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54歳のワタシに会いに行った

先日、友人とお茶をしていた時に「ありたい自分の姿」という話で盛り上がった。そのあと、「20年後の自分を考える」というワークに出会った。ワーク自体では断片的な画面しか出せなかったけど、せっかくなのでちょっと具体的に考えたものを妄想エッセイ風にしたためておく。


 ひょんなことから20年後のワタシに会えることになった。次に目を開けたら20年後のワタシの家の近所に着いているらしい。そんなアホなと思いつつ、面白いチャンスを逃す手はないなと思って静かに目を閉じた。20年後は54歳。全然ピンとこないけど、ワタシはどんな生活をしてるんだろう。

 目を開けると、降り立っていたのは車の行き交う通りから一本入った静かな場所。風に吹かれる木々のサワサワした音がして落ち着く。なんだか神社に入った時の空気みたいだなと思った。

 おうちは平屋の古民家。縁側があって土の匂いがした。ワタシは家の玄関の前で手を振りながら私を待っていた。手を振る姿が妙にリズミカルですでにお茶目なおばちゃんさを感じる。

 親しみやすいような、ちょっと恥ずかしいような、照れくさい気持ちで近寄ってみると、ワタシは白いスタンドカラーシャツにチノパン、おかっぱあたま、前髪ぱっつん、丸めがねで今とあまりにも同じで、思わずぷっと吹いてしまった。好きなものが変わってないんだね。

 変わったところと言えば、シワと白髪が増えたこと、シャツにちゃんとアイロンがかかっていること、纏う空気がなんだか緩やかなこと。今より心に余裕があるのかな?

 家の中に入るとワタシはほうじ茶を出してくれた。白くてサラサラとしてどっしりしている大き目の焼き物に入っていた。「これ、お茶用?かわいいね」と聞いたら「わかんないけど、可愛いからなんでもいいでしょ?たっぷり入るし」とあっけらかんと言っていた。今の私よりおおらかなようだ。

 両手で器を持って、ふぅふぅとほうじ茶を冷ましながら家の中を眺めると、あちらこちらに気に入っているだろう瓶や焼き物が飾ってあった。統一感がないようで、どれも温もりを感じる素朴なものだからか、なぜかまとまって見えた。今腰掛けている椅子も机も手入れがされているのかつやつやと熟成した木の輝きをまとっている。こだわりがあるんだろうな。

 眺めていると「あなたくらいの時に買ったぬいぐるみたちは、書斎に飾ってあるよ」と楽しそうに教えてくれた。さよならしてしまったのかなと思っていたので、ちょっとホッとした。あとで案内してもらった書斎は、憧れの壁一面の本棚、ぬいぐるみやフィギュアを飾る棚があった。私の知っている本もぬいぐるみもあるし、知らないものもある。ワタシは「全然種類が違くても、好きなものがたくさんあるのは幸せよね」とケラケラしていた。

 一通りお家を案内してもらったあと、20年後のワタシに聞いてみたいことをぶつけてみた。向かい合う私たちの顔は、そっくりだけど、ワタシは変わらず穏やかな顔をしていて、私はちょっと不安な表情だった。聞きたいことはどれも知りたいような知りたくないようなことばかりだ。

「ここまでの20年振り返ってどう?」
「休職を経験して、良い意味で肩の力を抜いて自分に素直になったから、より無理せず人生を楽しめるようになった気がするよ。」

「すぐ変われた?」
「もう。あいかわらずせっかちで100点求めるんだから!」というワタシは苦笑したあと、一瞬どこか遠くを見るような目をしていた。思い返しているのかもしれない。
「変わっていくのは大変で『あぁまたやっちゃった!』の連続だったけど、ちょっとずつ練習していったんだよ。20年前の私が、変わろうと決意してくれたから、今のワタシがあるんだよ。もしかしたら『30過ぎて気づくなんて遅過ぎた』と思ってるかもしれないけど、大丈夫。」

「今、楽しい?」
「楽しいよ。相変わらず働くことは好きだけど、昔とはペース配分が変わっていて、会社に所属する以外のこともいくつかやってるんだ。」
「生き急いでない?大丈夫?」今の私は火事場の馬鹿力を出しすぎてくたびれてしまう悪い癖があるので、思わず不安になってしまった。
「大丈夫。どの活動も好きだけど、自分を放っておかないことを覚えたよ。このお家はそのための基地だね。何者でもないただのワタシに戻れるんだ。もちろん、必要な場面では馬力を発揮することもあるけど、力の出しどころを覚えた感じかな」

 根幹は変わってないんだろうけど、今のスタイルと違う自分を見て「どういうことをしたらこう変化するんだろう?」とも思ったけど、聞くのはやめておいた。それは今の私が見つけていくことだ。あっという間に時間は過ぎてしまい、そろそろタイムリミットらしい。最後にハグをした。抱きついたワタシはなんだか懐かしいような泣きたくなるような匂いがした。

 目を開けると、いつもの自分の机の前だった。時計は15分しか進んでいない。もしかしたらうたた寝した時に見た夢だったのかもしれない。夢でもいいや。20年後のワタシにも彼女なりの悩みはあるんだろうけど、なんだか楽しそうだったから。歳を重ねるのも悪くなさそう。これからの20年が楽しみだ。

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