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名前も知らない誰かにゴチ

つい先日、ふらりと入った居酒屋で1人飲みした。ふらりと居酒屋へ…。自粛規制が解除になり、このなんてことなかったはずの日常の喜びを静かにかみしめながらの1人飲みだ。まずは生!生ビールをお願いします。お通しはキャベツの葉っぱに肉みそをつけて食べるやつ。居酒屋ではよくあるやーつ。でも家ではこんな風に食べないから、居酒屋っぽさにガッツポーズだ(もちろん心の中で)。旬の姫筍の炭火焼きをおすすめメニューに見つけてすかさず注文。危ない、危ない。今日来なかったら、食べそこなうところだった。居酒屋で出合わなければ、知らずに人生素通りしてしまった旬の味わいはたっくさんある。

にんにくしょう油漬けの焼き鳥に酎ハイレモンが合うね。でも今日はこれを飲んだら帰るつもり。ほんとはもっとぼ~っと飲みたいのだが、ウキウキしちゃって『孤独のグルメ』ばりに心の口数が多い。と、ふとカウンターの真上のチラシに気が付いた。「#ゴチですプロジェクト」とある。シンプルなデザインの中に控えめに書かれた「学生たちが、腹ペコだ」というコピーに目が留まった。なんでも、コロナの影響でバイトがなくなった、仕送りが少なくなった、帰省ができないなど困っている学生さんたちが多い。仙台は学生の街だ。お腹がすいているなら大人がゴチしようではないか!というものらしい。仕組みは、店にある貯金箱に、ひと口500円~をチャリンと入れるだけ。利用したい学生さんは申し出ればよし。簡単な仕組みだ。仙台市内の飲食店16店舗で5月27日にスタートした。

イタリアのカフェでは、1杯分のコーヒー(エスプレッソかな?)を注文して2杯分を支払う仕組みがあると聞いたことがある。お金がないけどコーヒーを飲みたい誰かのために、ちょっと余裕のある人が払っておく粋な仕組みだ。カフェでコーヒーを飲むことを大切にしている文化ならではだろう。
もうひとつ、思い出した。府中にある「未来食堂」では、ご飯を食べたい人は店で働いて、まかないとして食べるというお金を介さない仕組みがあって、さらにその働いて得た食べる権利を誰かに譲ってもいい。チケットみたいにして店の掲示板に置いておくと、お腹のすいた誰かが利用できる。これって直接おごられるより、気を使わないですむ。

お店だって、この厳しい状況下では少なからず自分たちを直接支援して欲しいと思ったはずだ。飲食店は人手不足の中、学生のバイトさんに助けられているということもあって、学生支援を打ち出したのだろう。昔に比べて若者がお酒を飲まなくなった背景もある中、こんな状況だからこそ、居酒屋に来てお腹と心を満たしてほしい。これって居酒屋さんにとっても、将来のお客さんを救うことになると思う。
じゃあゴチした大人はというと、コロナ禍でよくわかった。日常にささやかな喜びを提供してくれる居酒屋さんの存在。そのお店と一緒に若い飲み手を育て、外飲みの楽しさ、居酒屋という文化を繋いでいく役目だ。テイクアウトや先払いチケットなどで飲食店存続を応援したいっていっても胃袋は一つ。限界があるなぁ。私自身、そんな風に思っていたところだった。

学生も、ラッキーっていうだけじゃないんじゃないか。若い時分、名前も知らない誰かから、お腹いっぱい食べていいよとやさしくされた経験は、社会や人を信じられる、素敵な大人になるんじゃないかなとも思う。

この日はプロジェクトがスタートして2週間くらいだったが、店主にきくとこの店では8000円くらい集まっているとか。「言い出しにくい学生さんもいるはずだから、全額でなくても割り引きとか気軽に利用できるよういろいろ考えている」とのこと。「仙台でこれが文化になったらいいですね」というと、「コロナで大変だけど、飲食店の仲間たちの関係がぐっと深まっているんだよね。悪いことばかりじゃない」と。
なんか、しみるな~。私もチャリンと500円。で、やっぱり(?)ここは日本酒を追加してしみじみと飲む。気持ちが温かくなった夜だった。

#Nサロン岸田ゼミ #飲食店支援#ゴチですプロジェクト#学生支援#仙台







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