Moglie 〜モリエ〜 その6

蕎麦宗の店の庭への「立ちション」を目の当たりにし、そのオヤジ達が入っていった隣のスナック・モリエに怒鳴り込みに行った話。僕は、ママさんに逆に怒鳴られることとなった。

その一瞬で僕は何を悟ったのか。
たとえ立ちションオヤジでも、モリエにとっては大切なお客さん。常連客ならなおのことだ。いくら隣の蕎麦屋の兄ちゃんが訴えようと、直接目の当たりにした訳ではないママさんが、その下品な行いを認める筈がない。それがお客さんに対する愛情だ。
そして、その場に置かれた立ちションオヤジはただでさえ立つ瀬がないのに、ママさんが庇ってくれるという最大の愛情を受けた以上、「私はやりました」とは言いだせない。折角のママさんの「うちの子に限って」という想いを反故にしてしまうからだ。だからこそ、俯向いた上に更に小さくなったのだ。

《これ以上 我を張ってはいけない・これ以上追い詰めてはいけない。》

その二つを悟り受け入れた。だから僕は頭を下げてドアを閉め、その場を後にした。だが、すぐにドアが開いてひとりの男性が店から飛び出してきた。
「兄ちゃん、本当にすまない、あいつが立ち小便したのは確かだ、なのに謝罪せずにいることを許してやってくれ、俺が代わりに謝るから…」。先に一緒に店に入って行ったもう片方のオヤジだった。
僕は状況と気持ちを自分が悟った通りに伝えた。その人は更に平謝りになった。僕は許していると伝えてくれと頼んだ。

それから後、モリエのママさんの僕に対する態度は変わった。勿論その件には触れない。が、以前にも増してにこやかに挨拶してくれた。同じ客商売屋としての尊敬とともに。

…もし同じ状況になったとしたら、僕も店主として同じ行動を取るだろう。けれど、若かりしあの頃、この事件の前にはそうは出来なかったかもしれない。僕はママさんからそれを教わったんだって、今でも思っている。つづく

#うちの子に限って #許す #教わる #モリエ


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