「黒魔女さんが通る」「獣の奏者」
記憶の中で活字に触れるようになったのは、母が地域の図書館で借りてきてくれた漫画や児童向けの小説でした。
両親共に全くといっていいほど本を読む習慣が無い人だったので、読書をする機会が少ない環境でしたが、母が雑誌などを借りるついでに借りてきてくれた本を毎回楽しみにしていました。小学校低学年の段階で既に誰かと遊ぶよりも1人で静かに遊ぶ方を好んでいたので、読書は1人遊びにうってつけだったのです。しかし読書の習慣が無い母は毎回その場にあった適当な漫画を借りてくるので巻数がバラバラなことも多く、そういう時にはまず表紙や目次の次あたりにある「あらすじ」を確認する習慣が自然と身についていました。
小学校中学年あたりになると母が借りてくる本を待つだけでは飽き足らず自分で本を借りに行くようになり、毎週決まった時間に近所にやってくる移動図書館に通っていました。その頃は漫画を主に借りて読んでいましたが、それと同時に読書家の友達が薦めてくれた小説がとても面白かったので小説も読むようになりました。
このとき友達が貸してくれた小説の1つが石崎洋司さんの「黒魔女さんが通る!!」でした。タイトルにある通り主人公のチョコちゃんは見習い黒魔女さんで、その師匠であるギュービッド様を中心とした癖のある黒魔女さんや、チョコちゃんが所属している5年1組のクラスメイトなど個性豊かなキャラクターがたくさん登場します。魔女や魔法といったファンタジーな要素がメインにもかかわらず主人公は1人でオカルトなどの本を読むのが好きな普通の小学生なので、話の主軸は私が普段生活しているのとなんの変りもない日常が舞台となっていることから小学生でも入り込みやすいストーリー展開でとても読みやすい作品でした。個人的には挿絵も可愛くて、お話もチョコちゃんの視点で進んでいくのですが頻繁に出てくるチョコちゃんのツッコミが面白くてとても好きでした。この小説を友達が貸してくれたからこそ読書の楽しさを知り、他にも本を読んでみようと思ったきっかけになった作品なので、時が経ち小説の対象年齢を外れてすっかり新刊は読まなくなっても思い入れが強い作品です。今度自分が読んでいない巻も読んでみようと思います。
黒魔女さんが通るはシリーズもので当時でも既に10数巻発刊されており、現在(2022年7月時点)では通算37巻発売されているようです。本編以外にも別キャラ視点のお話のシリーズも含めるとさらに多くなるようですが、詳しくは公式ホームページをご確認ください。青い鳥文庫といえば小学生をメインターゲットにしている文庫ですが、読書が苦手な方でも手軽に読むことが出来るので気になった方はぜひ手に取ってみてください。
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そして私の人生を変えた読書体験で欠かせない作品がもう1つあります。それが上橋菜穂子さんの「獣の奏者」シリーズです。こちらは2009年にNHKで「獣の奏者 エリン」というタイトルでアニメが放送されていました、我が家は幼少期に頻繁にEテレを観ていたのでその流れで何気なく見始めたのですが、当時小学3年生だった私の心に強く焼き付いた作品でした。特に印象的だったのは決して人には慣れないはずの獣リランの背に主人公のエリンが乗って空を飛ぶシーンです、リランの羽は真っ白で光に照らされるとキラキラと輝くのと、エリンの髪と瞳は緑色だったことが記憶に残っていました。アニメを観ていた当時はただ単にお話として楽しんでいましたが、その2年後に本屋さんで原作の小説を見つけたときは嬉しさのあまりとてつもない興奮を覚えました。原作小説は講談社から出版されているハードカバー本で挿絵も無く、お値段も分厚さもこれまで慣れ親しんでいた青い鳥文庫の3倍くらいあり、小学生の自分には読めないかもと一度は敬遠しましたが、あの面白かったアニメをもう一度読みたいと思い、誕生日やクリスマスといったイベント事を機に買ってもらいました。(当時私はお小遣い制度が無かったので欲しい小説は祖父母などに、誕生日やクリスマスといったイベントに乗じてプレゼントとして買ってもらっていました。)
最初に1巻を買ってもらい読んでみるとそれまではなんとなくでしか残っていなかった獣の奏者エリンのシーンを断片的に思い出しつつ、アニメを観ていた当時よりも年齢を重ねたことで理解できる部分が増えており、こんな話だったのか!と驚きました。物語自体は王獣(おうじゅう)と闘蛇(とうだ)という圧倒的な力を持つ架空の生き物が一国の権威を象徴している世界で、ただこの世に生を受けた生き物でしかない両者の生が人間の国を治めたいという思惑で歪められていることに疑問を持ち、その歪みを取り払おうとエリンは模索し葛藤し続けるお話です。特に物静かで何事にも疑問を持ったら深く考える性格のエリンにどこか自分と似ているものを感じ、生き物がなぜそのようにして存在するのかを知りたいという好奇心に深く共感しながら物語にのめり込んでいきました。読んでいた当時、自己肯定感がどん底で同級生にも上手く馴染むことができず、人間という生き物が集団で暮らす学校という場所で過ごすうちに人間って不思議だなぁと感じることが多かった私はエリンと一緒に生き物とは何か、生きる事とはどういう事かを幼いながらに真剣に考えていました。私自身の小さなことが気になってしまう性格で困ったことは沢山ありましたが、自分の好奇心に純粋に従って進んでいくエリンの姿勢にとても励まされていました。
1,2巻はアニメでも放送されていた内容ですが、3,4巻はその数年後のお話を書いたもので、あの物語の続きがあったことにもとても感動しました。3,4巻では1,2巻で明らかにされなかった王獣と闘蛇の秘密をエリンが解き明かしていきます。
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ここで小説の内容から少し離れて、この本を読んでいた当時の自分のことについてもう少し書いてみたいと思います。
このシリーズを全て読み終えるまでに小学5年生から中学1年生までの期間を要しました。小中学生の頃、運動も勉強もギリギリ平均かそれより下あたりの能力しか無く、何の変哲もない子どもでしたがそんな私にも私なりの人生の転機が中学2年の終盤あたりに訪れました。それは通っていた学習塾を変えたことでした。それまでも集団塾に通っていましたが、あまりにも消極的すぎる私の性質上、集団塾では理解できなかった部分をろくに質問することができず十分な学習効果を得られていませんでした。当時は特に自己肯定感が低く、いろいろ拗らせていた私には合っていなかっただけなので学習塾が悪い訳ではありません。むしろ気さくで明るい先生方ばかりで通っている分には楽しかったです。個人経営の小規模な学習塾で通っている生徒もほとんど同じ学校の同級生で、アットホームな雰囲気がとても良かったのですが、真剣に勉強に取り組むには私には緊張感が足りないと感じたため、母に他のもう少し厳しい塾に変えて欲しいと伝え知り合いが1人も居ない個別指導塾に通い始めました。
私が通っていた個別塾は教科別の担当制で、その塾で出会った先生が私の勉強に対する固定概念を変えてくれました。個別なので私がつまずいた部分を先生に直接聞くことが出来る上に授業のペースも私の理解度に合わせて進んでいきます、そのおかげでずっと引っかかっていた部分を解決した上で次に進めるため、わからなかった事が理解できるようになる喜びを知ることができました。それまで自分は勉強ができないと思い込んでいましたが、ただ単に理解できていなかっただけだという事を知り、新しいことを学ぶことの楽しさがわかるにつれて前向きに勉強に取り組めるようになりました。そして最終的に進路決定する段階で生物学をもっと学びたいという思いに気が付き、無事に大学に進学することを選べました。今思えば「生き物の仕組みについてもっと知りたい」という気持ちの原点は、エリンに出会ったことだと思います。読書に出会えたことも、獣の奏者に出会ったことも、自分の性格にあった塾に通えて自分の能力を伸ばすチャンスを得られたことも全て偶然と幸運の積み重ねだったと思います。(特に裕福ではない経済状況にも関わらず、費用の高い個別塾に高3まで通わせてもらえたことは本当に感謝してもしきれません。)現在も大学院で学ぶチャンスを得られたことも、私の人生の数少ない幸運だと思うので限られたこの期間を最大限に生かせられたらと改めて思いました。
本編とはかなりかけ離れた長い身の上話になりましたが、人生を変えた読書体験を振り返ることができて満足しています。
これを読んでいる皆さんも良ければコメント欄等で好きな小説やそれに関わるエピソード等教えて頂けると嬉しいです。