空はなく、首都高速の分厚い鉄板とコンクリート。当然、普段でも少ない大都会の星は全く見えない。
 でも、この場所は全ての旅路が始まる起点。ここは確かなトポス。実物の星が見えなくとも、降るような《星読み》で手に入れた目的地は、東京駅と同じくすぐそこに在る。さあ、歩くとしよう。もちろん、その先は分からない。それでも、ひとまず7月の《星読みワークショップ》に向かって。

 新たなる冒険・心の旅が幕開けた日本橋の夜は、くすんだひとみに再び輝きを灯す星空のようだった。終

*トポス…ギリシャ語で場所。意味のあるところという哲学用語

*センチュリーやマイバッハ…トヨタとメルセデスベンツの作る超高級車は日本橋が似合う

*10天体…太陽・月・水星・金星・火星・木星・土星・天王星・海王星・冥王星を指す。

*黄道十二宮…牡羊座・牡牛座・双子座・蟹座・獅子座・乙女座・天秤座・蠍座・射手座・山羊座・水瓶座・魚座

*布置(コンステレーション)…星の並びに星座を浮かべるがごとく、偶然の出来事につながりや意味を見い出す捉え方

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日本橋の下に停まっていたドゥカティパニガーレ

#星読み #私は私のここがすき #人生に迷ったら #旅をしよう

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