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「チームで弱さを共有したら、個性を生かしあう“余白”が生まれた」soar事務局スタッフ・河野奈保子

「人の持つ可能性が広がる瞬間を捉え、伝えていく」をコンセプトに活動するNPO法人soar。ウェブメディアを通して、様々な人たちの経験や活動を紹介してきました。

そっと誰かの心に寄り添う。そんなメディアのイメージがあるsoarですが、その印象と重なるのが、事務局スタッフとして働く河野奈保子さんです。

みんなから「Qちゃん」の愛称で親しまれる彼女。

何を隠そう私は、Qちゃんと以前の職場で一緒に働く同僚でした。さらに、「Qちゃん」の愛称の由来ともなっている彼女の旧姓での名前と、私の旧姓での名前は同じ「たかはし・なおこ」なのです。

私が緊張しながら働き始めたとき、Qちゃんが「同じ名前なんですよね!」とニコニコ話しかけてくれたことを今でも思い出します。その笑顔にどれだけホッとしたことか。

久しぶりの再会に胸躍らせながら訪れたsoarオフィスで、「いらっしゃーい」とQちゃんはリラックスした表情で迎えてくれました。

Qちゃんがどんな思いでsoarで働き始めたのか、どんな仕事をしていて、どんな変化があったのか、聞かせていただきました。

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思いを持って活動する人たちが、希望を持てる場をつくりたい

──最初に、soarに入ったきっかけから伺えますか。

河野:直接のきっかけは、前の仕事を退職して、これから自分が改めて何をしたいかなとゆっくり考えていたときに、以前から知り合いだったsoar副代表のモリジュンヤさんに声をかけてもらったことです。

もともと、福祉やまちづくりに関わる、様々な立場の人をつなげるコーディネートの仕事をしていて、そこにまた携わりたいなあと思っていたこともあって。

こうした仕事に関わりたいと思ったきっかけをさかのぼって話すと、大学時代になるんですけど。

──ぜひ、聞かせてください。

河野:大学時代、ボランティア活動を手伝っていたときに、活動を共にする地域のおじいちゃん、おばあちゃんたちがめっちゃ楽しそうで。

新しいことを覚えていくことや新しく人と知り合えることで、おじいちゃん、おばあちゃんたちに新しい問いが出てきて、活動に深みが増していくーーそういうのを間近で体験していたんです。その姿を見ながら、私は「この瞬間を再現することを仕事にしていこう」って思ったんです。

──「この瞬間を再現する」。

河野:思いを持って活動している人たちが、希望を持てるような場を再現できたらハッピーだなって。こんなに言葉にできたのは最近で、そのときは直感的に「私の仕事これにしたい!」って感じだったんですけど。その感覚をずっと持ち続けて、これまで仕事をしてきている感じがあります。

だから私の中でテーマとなっているのは、「生涯学習」なんです。学習を通じて、生きることの意味を再確認するとか、学習を通じて行動や物の見方が変化していく。そういうことがいくつになってもできるって、すごく良いと思いますね。

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人が変化して可能性が開かれる、その瞬間をつくるために生きている

──現在soar事務局として、どんな仕事をされているんですか。

河野:soarは編集部と事務局と大きく2つの部門からなっています。

編集部がメディアを通して人の可能性や、可能性をもっと広げるための活動をしている方たちを記事として紹介している一方、事務局は、soarの世界観に触れた方たちにより知ってもらうための入り口の設計を、色々な施策を通してしています。

具体的には、soarの運営を寄付で支えてくださっているサポーターや、読者の方が参加するイベントの運営。さらには広報として、ニュースレターやメールマガジンの配信、noteやSNS、サポーターの方々とのコミュニティページの運営など。

さらに、代表が登壇する学校や企業研修をコーディネートしたり、soar teaというお茶をプロデュースもしたりと、新しいプロジェクトの立ち上げもしています。今年は新しく「#やってみよう当事者研究」というワークショップも始まりました。

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毎月コツコツ積み重ねているものと、新しくsoarの活動を広げるものと、両方を走らせている感じですね。

──毎月説明会を開いている、など、soarは入り口の設計をものすごく丁寧にしているように感じます。

河野:私も入ったときにびっくりして。メディアや記事と人が出会うのも、タイミングがあるから、先月は関心がなかったけど、今月は気になっているかもしれない。接点の機会をつくっていくっていうのはすごく大事だなってやりながら思っています。

──なるほど。イベントは最近、どのように開催しているんですか?

河野:新型コロナウイルスの影響が出始めた今年の2月からは、活動説明会やトークイベントも全てオンラインで開催しています。今年は開催の形式を変更することになったのですが、だからこそ気づけたことも多くあって。

オフラインのイベントだと、参加したい方の状況によっては参加できなかったけど、オンラインだからこそ参加できたという声もいただきました。

遠方から参加する方や外出が難しいという方もそうだし、精神の状況的に人と会うのが難しい場合でもオンラインだと音声だけで参加できる。私たちもやってみて参加者の方の声を伺って、こういう参加の仕方の選択肢や可能性があるんだなって気づけたんです。

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──soarの仕事で印象に残っていることを聞かせてもらえますか。

河野:イベントの場をつくっていて、そこに参加してくれた人たちが気づきを共有してくれる、その瞬間に毎回感激します。

自分の思いを言葉にすることで、共感してもらえたという声や、同じような体験をした方がいたんだと勇気がでたという声。そして、一人では考えつかなかったアイデアや思考にハッとしたという声。そんなさまざまな気づきを共有することって、すごく勇気のいることだと思うんです。

メンバーも参加してくれた方も、誠実に言葉を重ねていく人がとても多いと感じていて。毎回毎回イベント運営当日は「あーよかった」って心が満たされて終わっていて、「そうだ、この瞬間をつくるために、私は今生きているんだな」って実感するんです。

──「この瞬間をつくるために生きている」。

河野:そう。最初に伝えた大学時代の話にもつながるんですけど、コーディネートの仕事や、イベントや講座の企画運営の何が一番楽しいかって、当日気づきを得たり、参加した人の中に起こった小さな変化が見えてくること。私はそれが世界で一番好きな瞬間で。そこから行動や考え方、見るものが変化して、その人の人生が豊かになっていくーーその瞬間をお手伝いできることがすごく幸せだなって思ってます。

「人に頼ること」へのチャレンジ

──事務局の仕事は幅広いですが、どのようなメンバーで運営しているんですか。

河野:現在は、スタッフが私含めて3人、インターンの大学生が3人です。

──少人数で運営しているんですね。Qちゃんはリーダーをしているんですか。

河野:そうなんです。ただ私、結構ひとりで頑張っちゃおうとするんですよ。だから、人に頼っていくとか、助けてくださいって相談する、というチャレンジをしていて。

──というと?

河野:今こういう状況です、って共有をなるべくするようにしてます。伝えることで背負い込みすぎないように、メンバーにつないでいく。

「ここまでは考えたけど、ちょっとこの先はお願いしたい」ということも昔は言えなかったけど、今はちょっとずつ言うように練習しています。

──なるほど。たしかにひとりで引き受けて踏ん張ることが必要な時期もあったかもしれませんが、次の段階としては、というところですよね。

河野:そうなんです。これまでひとりでやらなきゃいけないって思いすぎていたかなと思って。でもそれだと遠くにいけない。チームだったり、ひとりひとりがよりよくあるためには、共有していくことが必要なんだなというのが、soarに入ってからこの1年での学びです。

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──それができるようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

河野:今年の8月末ぐらいに事務局のメンバーと、今の自分の状況とこれからどういう事務局をつくっていきたいかという話をする機会があって。私も「今こういうことで悩んでいる」って話をしたんです。

実はすごく緊張して、自分がどんな言葉で話をしたか記憶もあやふやになるぐらいだったんですけど。

──チームのメンバーははどんな反応だったんですか。

河野:「ひとりで背負わなくていいんだよ」っていうことを、いろんな角度から言ってくれた気がしました。それからは「何かできることがあったら言ってください」って声をかけてくれますね。今はチームとして、一緒にsoarのビジョンを引き受けられる感覚があります。

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──チームワークにも変化が起こったんですね。

河野:昔は、そういう悩んでいることって、話したらいけないと思ってたんです。「リーダーは答えを持っていなきゃいけない」みたいな気持ちがどこかにあって。でもこのことをきっかけに、少し肩の力が抜けたように感じています。

soarには「弱さの共有」という文化があって、ポジティブな部分だけではなく、自分の弱い部分もシェアするようにしているんですよね。

ここで困っていてどうしよう、今の状況はこうです、って現在地を伝えることで、いろんな人の個性や考え方が入ってくる余白ができるように感じていて。そうしたら私も楽な気持ちになれるし。働き方や働く時間の違いはあっても、気持ちの部分は共有できる。そういうみんなの個性や考え方が入る余地のある、器みたいなものがつくれたらいいなって思うようになりました。

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soarメンバーの“素直さ”と“真摯さ”に触れて

──soarにいる人の魅力ってどんなところですか。

河野:素直!そして真摯です。

soarにおける私たちの仕事は「人の可能性を広げていく」ということで、自分自身にもすごく返ってくるんです。

働く中では嬉しいことも困ったことも起こります。でもメンバーそれぞれが、その状況や自分の中にある感情にしっかりと向き合っているように感じていて。さらに、自分自身だけではなく、他人の状況や変化にも向き合っていこうとしている。その真摯な感じがすごく素敵だなと思っています。

──どんな場面でそれを感じますか。

河野:毎回会議の時、自分の心や体の状態の現在地を「チェックイン」して始まって、会議を通しての変化を「チェックアウト」として共有して終わるんですけど、そのときにいつも感じています。仕事と、その人のあり方と、今の気持ちの変化や気づき、全部合わせて見てみると、ひとりひとりの人格が生かされながら仕事とつながっていく感じがするんです。

会議が終わったときはいつも、この人たちと仕事をするのは本当に嬉しいことだなって感じます。

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──人格を尊重しながら、仕事の話ができるって素敵ですね。soarで働くようになってQちゃん自身の気持ちの変化はありますか。

河野:私、喜怒哀楽のうち「怒」と「哀」は表現してたんですけど、最近「喜」と「楽」の表情が豊かになってきたなって感じています。

この前は準備を重ねてきて、そわそわしながら当日を迎えたオンラインカンファレンスが無事に始まって、その始まった!っていう状況に感動して涙してしまったんですけど。

それこそsoarの人が持っている「素直さ」に影響を受けたのかな。ガードしていた分厚い壁みたいなのがはがれてきて、素の自分と頑張るぞって力を入れてる自分のバランスが取れるようになってきたことが、私自身の「回復のストーリー」かもしれないですね。

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問いを行動へとつなげる。新しい学びの場を目指して

──今後soarでどんなことを実現していきたいですか。

河野:soarがはじまった当初から実施しているゲストをお招きしてのトークイベントや、2020年にはじまった「#やってみよう当事者研究」のような、これからの時代に必要とされる新しい学びの場をつくっていきたいなと思っています。

トークイベントや #やってみよう当事者研究 のような場って、私たち個人が、自分や他者と、そして社会といかに向き合っていくかという問いを、みんなで一緒に考えていける場なんですよね。

様々なことについて問いを持ち、そしてその問いから派生して「自分は何ができるのか」を考え、学びながら行動していく。

最初にお伝えした私の興味関心分野である、市民活動や生涯学習にもつながるのですが、そうした行動こそが、のびのびと動ける魅力的な社会をつくっていくと思います。

だから人が主体的に学び、行動できるようサポートする場をもっともっと開いていきたいなって。

そして、soarを「正解がない社会の様々な問いに対して、揺れ動きながらも常に考え、対話できる関係性を築くプラットフォーム」にしていきたいなと思っています。

──学びの場作りにおいても、「正解がないこと」や「揺れ動くこと」を前提として共有しているのが、soarらしさのように感じました。最後に、Qちゃんはこれからsoarでどんな人と一緒に働きたいですか。

河野:自分のことも相手のことも、いろんな側面を見ていくことに楽しみや喜びを見つけられる人がいいと思います。困ったことが起きたときに、「どうしていこうかね」って相談しあえたり、一緒に良い方向に進められるように考えたり。たまに後ろ向いてもまた前を向くことを一緒に面白がれる人。人の可能性をあきらめない人がいいですね。

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人に頼ること。それは社会人としての経験を重ね、できることが増えるほどに難しくなるように感じます。なぜなら、頼るためには自分の現在地を把握していないといけないから、さらには相手のことを信頼していないとできないから。

「人に頼ることが苦手だった」

そう話すQちゃんは、soarで働き始めて大きなチャレンジと変化を経験しました。素直さと真摯さを持つメンバーに出会い、向き合うことで、これまでの経験による傷や思い込みが癒されて、本来の自分が立ち上がってくる。それはまさに「回復のストーリー」で、私は何度も深く呼吸をしながら聞いていました。

「イベントの場で気づきを共有するとき、メンバーも参加者も誠実に言葉を重ねていく」

Qちゃんはそれを人のこと、として話をしていたけれど、私から見ると、言葉を誠実に重ねる、それこそがQちゃんの姿のように感じています。きっとそうしたQちゃんが関わる場だからこそ、参加者からもそうした反応が返ってきているに違いありません。

「今色々と企画を仕込んでいるんですよ」

最後にわくわくしながらそう伝えてくれたQちゃんが、これからどんな場を生み出してくれるのか、私も楽しみでなりません。

Written by 福井尚子


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