償い(モノローグ)
※ 愛について。
ーー 喫茶店。慌しく入って来て、席に着く。
なんだよ!(周囲を気にして声を抑えながら、)営業所にまで電話かけて来んなよ!こっちだって忙しいんだから、携帯出られないこともあるよ。金か?え?また金か?ヒロキの養育費なら毎月ちゃんと振り込んでるだろ。
知らねーよ、んなことは!何回店クビになってんだよ。だいたいリツコ、お前に水商売は無理だよ。オッサン相手にニコッと笑ってお酌できるような、そんな女じゃないだろ。お前はもっと古本屋だとか骨董屋だとか、そういうあんまり人と話さなくてもいいような……。
金が要るのはわかる。だけど、俺だって歩合で働いてるんだぞ。お客が乗りゃあそれなりになるけど、今月なんて繁華街もほとんど人通りないぞ。
パチンコくらいいいだろ!そんなには使ってない。
ほんとだよ!ちゃんと行く日と時間決めてる。
煙草は少し増えた。
仕方ないだろ!金なんてなあ!……泣くなよ……ったく。
(店員に、気まずそうに、)ああ、すみません。ブレンドお願いします。
ーー リツコを見る。
わかったよ。俺の言い方が悪かったよ。だから一回落ち着こう。
(独り言で)なんで俺が謝ってんだよ……(さらに泣くリツコに)ああ、わかった。わかった。わかった。
ーー 溜め息をつく。
いくら必要なの?
ーー 小刻みに頷く。(※ 頷きながら、「無意識に煙草を咥えるが、店内禁煙に気付き仕舞う」という表現をしても良い。)
ーー 間。
ヒロキ、ちゃんと食べてるか?
そっか。ニンジンは?
(小刻みに頷いて、)まだサッカー行ってるのか?
そっか。
いや、いいよ。
いいよ、写真は。見なくたっていい。
ーー 机に置かれたスマホを見る。手に取る。スクロールして、次々に写真を見る。
ーー ふいに笑う。
笑っちゃうくらい俺の子だな。ひょうきんなポーズ取って、目元のあたりなんか……。
(リツコを見て、)知らなかったんだよな?
ーー 小刻みに頷く。
そうだよな。俺だって、全然気づかなかったよ。だって、そうだろ!どっからどう見たって俺の子じゃないか!あんなに一緒に過ごしたじゃないか!医者の奴、血液の異常だって?なんてことなかったじゃないか!検査なんかしなきゃさ……いや、検査してよかった。ほんとに、なんともなくてよかった。皮肉だよ。それで遺伝的には俺の子じゃないって……俺、未だにあの藪医者……わかってるよ。
(コーヒーを持って来た店員に、)そこ、置いておいてください。
(リツコに、)ヒロキには、まだ言ってないんだな。……そっか。
ーー 間。
戻って来ないか?
違うよ、リツコ、お前のためじゃない。ヒロキにとって良いことなのかもわからない。これは、完全に俺のエゴだ。
なあ、リツコ。お前、出て行く時、俺に申し訳ないって言ったよな。
ヒロキが生まれてからの九年間のこと、本当にすまなく思ってるなら、俺とヒロキがもう一度親子になれるまで側で見守るのが、お前の償いじゃないか?
ーー 終 ーー
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