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サッカーはやめてしまったけれど その7【偏差値とスポーツ①】

夕暮れて少し薄暗くなったグランドに、サッカーボールを蹴る音と壁に当たる音が交互にこだまする。
韮山高校のグランドは狭く、野球部とサッカー部の練習場所が重なり、その間を陸上部が縫うように走っていた。また、龍城山という北条氏の山城があった丘と校舎に囲まれて、だから余計に音が響く。
他の部活も練習を終えてひっそりとしたグランドで、誰か居残り連でもしているのかと近寄ると、中学の同級生だった。

「ノブじゃんどうした⁉︎」

自分で蹴ったボールを壁に打ち当て、戻ってくるボールをキャッチする。そんな練習を繰り返していた彼は、韮山サッカー少年団の仲間の一人だった。時のアルゼンチン代表GK《ネリー.プンピード》に憧れ、物真似みたいなキャッチングフォームが妙にカッコ良かったのを覚えている。モノマネは上達の近道の一つ。だからといってじゅんいちダビットソンがサッカー上手いわけではないが…おっと、脱線。

中学を卒業して間もない頃だったが、久しぶりだったので話し込んだ。聴けば、ノブの進学した高校のサッカー部は不良のたまり場で、練習はしないし部室はタバコの喫煙所になっているという。誰も真剣にやらないからサッカーをやりたい人はどんどんやめていってますます練習が出来ず、こうして家の近所のグランドで一人ボールを蹴っていた、らしい。

ちょっと不憫に思った僕は、自分たちの部活への練習参加を呼びかけた。

「みんな気さくなヤツだから快く受け入れてくれるよ、GKも少ないから重宝するし。少し前までヨゴも混ぜてもらってたよ」

ヨゴ、というのはサッカー少年団と中学の二つ上の先輩で、他校へ進学したものの監督との折り合いが悪く、友人伝いに韮高サッカー部で時々一緒にプレーしていた友達。そういった土壌もあるので、先輩も同級生も間違いなく誰も悪くは言わない。そういう仲間達だ。ただ、高体連の規則があるから試合には出られない。それでも真剣にサッカーを楽しめる環境が用意されるだけでも、今よりはマシではないか。僕はそう考えていた。

「うん、ありがと、考えておくよ」

そういってノブは自主練を終えて帰って行った。僕は彼が来ることを心待ちにしていたが、そのまま何日、何ヶ月か経った。その後も彼が練習に来ることはなかった。つづく

#部活 #サッカー #社会体育  #SMP





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