見出し画像

#10 キノコ

「それじゃ、行こうか」

軽トラを下り、山に入る

軽トラを下りた小堺眞一さんがカゴを手に歩き始めた。向かった先はスーパーマーケットではなく、山の小道だ。カゴの中には財布ではなく、鎌が入っている。

「山菜はさぁ、行けば何かしらあるから。でもキノコはさ、ない時は何もないんだ」。

そう言ってカゴから取り出した鎌で地面を覆う落ち葉を払いながら、注意深く歩いている。

早速、ハタケシメジを発見

「おっ、あった!」

鎌の先にあるのは、ハタケシメジだ。

「これは煮物とか吸い物にして食べるとさ、美味しいんだよ。」

「ほら、そこにもあった。」

ハタケシメジを次々と採っていく

小堺さんが次々とキノコを採ってゆく。どうやら今日は、キノコのある日に当たったようだ。

「キノコはお好きなんですか?」と小堺さんに尋ねると、笑いながら答えてくれた。

「俺はなんでもやるから。キノコも山菜もやるし、自然薯(じねんじょ)だって掘るし。だって、これしかないんだもん、ここは」

なんと豊かな山の恵みだろう。食料自給率がほぼゼロな都市で育った僕としては、「これしかないんだもん、ここは」という言葉が、「ここには、こんなにあるんだもん」と聞こえてしまう。山では財布なんて必要ない。

小堺さんは子どものころからずっと、当たり前のようにキノコを採ってきた。ただ、採りつづけてきたからこそ、山のある変化を感じるという。

「昔と違ってさ、クマとかイノシシとかいるからね。20年くらい前はそんなのいなかったんだ。だから最近はやたらに(山の奥へ)入られないんだ。奥へ行くときは爆竹鳴らして入るの。」

キノコの季節は紅葉の季節でもある。小堺さんが山の景色の一部となる

小堺さん自身、熊に遭遇したことはないけれど、糞はよく見かけるという。

ハタケシメジを採った後は、場所を代えて、今度はモグラを探す。モグラとは、ナラタケのことで、十日町市内では「アマンダレ」とも呼ばれている。

こちらはモグラ。ヒラタケ、アマンダレとも呼ばれる

小堺さんも「モグラのけんちん汁が1番だな。あれが1番美味いな」というほどのキノコだ。

「山の奥に入りゃ、いいってもんじゃないんだ。(キノコは)道のふちにだってあるんだよ。」

笑いながら、こちらも狙いをつけた場所で次々とモグラを見つけては採っていく。山は、こうした知識や経験があってこそ、恵み豊かな山となる。僕が山へ入ったところで、その恩恵は受けられないだろう。

群生しているとつい嬉しくなる

僕も今年、ご近所さんにいただいてモグラを食べた。「甘辛く炒めて七味でもかければ美味いよ」と言われた通りに(妻が)調理した。小堺さんからもハタケシメジを少しいただいて、クリームシチューにした。

どれも肉厚で味が濃く、最高のご馳走だった。

小堺眞一さん(75)

そんなご馳走も、小堺さんに言わせれば「今の時期はこういうもんだ」となる。季節ごとに旬のものがあって、それを当然のように食べる。キノコで言えば、マイタケの時期はすでに終わっていて、これからはナメコなのだとか。

やはり、こんな感覚こそ真の贅沢なんだな、と改めて思う。

ちなみに採れたキノコは瓶詰めにして冬の間の保存食にもなるという。

瓶詰めされたモグラ。

『究極の雪国とおかまち ―真説!豪雪地ものがたりー』 世界有数の豪雪地として知られる十日町市。ここには豪雪に育まれた「着もの・食べもの・建もの・まつり・美」のものがたりが揃っている。人々は雪と闘いながらもその恵みを活かして暮らし、雪の中に楽しみさえも見出してこの地に住み継いできた。ここは真の豪雪地ものがたりを体感できる究極の雪国である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?