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#14 日本酒

十日町市の松乃井酒造場でこの冬仕込まれたばかりの「しぼりたて生」を口に含む。ふくよかな香りが広がり、フルーティーなフレーバーが残るすっきりとした日本酒だ。
 
今から8年ほど前、横浜市から十日町市への移住を決めた。そのころ漠然とだが、移住したら浴びるように日本酒を飲むのだろうな、と思っていた。
 
ところが、十日町市に移住して2週間も経たないうちに、妻が新しい命を宿していることが分かった。とにかく、十日町での暮らしは飲兵衛ライフではなく、子育てライフへとシフトしなくてはならなくなった。
 
元々酔うとすぐに眠たくなるし、独りで晩酌してもつまらないし…。子どもが産まれると、夕食は早めにすませ、息子を風呂に入れてと、夜はとても忙しい時間となった。その分、自分で育てた白米だけはたらふく食べ、体重が一気に増加したけれど。

松乃井酒造場の杜氏でもある古澤裕常務

十日町市で生まれた息子は今年、小学校1年生になった。そんなタイミングでこのブログを執筆することになり、松乃井酒造場さんの新酒の仕込みを見学させてもらった。そして、帰りに酒を一本買った。クリスマスの夜に妻と一緒に飲んだ。年越しでも飲んだ。8年間、あまり酒を飲まずにいた乾いた身体に、それはじんわりと染みこんでいった。

精米から自社でする

松乃井酒造場は十日町市に2つある酒蔵の1つだ。「新潟県内では小さな方ですよ」と同社の杜氏でもある古澤裕常務は謙遜するが、その分、手仕事を増やし、小ロットで丁寧な酒造りが信条だ。

酒米を蒸す
蒸した酒米を冷ます

新潟県の日本酒と言えば、「淡麗辛口」と表現されることが多いそうなのだが、古澤さんが常務になって、酒の作り方を変えた。より旨味を残し味を感じられるようにした。今では、松乃井酒造の酒と言えば、「淡麗旨口」と表現されるようになったという。
 
今季の入蔵は昨年の10月17日だった。古澤さんにとって1年の始まりでもある。昨夏は雨が少なく気温も高かったせいで、どの米農家も米づくりに苦しんだ。松乃井酒造場でも今季の酒米は過去のデータが参考にならず、新たにデータを作り直した。例年と同じ味が出せるよう仕込みには細心の注意を払った。

蒸した酒米に麹菌をふりかけ、麹をつくる

温度が高く保たれた部屋の中で、蒸した米に麹菌をふりかけ、男たちが混ぜ合わせる。米麹の質が日本酒作りの味を左右するという。
 
十日町市出身の蔵人・北村公太郎さんは夏場、米農家をしている。農作業のない冬場は、除雪やスキー場などで職をえる人が多い中で、「一年中、米と関わっていたいから」と冬は酒蔵に来る。北村さんが育てた有機栽培の酒米は自らの手で「純米大吟醸  松乃井」へと姿を変える。ひとつひとつの物語が酒の味を豊かにしてゆく。

麹菌を酒米に混ぜこむ

キャンプが趣味の古澤さんは、アウトドアのイベントにも積極的に参加し、酒を振る舞う。その輪もどんどん広がっているという。
 
十日町市ではここ数年、雪上キャンプが盛んだ。そう言えば、以前、ある杜氏さんが「日本酒に1番合うのは湯豆腐だ」と言っていたことを思い出した。十日町産の大豆で作られた豆腐を湯豆腐にして、焚き火で熱燗にした日本酒をクイっとなんて最高である。

松乃井の酒

「日本酒に合う酒のつまみはなんですか?」と、晩酌好きの蔵人のみなさんに聞いてみた。
 
「なんでも合うからな。あるもんで飲めちゃうから」
「新潟のおかずならなんでも合う!」
「夏は枝豆をザルで!」
「いい酒ほど何もいらない。(酒自体に)甘味があって、香りがあるから」
 
あぁ、飲みたくなってきた。

『究極の雪国とおかまち ―真説!豪雪地ものがたりー』 世界有数の豪雪地として知られる十日町市。ここには豪雪に育まれた「着もの・食べもの・建もの・まつり・美」のものがたりが揃っている。人々は雪と闘いながらもその恵みを活かして暮らし、雪の中に楽しみさえも見出してこの地に住み継いできた。ここは真の豪雪地ものがたりを体感できる究極の雪国である。

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