見出し画像

Un Faithful

概要


私の夢で描かれていた物語をもとに小説をかいてみました。実体験に基づかない、不完全なドラマのような夢は私に完成させたい気持ちを産み出したので、一度書いてみることにしました。まだ物語は始まったばかりで、続きがかけたらいいですね。できたら最後まで。小説を書くのは初めてなので稚拙ですが読んでいただけたら嬉しいです。

本編


 ジョーの働く台湾料理店はウェイトレスが辞めていって、サービスの質が明らかに落ちてもお客さんの数は減らなかった。
大体が常連かその連れだった。
ウェイトレスが辞めていくのは、ジョーの思わせぶりな言動のせいだった。ジョーの煮え切らない態度に怒って辞めるか、ジョーの言動とは裏腹に全くその気がないことに赤い顔で泣いて飛ぶかのどちらかだった。
店長は状況を理解して、女のウェイトレスを雇うのを辞めたけれど、新しく雇われたウエイターは私の昔の親友のシュウだった。
久しぶりにシュウに再会したとき、私はその日辞めるウェイトレスに生卵を投げつけられた後で、顔面で砕けた殻から飛び出た新鮮じゃない黄身が前髪にべっとりだった。シュウと再会するならこれくらい私が惨めな目にあってる方が良かった。昔はよくお互い惨めな目にあってはお互いを笑い合ってたから。最後、シュウから絶好を告げられたときに惨めな目にあってたのはシュウの方だった。だから、なんとなく、何年越しかにおあいこという雰囲気になって、シュウは大袈裟に私を笑ってすぐに拭くものを持ってきてくれた。
だけどシュウが拭くものを取りに行ってる間にジョーがこの惨めな私に気付いて、着ていたTシャツで私を惨めにしてる生卵を綺麗にした。
戻ってきたシュウがそれを目撃して、私とシュウは仲直りできなかった。
シュウは雇われたこの台湾料理店のウエイターとして働いて、私はその隣の古着屋で店員として働いていた。
民家と古着屋と美容サロンと色んな国の料理店が代わりばんこに並んでるような中崎町の、迷路みたいになってる路地の行き止まり、袋小路。一番奥に私の働く古着屋があって、その隣、道路寄りの方に台湾料理店があった。
小籠包がすごく美味しくて古着屋を閉めた後、オーナーの涼子さんと一緒に働くまなみとよく夜ご飯を食べる。
ジョーはそこでテンチョウこと台湾人の店長と一緒に厨房を切り盛りしていた。アルバイトで働くウェイトレスの女の子は、お店が開く前の仕込みの間にジョーに思わせぶりされて、意地の悪いお客に泣かされた後、またジョーに思わせぶりされて、すっかりのぼせて顔が赤くなる。そしてあるとき、お店が終わって帰るときに、私と手を繋いで帰るジョーを目撃する。
そうして私に生卵とか刻んだニラとかニンニクとか、ピータンを投げつけて辞めていく。



『リーにはわからないでしょ!?ろくに恋したこともないんだから!好きなんだよ。簡単に別れられないくらいに!』
一語一句違わず、あのときシュウに言われた言葉を言われた。夢を見た。だけれど、現実世界で叫んでたのはシュウじゃなくて私だった。
気付いたらまなみの家だった。
「随分と酩酊なされてるのね。はやくジョーくん迎えにきてくれないかしら。」
この土地に似合わないくらい丁寧な言葉遣いで、私を見下げるまなみは本当に呆れた顔をしていた。
「私、今、寝言、言ってなかった?」
ぶーんとした鈍い頭の中で夢の中で吐いた言葉だけが鮮やかだった。
「あぁ、はっきり言ってましたよ。ツヨシの記憶にちゃんと残してほしい名言がね。…だめだね。もう忘れてる。」
にこやかなツヨシさんが穏やかな目でこっちを見ている。
「あー恥ずかしいなあ。ツヨシさんの記憶に残すならもっといい詩書くから。今の言葉忘れてね、まなみ。」
「善処します。お水は要りますか?」
「ああ、うん。ありがとう。まなみってさ、この人だめだって思うと言葉遣いがより丁寧になるね。」
「確かに今リーのこと、この人だめだなって思ってますねえ。」
「だめだなって思ったままでいいからこれからも私のお世話してね。」
「善処します。」
「ありがとう。わたしまなみのこと好きよ。」
「ありがとう。酔っ払いさん。」
私は綺麗に磨かれたグラスを受け取って冷たい水を飲んだ。だいぶ酔いがまわっていたせいか、その水を顔面にぶちまけられたような、鋭く冷たい痛みが眉間を襲った。

Un faithful

#恋愛小説部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?