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主体性ある読者と、ゆっくり関係を築くメディアに。桂大介さんと語るsoarが果たすべき役割

自分のSNSのタイムラインは、社会の縮図ではないんだよね

先日、友人とこんな会話をしました。

タイムライン上でよく目にする議題が、世間一般においても“ホットな話題”かというと、必ずしもそうではないということです。SNSでは興味関心の似た人たちをフォローするため、タイムラインは言わば自分が作り上げたマイワールド。にもかかわらず、それが社会のほんの一部であるという前提をときどき忘れてしまいます。

私たちのもとには日々たくさんの情報が流れてきます。

soarの記事を、必要としている多くの人に届けたい。それはsoar編集部をはじめ、私のようなライターやフォトグラファー、そしてサポーターの方々の共通の願いです。

記事を読んでもらうためには、読者の方に必ずしてもらわなければならないことがあります。それは、記事への「クリック」。タイムラインに並んだタイトルやアイキャッチ画像の中から、選んでもらわなければなりません。

それゆえに、記事のタイトル付けにはじっくりと時間をかけます。この記事のメッセージは何だろう、届けたいのは誰だろう。そんなことを考えながらーー

今回は、メディアのあり方に関心を持ち、自身でもメディアの今後を考える勉強会などを開催する株式会社リブセンスの共同創業者の桂大介さんにお話を伺いました。桂さんはsoarのサポーター会員でもあり、soarの運営スタイルに共感を寄せてくださっている1人です。

soarの副代表であり、複数のメディアブランドの構築や運営に携わるモリジュンヤと共に「メディアのあり方とsoarのこれから」について考えました。

桂大介さん
株式会社リブセンス共同創業者

1985年京都生まれ。高校生の時から個人事業主としてシステムの受託開発を始め、早稲田大学入学後の2006年に代表村上らとリブセンスを共同創業。創業後は取締役として経営を行う傍ら、開発、人事、マーケティングなど様々な部門を歴任。2017年に取締役を退任し、社外にも活動の幅を広げる。
モリジュンヤ
NPO法人soar理事、株式会社inquire CEO

1987年生まれ、横浜国立大学卒。2010年より「greenz.jp」編集部にて編集を担当。独立後、「THE BRIDGE」「マチノコト」等のメディアブランドの立ち上げに携わり、テクノロジー、ビジネス領域を中心に執筆活動を行う。15年、編集デザインファーム「inquire」を創業。17年、社会をアップデートするクリエイティブポータル「UNLEASH」を創刊。エンパワメントやウェルビーイングの実現のため、メディアやプロジェクト、組織の編集に取り組む。株式会社アイデンティティ共同創業、NPO法人soar副代表、NPO法人マチノコト理事。

soarの好きなところは「読者との距離感」

モリジュンヤ(以下、モリ):桂さんは確か約1年前(2017年夏)にsoarのサポーター会員になってくださっていますが、soarを知ったときのことって覚えていますか?

桂大介(以下、桂):僕も当時を思い出そうとしてtwitterを遡ってみたんですよ。すると、こんなツイートを見つけました。どうやら記事のデリバリーに問題意識を持っていたみたい。

モリ:その頃から、メディアの発信の仕方に関心があったんですか?

:当時はメディアの仕組みに関心があったけど、今になって思うのは、情報の受け取り方も変わってきているなと。今、僕はsoarの中の人を何人かフォローしているんですけど、フォローが複数人になってくると新着記事を見逃さないんですよ。メディアからの一方通行なデリバリーではなく、コミュニティに自分が入ることで購読がなされる形に移行しているような気がして。

モリ:情報の触れ方で言うと、SNS上でフォローして購読するのと、それに加えてイベントのような物理的な空間での経験を挟みつつ購読するのとでは、情報への姿勢が変わるんじゃないかなと思っています。

:それはやっぱり違いますよね。やっぱり僕がsoarを好きな理由の一つには、運営の皆さんの顔が見えていることがあって。“顔が見える”メディアは増えてきたけれども、soarは物理的に見えること以上に、イベントやSNSライブを通して、振る舞いや運営模様が見えるところが大きいかなと思います。

(イベント準備中の一コマ)

(ミーティング風景を発信することも)

モリ:距離感が近づくような要素が多いということですか?

:そうそう、soarは読者との距離感が心地よいんですよ。スタッフの動き方も良い意味で形式ばっていなくて、読者との距離の詰め方が上手いなぁと感じるんですよね。

フィルターバブルにクリックベイト、「情報の偏食」に危機感があった

モリ:桂さんは今年の始めに「動物化・亡霊化したメディアの行く末」と題したイベントを開催されていますね。メディアのどんなところに問題意識を持っていたのでしょう?

:目立つものばかりが出回っていることに危機感がありました。soarのサポーターになってすぐ、ドミニク・チェンさんが登壇するsoarのイベントに参加したんですよ。そのときに“フィルターバブル”という概念を知って、すごく腑に落ちたことを覚えています。その後、考えれば考えるほど、クリックベイト(PV獲得のために、過剰なタイトルなどを使って集客すること)とフェイクニュースに扇動されて、ただ時間を浪費する構図が見えてきてしまって。

モリ:国分寺の喫茶店「クルミドコーヒー」の影山知明さんが『ゆっくり、いそげ』という書籍の中で“特定多数経済”という言葉を使ってこう言っていたんです。「不特定でもダメだし、少数でも経済にならない」。“特定された多数”に向けての情報発信を考えていかなければならないのは、メディアも一緒だなと。

:結局、“不特定多数”って言っているときの“多数”って常に入れ替わっているんですよね。読者とメディアとの関係がその場限り。

購読の話にもつながるんですけど、今って正直メディアの力が落ちているじゃないですか。いい人が書いたらバズって結局読まれることになるから。それも一長一短で、メディアを超えた新たな出会いがあると思いきや、釣りタイトル問題やフィルターバブルの中で、興味があるものばかりを摂取する「情報の偏食」状態を助長している側面もある。

そんな中でメディアができることは、エンゲージメントの高い“特定”の人々を増やしていって、耳障りの良いものだけではない新たな気付きを増やしていくことなのかなと。

モリ:メディアランドでも、運営者個人でもいいんですけど、「知らないことだけど、このメディアが言うんだったら見てみようかな」という状態を作れるかどうかが重要だと思っています。意識的にフィルターバブルを抜け出すことを、読者に提案していくべきなのだと。

:そうそう、紋切り型な言い方ですけど、僕もsoarのサポーターになって世界が広がりましたから。シンプルに、知らなかったことを教えてもらいました。

モリ:soarをやろうと思ったきっかけの一つに、横断的な関係を作りたかったことがあります。LGBT、精神状態、身体障害、家族など、それぞれに関心が高い人たちは、実は根本では相性が良かったんです。なので、何か特定のものに関心を持って見に来てくれた人たちが他のイシューにも目を向けてくれたらいいよねって。

メディア業界だけではなくて、NPOセクターでもよく「タイトル問題」は話題に挙がります。初めのうちはまず注目を集めようというロジックが働き、「どう注目されるのか」が置き去りにされがちです。アテンション以上に、本来伝えたかったことを優先することで、soarはクリックベイト問題にもケアできているのかなと思ったりもします。

:soarの皆さんも勿論タイトルは熟考していると思うけど、投げかけはしても、決して警鐘はしないですもんね。

モリ: そうですね、不安や危機感を煽って読ませることはしません。記事のエッセンスと読んでほしい人たちのモードを考えて、ポイントを抽出する方法ですね。

:soarって編集方針が丁寧ってことでも有名ですけど、最初からそうだったんですか?

モリ:もともとは編集長の工藤が一人でこだわりを持って記事をつくっていたのですが、メンバーが増えていくにあたりそれを言語化して編集方針をつくったんです。それが長いと有名に(笑)。

取材対象者を一人の人間として向き合い、インタビュアーが見たその人を友達のように紹介する感じが基本スタンス。なのでタイトルも病名や肩書などのスペックではなく、彼らの生き様やメッセージを盛り込むようにしています。これができるのは非営利メディアだからかもしれないですね。

:それにしても、寄付で運営するメディアはすごいですよね。誰でも読めるけど、PV収益じゃないからメディア側の事情に左右されないというか。

モリ:立ち上げ当初、クラウドファンディングで運営費を集めたんです。そのときの資金の集まり方で運営方法も変わるよね、と話していて。少人数から多額が集まるのか、それとも大人数から少額ずつが変わるのか。結果、400人くらいの人から300万円ほど集まったので、多くの人に支えてもらいながらメディアを育てていく方向に決めたんです。

情報を欲している人に届いていない“情報非対称”の問題をクリアしていきたかったんです。広告型収入のようなビジネスモデルでは圧力がかかりやすいし、課金制にして購読に制限をかけることはしたくなかったので。

今後メディアに求められるのは、「短く速い」からの脱却

モリ:最近色んな場面で感じるのが、固定された役割が薄まりつつあるということ。例えば、介護や子育て。役割を決め切らずに、一つのコミュニティの中で協力しながらやっていこうという、シェアの概念が受け入れられ始めています。メディアと読者でも、相互的な関係を作れると思っていて。

:読者を「消費者モード」から解放するってことですよね。すごくいいと思います。フィルターバブルの行き着く先にあるのは、分断。記事を消費するように読むのではなくて、メディアにも読者にも「持久力」や「根気」が必要だと思います。

モリ:分断に対してメディアができることの例として面白いなと思ったのは、あるドイツの新聞社の取り組みです。ネット上で反発し合っている反対意見の人たちを引き会わせて、対話の機会を作ったんです。結局、自分の苦手とする人たちって自分が勝手にラベルを張っていることも多いじゃないですか。

:そうそう、人ってそれなりに複雑なんですよね。触れ合う人によって自然と人格のスイッチが切り替わる「分人主義」って言葉もあるように、コミュニティによって出している自分だって違う訳だし。

モリ:そんな中で、彼らの実態を浮かび上がらせる役割をメディアが担ったことは僕にとってもヒントになりましたね。

:僕は、これからメディアが大切にしてほしいのは「長さ」ですね。今って、短くて速いんですよ。僕らが大好きなTwitterもその悪しき代表なんですけど(笑)。そうではなくて、長期戦をしかけるように、長くて遅いものとも向き合っていくべきです。

ある程度の尺を持つと、どうやっても複雑性が出てくるじゃないですか。雑誌の例でいうと、一冊の雑誌のうち興味があるのってほんの数ページ。けれども、雑誌というボリュームのあるパッケージに触れていることで、新たな興味が見つかる可能性があります。けれども、やっぱり雑誌は重いし遅いので、軽快には飛び回れないんですよね。メディアは今後、それをどう運んでいくかも考えていくべきでしょう。

モリ:メディアが抱えているもう一つの壁は、人は本来多面的なのに、その人の一番キャッチーなところをメディアがこぞって取り上げるので、どれも同じような記事になってしまうところ。複雑性を伝えようと思うと、そりゃ1万字超えるよねと(笑)。

:確かに、soarの記事は長いですもんね。でも「長い」のは、腕が伴っていないとできませんから。編集部もライターも写真も、soarはレベルが高いので、あの質の高い長い記事ができていると。

モリ:ありがとうございます。メディアはもっと、長距離走を走るように読者との関係を築いていくべきということで、まとめさせていただきますね。

soarが目指すのは、読者と“贈り合う”関係

フィルターバブルにクリックベイトといった「情報の偏食」に対してsoarができること。そしてその先にある「分断」に対してsoarができること。おぼろげながら形が見えてきたものの、その輪はまだまだ大きいとは言えません。

soarの記事を、必要としている多くの人に届けたい。

その思いを胸に情報を発信していますが、私たちも決して正解が見つかっているわけではなく、試行錯誤を繰り返しながら、soarというメディア、ひいてはコミュニティを育てています。ただ、今回の対談を通して再確認をしたのは、「クリック=情報が届いた」ではないということ。

対談の中にも出てきたように、私たちの役割は“発信者”だけではないと思っています。読者やサポーターの方と、想いを贈り合う関係でいることが私たちが目指す姿です。

以前、サポーターの方から「soarの長さは、優しさだ」という言葉をいただいたことがあります。これからも人々の挑戦や生き様を丁寧に紹介していくことで、ゆっくりとでも水の輪が広がっていくことを信じています。

私たちと一緒に長距離走を走ってくださる方、ぜひsoarの仲間になりませんか。

written by ニシブマリエ/Marie Nishibu

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