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「待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。」③

2021年6月25日(金)、東京某所で開催された「待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。」。アイドルグループ・会心ノ一撃のメンバーにして、メインソングライターでもある待雪アイリさんが、これまでに制作してきた楽曲の作詞術や制作秘話、さらには2021年1月リリースの会心ノ一撃初のオリジナルフルアルバム『シガテラ』の全曲解説まで、その名のとおり、待雪さんが“自分の詞<ことば>”について大いに語る配信イベントです。
 
ここでは、そのテキスト版をお届け。2時間のイベント中に垣間見えた待雪さんの詞作に対する熱い想いから、すっとこどっこいな横顔まで、その表情と詞<ことば>の数々を楽しんでいただけるとうれしいです。
 
構成:成松哲



前回→「待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。」②

はじめから読む→「待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。」①

■マサルのシガテラを喰らい、4文字作詞家にダマされる

 

——作詞術の話に戻りたいんですけど、たいていの曲でタイトルが歌詞の内容にモロに寄り添っていますよね? 「blank」には〈白紙〉というフレーズが出てくるし、「stargazer」にも〈星を見てる〉とタイトル直訳みたいなフレーズがある。
 
待雪 (iPadを繰りながら)あっ、タイトルについてはメモってきたんだった!
 
——ではそれをお聞かせください。
 
待雪 (棒読みで)「『blank』『パステル』『twilight』『スコープ』『Ting-A-Ling』『melt』『the proof』は作詞が先なのです」。
 
——先に詞を書いて、あとからタイトルを付けた、と。
 
待雪 だから完成した歌詞を読み直してみて「じゃあこういうタイトルでいきますか」って決めたものなんですけど、「Heal;o」(2018年12月発表)や「歪」(2019年5月発表)は歌詞を書きながらタイトルを考えた同時進行型で、「stargazer」はリーダーが曲を作るときにタイトルと設定みたいなものを考えていたみたいです。
 
リーダー 「夢見がちな人の話」っていうね。
 
待雪 そういうちょっとマイナスなイメージを伝えられて書いた歌詞なんです。あと『シガテラ』の表題曲もリーダーが先にタイトルを決めてましたよね。【素潜り漁師】マサルっていうYouTuberのことらしいんですけど。
 
——誰っすか、それ?
 
リーダー 「シガテラ」についてはすごく語りたくて、これは毒の名前なんです。
 
——古谷実のマンガのタイトルにもなってますね。
 
リーダー ですね。毒を持ったプランクトンを食った魚をまた別の魚に食ってというループがどんどん繰り返されることで、最後に食った魚の中に強烈な毒が生体濃縮される。その毒のことをシガテラ毒っていうんですけど、その魚を何回も食べては大変なことになっているのが……。
 
——マサルさん?
 
リーダー はい。大好きなYouTuberです。
 
——すみません。マサルさんには「1回当たったら学習しようよ」「2回も3回も食うなよ」というアドバイスを差し上げたいのですが……。
 
待雪 そりゃそうだ(笑)。
 
リーダー でもそれってある意味すごくロマンチックじゃないですか。毒を取り込んで取り込んでということを繰り返していった結果、自分が毒に侵されてしまう。だからマサルさんの存在を知ったとき「これ、曲にしたい!」「アイリ頼んだ!」となって完成したのが「シガテラ」なんです。
 
待雪 なので、メンバーそれぞれが抱えている過去……私であれば第1期の会心ノ一撃を終了させて始めたスコールがあんまりうまくいかなかったこととか(笑)、そういうみんなが持っている毒を重ね合わせた上でロマンチックな歌詞にすればいいのかな? と思って書きました。
 
リーダー 「シガテラ」を作っていたときはメンバーが5人いたんですけど、それぞれ小さな毒を抱えた人間の集まりだったから、その会心ノ一撃の状態とシガテラという存在がうまくリンクしてできあがった曲ですね。
 
——じゃあ「待雪アイリはなぜ詞を書くのか?」ではなく「リーダーはなぜ書かないのか?」について聞きたいんですけど、「シガテラ」のようにご自身が作曲している段階で歌うべきことが明確に見えている曲も少なくないんですよね?
 
リーダー はい。
 
——だったら自分で書きましょう(笑)。
 
リーダー いや、ぼく、1日かけて1行書くのがやっとっていうことがザラなんですよ。
 
——でも会心ノ一撃の初期曲であり、ライブアンセムにもなっている「killer tune」や「jelly fish」「サーチライト」ってリーダー作詞ですよね? つまりアガるリリックを書ける人です。
 
リーダー しかも「killer tune」は珍しく15分で書けたんですよ。
 
——繰り返しますけど「だったら自分で書きましょう」(笑)。
 
リーダー でもアイリのほうがテクニックありますから。
 
待雪 ありがたい(笑)。
 
——確かに待雪さんって押韻にもすごくこだわりますよね。「Heal;o」の1コーラス目のサビの〈止まりそうな〉と〈答え探さず〉の2行の最初の2文字は母音の「o」「a」で踏んでいて、「twilight」の〈七転八倒、知ってんだ〉は「si」と「te」と子音ですらも踏んでいる。特に「Heal;o」は作詞家・待雪アイリの初期作品です。
 
待雪 なんかできちゃった(笑)。
 
——ついうっかりで産むな!(笑)
 
待雪 でも本当に楽しいから踏んでいるだけなんです。たとえば作詞に行き詰まっていたり、リズムのいい言葉が出てこなかったりするアイドルさんがいたとしても私、アドバイスとかできないですもん。なんかできちゃっただけだから(笑)。歌詞を書いている途中で「踏んでみてえなあ、ここ」ってなったから韻を踏んでみたとか、歌いながら作詞をしている最中に「この高音で伸ばす音は『a』が母音の文字にしたほうがラクそうだな」みたいなことをなんとなく考えてそうしてみた、とかばっかりなので。
 
——それがテクいんですよ。ただ作文するのではなく、音声学・音韻論みたいなものまで視野に入れて作詞しているんだから。
 
待雪 でもなんでできるのかよくわからない(笑)。
 
——最新作『シガテラ』では「twilight」以外にも「歪」で〈夜〉と〈僕〉で踏んでいるし、表題曲では〈何万回〉と〈Never die.〉で踏んでいます。
 
待雪 「なんかハマリがいいな」「同じ音を繰り返すのって楽しいな」ということでやってるだけなので。ただ確かに踏みまくっている自覚はあります。
 
——〈何万回〉と〈Never die.〉なんて英語的にも正しいですしね。ぼくは語学に明るくないから最初は〈なん・まん・かい〉という日本語の字切りを揃えるために本来の英語の音節を無視して〈ネ・ヴァー・ダイ〉と日本語英語的に歌っているのかと思っていたんだけど……。
 
待雪 違いますね。
 
——辞書を引いてみると実は「never」は2音節の単語。だから「ネ」と「ヴァー」で分かつことは英語的にさほど不自然ではない。
 
待雪 ありがとうございます。
 
——いや、お礼を言われる筋合いはなくて。そうやってある種科学的に作詞をしているんだろうなあ、と思っていたのに「なんかできた」とか言い出したから、今「こいつ、ちょっと殴りたいな」と思っているところですし(笑)。
 
待雪 じゃあ、すみません。実はそこまで理詰めで考えてはいないっす(笑)。
 
——「歪」のDメロを〈会いたい〉=〈会い〉と〈たい〉で踏む4文字だけで押し切るのもすごく印象的だし「考えてるなあ」「仕組んでるなあ」って感じだったんですけどね。
 
待雪 あっ、「歪」の〈会いたい〉だけはリーダーの作詞なんです。デモの中に〈会いたい〉だけ入ってました。で、「歪な恋愛観の歌にしてください」ってオーダーされたからそのとおり作詞したら「クレジットは連名でいい?」と聞かれるという。4文字のくせに(笑)。
 
リーダー 4文字だけ書いて作詞家ヅラしてみました(笑)。
 
待雪 まあ曲を書いてくださる方のおっしゃることですし……。
 
リーダー これだから会心のメンバーは操りやすい(笑)。
 
待雪 私たちダマされてるのかなあ……。
 
 

■待雪アイリは暗くないし、怒っていない(あんまり)

 

——そういえば歌詞の中の待雪さんって基本的になにかにムカついていたり、苛立ったりしてません?
 
待雪 どうしてそう思いました?
 
——「サビのギターって、これ何本重ねてる?」って感じのシューゲイザー的手つきの楽曲のタイトルが「stargazer」なのがまずシャレが効いている。靴、眺めてないで、星を眺めてるし。そのくせ〈無重力で遊ぶ〉と歌っておきながら、主人公はあくまで「stargazer」。地面から星を眺めているだけの人なんですよね。宇宙になんか行けちゃいない。
 
待雪 ああ。さっき話したとおり、これは夢見がちな人、それもクソみたいな人間の歌なので。「このクソ野郎は星を見てなにを思っているんだろうな?」と妄想して書いただけ。リーダーから投げられたお題に対して「stargazer」的な主人公の物語を作って答えているだけなんです。
 
——どの曲においても待雪さんの感情がモロに反映されているわけではない?
 
待雪 そういう曲は「ペルスネージュ」と「シガテラ」くらいかもしれないです。
 
——とはいえ、その2曲とほかの多くの曲に通底することなんだけど、いわゆるアイドルポップらしくないというか……。言葉を選ぶのが面倒くさいのでぶっちゃけますけど、待雪さんの書く詞って暗いですよね?(笑)
 
待雪 ええ、暗いですよ! 基本、暗いことばっか書いてますよ!(笑) でもそれはリーダーが悪いんです!
 
——詞のモチーフをくれるのはリーダーだし。
 
待雪 だから私の歌詞が暗いのはあの人が暗いから!(笑)
 
——リーダーから「恋するフォーチュンクッキー」みたいな、かわいいフィリーソウルが届いたらキラキラのラブソングも書きますもんね(笑)。
 
待雪 そうそうそう! だから私は悪くない。
 
リーダー でも作詞家による歌詞の違いは当然ありますよ。さっきアイリが言っていた「っ!!」って曲は、もともとぼくが会心ノ一撃やthe name "Twice"の前に制作にかかわっていたグループの曲で。そのグループにはthe name "Twice"や会心のメンバーでもあった緋乃愛(あかの・いと)ちゃんがいたんですね。で、あるとき「これから曲を作るんだけど、誰か歌詞を書きたい?」って聞いたら、愛ちゃんともうひとりのメンバーが手を挙げてくれた……つまり、この曲は珍しく詞先だったんですけど、2人が立候補してくれたから、同時に書いてもらって、どちらか一方を採用するかもしれんし、それぞれのフレーズのいいところを摘まみながら1曲に仕上げるかもしれんし、という作り方をしようと思ったんです。でももうひとりの子はすぐに歌詞を上げてきたんですけど、愛ちゃんは2週間経っても全然上げてこなかった。それで事情を聞いたら、もうひとりの子が私より早く歌詞を上げていたからそっちが使われるもんだと思って、書いたものの提出はしなかった、と。「じゃあそれ見せて」っていうことでもらったのが「っ!!」の歌詞なんです。
 
——歌詞の内容はけっこう暗いんだけど、〈例えば明日っ〉〈世界が終わってもっ〉とすべてのフレーズの語尾に促音の「っ」が付いているからなんかかわいらしいし、だから、歌うたびに待雪さんは「キャラと違うかも」と言われてしまう(笑)。
 


リーダー 愛ちゃんはバカだから「っ」って付けばなんでもかわいくなると思ってるんです(笑)。
 
待雪 ヒドい……(笑)。
 
——でも本当にいいバカというか、一面の真実をあっけらかんと言い当てている。
 
リーダー そうなんですよね。「っ」があるだけで全然意味が変わってきますから。ヤツはアイリとは全然違うタイプの作詞家。しかも天才なんです。
 
待雪 間違いなく天才でしたね。
 
——天才だから会心ノ一撃を辞めちゃったんですかね?
 
待雪 それだ! 私は天才じゃないから居座りますけどね(笑)。
 
——そういうアウトプットのしかたにこそ緋乃さんとの違いはあるものの、歌詞を書いているときの待雪さんにも「ここ」や「今」に不満や苛立ちみたいなものはあまりない?
 
待雪 あんまりないですね。基本的に楽しいですよ。ただ解釈は聴く人にぶん投げるという作詞のしかたをしているからこそ、多少聴く方のことを意識することはあります。イヤなことがあったときに聴くとストレス発散できる曲ってあるじゃないですか。そういう曲になればいいな、と思ってあえて強い言葉を使ってみたりとか。だから自分が書いた詞を歌っているときの私は実はそんなことを思ってないっていうことも多いです。
 
 

■難しい漢字とバカっぽい英語の話

 

——メンバー間で歌詞の解釈がズレることも気にならない?
 
待雪 ズレてるのかなあ? 歌詞について直接話を聞いたことがないからズレてるのかはわからないですね。ただ歌詞を渡すたびにメンバーから言われることは1期のときから変わってなくて。「難しい」「覚えられない」「書くスピードが異常」。これで終わりです(笑)。
 
——緋乃さんに聞こうと轟姫さんに聞こうと「なにを言ってるんだかよくわからないこともあるけど、なんか書くの速えぇな」と言われる、と(笑)。
 
待雪 そのたびに「ごめん」って気持ちになってます(笑)。
 
——でもほかのメンバーのおっしゃることもわからんではないというか。待雪さん作詞曲の歌詞カードって黒いんですよ。文字量が多いし、漢字が多い。ライターみたいな商売をやっていると「これは難読漢字だから」とか「『等』って書くと『など』と読ませたいのか『とう』と読ませたいのか読者が迷うよな」って理由で漢字をひらがなに開くことも珍しくないんだけど……。
 
待雪 私はそれをやらないから、メンバーのみっくからは「漢字読めない」ってよく言われます(笑)。
 
——さすが新メンバーというか、「難しい」「覚えられない」「書くスピードが異常」集団期待のルーキー(笑)。
 
待雪 個人的には漢字の使い方にも意味を込めているんですけどね。
 
——「ペルスネージュ」の〈雪崩崩れて〉とか、「blank」の〈甘く苦いよ 苦しいよ〉とか、漢字の配当で遊ぶタイプの作詞家ですもんね。
 
待雪 だからみっくにはちょっと申し訳ないんだけど(笑)、そこは曲げたくないですね。あっ、でも最近、カッコを覚えました。
 
——「カッコを覚えた」?
 
待雪 難しそうな漢字を使うときはそのうしろに「(○○)」って読み方を添えてから「歌詞ができたよー」ってメンバーとリーダーが登録しているグループLINEに投げてます。
 
——ルビを振ることを覚えたのか(笑)。そしてもうひとつ待雪リリックを特徴づけるものに英詞があります。「スコープ」や「melt」、それからスコール時代の楽曲「the proof」には英単語ではなく、それだけでガッツリ意味を成す英詞パートがありますよね。
 
待雪 その手の曲についてはだいたいリーダーからオーダーがあるんですよ。
 
リーダー 「ここは英語のセクションで」って。「スコープ」にかんしては曲調がパンキッシュなので、これは頭から英語で勢いつけるしかないでしょ! という非常にIQの低い理由でオーダーしました!(笑)
 
待雪 実際「アホっぽい英語を頼む」って言われて書きました。だから英詞は日本語の歌詞とはちょっと違って、あんまり意味は重視せずに音楽的……音の響きを優先させた内容になってます。
 
——そうですか? 「the proof」のイントロ中の英詞は直訳すると「神様にできないことが人間にできるのかしら?」「私たちはそれに混乱するし、心配です」「それはとても悪いことです」。ちゃんと意味を成していますよ?
 
リーダー でもそれを英語で書いてあることに意味があって。あのイントロは演奏がメチャクチャ……ドラマーに「リズムがない感じで叩いてくれ」って頼んでグチャグチャにしてもらったものなので、声は乗せたかったものの、その声が意味を成していると困るんです。
 
——聴き手が意味を拾えるということは、ちゃんとリズミカルにその声を聞き分けているということになるから、トラックがグチャグチャじゃなくなるのか。
 
待雪 だったら英語だろう、と(笑)。
 
——作詞家先生はもともと英語に明るいんですか?
 
待雪 そこまでは……って感じですね。リスニングはわりとできるほうなのかもしれないけど、書くほうはアレな感じなので。だから作詞はそんな私の学力とWeblio(英和・和英辞典サイト。実際の発音を音声で聴くこともできる。https://ejje.weblio.jp/)頼り(笑)。日本語で歌詞を考えてから英語に翻訳したら、それをWeblioに読ませて「あっ、この単語はアクセント的にちょっと違うな」みたいなことを考えつつ、自分が使いたい単語を組み合わせる感じでやってます。


(につづく) 


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④の更新は明日の20:00を予定しております!
お楽しみに!

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出演:待雪アイリ、KUMA(会心ノP)
聞き手:成松哲(ライター)

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