見出し画像

鬱獄

君の寝息が妙に耳障りで
夜中にそっと起きて焼酎を飲んだ
キッチンテーブルがやけに大きく見えた
電気が明るすぎるので消した
ソファーは乾いて硬かった
ピアノの上に郵便物が置かれていた
足元が冷たかった
目が乾いてヒリヒリした
楽しいことを考えようとしたが
ダメだった
エロいサイトも動物サイトも効果はなかった
君の寝顔は可愛いかった
胃の底にある鉄は
鉄のままだった

古く分厚い扉が開く音が聞こえた気がした
扉の向こうに檻が見える
檻の中に電気椅子が置かれていた
電気椅子には血が通っているように見えた 

会計士が僕の隣でメモをとっていた
会計士はやけに大きな電卓を持っていた
でもその電卓を使うことはなかった
会計士は鉛筆で電気椅子をさす
僕は、お前が行けよ、と返した
会計士は諦めたように
僕にメモをみせた
証拠は揃っておりますので
あちらへ
確かに証拠は十分だった

電気椅子にスイッチが入り
熱を帯びた不吉な湯気が立ち昇る
観客のヤジが聞こえる

僕は諦めて立ち上がる
会計士はメモを取り続ける
全てはコストですから
と会計士は得意気に言う
まるで名言を引用したかのように
僕は急に腹が立って彼のメモを取り上げて
会計士の口に突っ込む
メモの背表紙に100円の値札が貼られているのが見える

だからお前はいつまでも子供なんだよと
昔からの友達が非難する
妻が僕を心配そうに見ている
あなたは子供なの?
というように

去られてしまう前の
掴みようのない闇の手が
僕の背中を摩る

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?