コンプレックス

ユングによれば、コンプレックスは否定的なものだけではないそうです。

ユングによると、前述したような、自我によって受け入れがたかったため抑圧された経験と、その個人の無意識の中に内在して、いまだかつて意識化されたことのない内容との二種類に分けられる。

『ユング心理学入門』(河合隼雄)P.70

前者の「自我によって受け入れがたかった抑圧された経験」は、否定的な内容ですが、後者はそうではありません。「つねに否定的な感じのみをもつことがないように強調したいのが、ユングの狙いであるとみるべきであろう」と河合は書いています。

フロイトは、抑圧されたもの、欲望(特に性的)との関連の深いものを考えていますが、ユングは、それだけではないとしています。

我々は、自我によって、外界を認識し、判断し、対処しています。この自我の動きを阻害するものが、コンプレックスです。

このようにして、多くの心的内容が同一の感情によって一つのまとまりをかたちづくり、これに関係する外的な刺激が与えられると、その心的内容の一群が意識の制御をこえて活動する現象を認め、無意識内に存在して、何らかの感情によって結ばれている心的内容の集まりを、ユングはコンプレックスと名付けた。

『ユング心理学入門』(河合隼雄)P.68

ユングは、もともと「感情によって色づけられた複合体」と呼んでいたそうです。「同一の感情」というのは、過去のトラウマのようなもので、これに紐づけられて、いろんなものの意味が紐づけられてしまいます。死に遭遇した後に、死への悲しみが、白を死装束、黒を喪服と連想させる、といった具合です。これは、本人の無意識に引き起こされています。この、連想される内容の集まりをコンプレックスと言うのです(この説明で合ってるか、少し自信がない)。

本来、自我が外的な刺激に対して心的内容を形成しますが、コンプレックスは、この認識において、自我の外から阻害することになる。なので、コンプレックスによって起こった障害は、本人にとっても思いがけない行動になることがあります。

私の理解では、こういうことでしたが、なお、デジタル大辞泉では、次の意味が出てきます。

精神分析用語。情緒的に強く色づけされた表象が複合した心理。抑圧されながら無意識のうちに存在し、現実の行動に影響力をもつ。マザーコンプレックス・エディプスコンプレックス・インフェリオリティーコンプレックスなど。複合感情。複合観念。
日本では特に、インフェリオリティーコンプレックス(劣等感)の意味で使われる。「強いコンプレックスを抱く」
複雑に関連していること。複合的であること。複合体。「シネマコンプレックス」

デジタル大辞泉

1番がユングの言うコンプレックスでしょう。ただ、日常、一般的に使われているのは、2番、劣等感という意味でしょう。1番のひとつの類型として存在するようです。

まあ、日常用語と専門用語の乖離ですね。

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