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兵法『孫子』ー君は戦争を知っているか?(18)

 『孫子』「勢編」の3回目です。
 「勢編」のここまでの「奇正」に関する部分は、最古の竹簡本の「形編」にある「善なる者は、奇勝無し」と矛盾を起こします。そのため講談社学術文庫で浅野裕一氏は、それを説明するのに、解説にページを割いています。
 しかし、ここからは、章題通り「勢」について述べた部分になります。

【本文書き下し】
 水の疾くして石を漂はす者は、勢なり。
 鷙鳥の撃ちて毀折に至る者は、節なり。
 是の故、善く戦ふ者は、其の勢は険にして、其の節は短なり。勢は弩をひくがごとく、節は機を発するがごとし。

 紛紛紜紜(ふんぷんうんうん)、闘乱しても乱るべからず。渾渾沌沌、形円くとも敗るべからず。
 乱は治より生じ、怯は勇より生じ、弱は強より生ず。治乱は数なり。勇怯は勢なり。強弱は形なり。

【現代語訳】
 水が速く流れて石を流すものは、勢いである。
 鷙鳥(ワシやタカ)が(獲物を)攻撃して骨を壊し折るのは、節(=区切り、切り替え)である。
 このため、上手く戦う者は、その勢いは急で激しく、その切り替えは短い。勢いは弩(石弓とも。バネ仕掛けの強力な弓)を引くようで、節(切り替え)は機(=弩の引き金)を発するようなものである。

 非常に紛紜(=ゴタゴタした様子)として戦い乱れても、乱れてはいけない。渾沌として形は円になっても、敗けてはならない。
 反乱は統治から生まれ、怯えは勇気から生まれ、弱さは強さから生まれる。反乱と統治は「数(勢編の最初の「分数」)」である。勇気と怯えは「勢」である。強さ弱さは「形(「形編」でいう軍の態勢)」である。

☆評釈☆
 前半は自然物や動物を例えにして、「勢」と「節」を説明している。
 後半は、対義の字を並べて、ある意味、美文である。
 この中で、反乱は統治から生まれるというのは分かる気がする。確かに、あまりに統制が過ぎると反乱が起きる。
 「怯えは勇気から生まれる」や「弱さは強さから生まれる」は、考えようとすると、こじつけになりそうだ。
 その後の「勇気と怯えは「勢」である」は、勢いの有無で勇気や怯えが出る、とすれば理解できる。「強さ弱さは「形」である」も、形を「軍の態勢」と置き換えて、軍の態勢の有無で強さ弱さが生まれる、とすれば、わからなくもない。

 とすれば、勇気は怯えから生まれる、とか強さは弱さから生まれる、とか言えば、説明できるかも知れない。……まるで戦闘物のアニメの登場人物みたいだ。
 だが、それでいいのだろうか。本文からいうと順序が逆だ。

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