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「待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。」①

2021年6月25日(金)、東京某所で開催された「待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。」。アイドルグループ・会心ノ一撃のメンバーにして、メインソングライターでもある待雪アイリさんが、これまでに制作してきた楽曲の作詞術や制作秘話、さらには2021年1月リリースの会心ノ一撃初のオリジナルフルアルバム『シガテラ』の全曲解説まで、その名のとおり、待雪さんが“自分の詞<ことば>”について大いに語る配信イベントです。
 
ここでは、そのテキスト版をお届け。2時間のイベント中に垣間見えた待雪さんの詞作に対する熱い想いから、すっとこどっこいな横顔まで、その表情と詞<ことば>の数々を楽しんでいただけるとうれしいです。
 
構成:成松哲


■きっかけは一花寿


待雪アイリ(以下、待雪) ……タイトル忘れた。
 
——えーっ……(笑)。「待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい」という配信プログラムです。内容は本当にタイトルのまま。待雪アイリさん……会心ノ一撃というアイドルグループの最古参メンバー?
 
待雪 そうですね。
 
——最古参メンバーにしてグループの楽曲の作詞もなさっている方に、その詞に込めた想いや制作スタイルをうかがう企画となっております。本日司会と聞き手を担当させていただくライターの成松哲です。そして本日の主役は?
 
待雪 会心ノ一撃の待雪アイリです。まず経緯を話していいですか?
 
——そうですね。なぜこの企画が立ち上がったのか、ご説明ください。
 
待雪 会心ノ一撃やスコールの曲の中で私の作詞曲が増えまくっていて……。今、何曲くらいだったかな?
 
——11〜12曲ですかね。
 
待雪 そのくらいの曲数になってきたから、それぞれの詞について語る機会を用意したかったんですけど、ずっとその話が流れていたので、Twitterで「歌詞について語るチャンスがないからブログとかに書こうかな」ってつぶやいたんです。そうしたらツイートをケムタさんが拾ってくれて、このお話会を開くことになりました(笑)。
 
——ケムタさんというのは大坪ケムタさん。この配信イベントの企画立案からエンジニアリングまで仕切ってくれている丸坊主のライターさんです。確かにこの企画って興味深いと思うんです。基本的にアイドルって作詞家からもらった言葉を歌う存在じゃないですか。
 
待雪 そうですね。
 
——ところが待雪さんは会心ノ一撃の発足メンバー……というか前身グループ・the name "Twice"のメンバーでもあって、その後、2019年10月にメンバーを大幅に入れ替えたスコールというグループに改名したり、2020年2月にまた会心ノ一撃名義に戻したりという諸々を経た現在に至るまで、足かけ6年にわたって作詞を続けている。その事実からして面白い。
 
待雪 そんなにやってましたっけ?
 
——会心ノ一撃は2016年12月結成、お披露目は2017年5月らしいので。作詞を始めたきっかけって?
 
待雪 きっかけになったのは「ペルスネージュ」っていう曲ですね。
 
——2017年10月発表の「ペルスネージュ」の詞が処女作だ、と。なぜ書こうと?
 
待雪 当時アイドルオタクをしていて、そのせいで病んでたんです。
 
——差し支えなければ誰のオタクを?
 
待雪 元ゆるめるモ!、元Hauptharmonieの一花寿さんです。彼女がHauptharmonieの解散に合わせてアイドルを辞めることになって、オタクとしてすごく荒んでいたら、リーダーに「その気持ちを歌詞に書いてみて」って言われた記憶があります。
 
——あっ、その説明もしなきゃいけないのか。ここで言う「リーダー」はグループのキャプテン的存在という意味のリーダーではなくて、会心ノ一撃のサウンドプロデューサーでマネジメントも手がけているKUMAさんのニックネームです。
 
待雪 面倒くさくてすみません(笑)。最古参メンバーだから、よく「リーダーなんでしょ?」って聞かれるんですけど、会心ノ一撃の中にはリーダーはいないので。で、そのリーダーに言われて歌詞を書くようになったんですけど、2曲、3曲と書いていくうちに作詞のスピードが上がってきたんです。そうしたら今度はリーダーが「おれ、別に歌いたいことないから、アイリ書いてよ」と非常に投げやりなことを言い出しまして……(笑)。
 
——スコールへの改名直前、2019年にリリースされた第1期会心ノ一撃の作品集的アルバム『diary』での待雪さんの作詞曲は4曲。つまり2017年から2019年の2年のうちに4曲作詞していたんだけど、2021年発表の初のオリジナルフルアルバム『シガテラ』では収録8曲中、インスト曲を除いた7曲、つまり歌モノ全曲の作詞をしている。ここにも待雪さんの成長ぶりと、リーダーの労働意欲の減退ぶりが見てとれます(笑)。
 
待雪 そうなんです(笑)。
 
——2017年当時「作詞してみる?」という話があったときのお気持ちは?
 
待雪 アイドルになったからにはなんでもやってみたいという気持ちがあったし、文章を書くのはわりと好きなので「できるできる」という感じでノリノリで書いてました。
 
——待雪さんって会心ノ一撃が最初のアイドルグループであり、このグループでの活動が初めての音楽活動ですよね?
 
待雪 はい。
 
——それ以前に詞や詩を書いた経験は? 病み散らかした中二病的ポエムノートみたいなものでもいいんですけど。
 
待雪 日記を付けるのは好きだったし、今も好きだけど、“ポエマー”ではなかったですね。
 
——となると「ペルスネージュ」って処女作としては破格ですよね。すごくテクい。タイトルの「ペルスネージュ」が仏語で「雪の花」という意味。だから歌詞にも〈ユキノハナ〉というフレーズが出てくるし、それは当然白をイメージさせる。そして〈桃色〉〈透明〉〈鈍色〉であったり、〈血を流す〉という赤を象徴するフレーズであったりと、とにかく色が畳みかけてくる。そしてこれによって「これは色のことを歌うというグランドデザインのもと作られた曲なんです」と説明しきっている。
 
待雪 我ながら小賢しいですねえ。
 
——あはははは(笑)。さらに小賢しいのが〈雪崩崩れて〉。これは視覚的に楽しいんですよ。「なだれ」と「くずれて」と単語ごとに読み方は違うんだけど、そこに当てる漢字は同じ「崩」。漢字を音訓で読み替える日本人だからできる遊びですから。この記事や歌詞カードで見るとしりとりみたいになっているのが面白い。しかも〈雪崩〉も白いし。
 
待雪 「ペルスネージュ」はホントに小賢しいんですよ。使ってみたいワードや使ってみたいテクニックを全部入れ込んでますから。逆に今はこんな歌詞は書けないですね。細かすぎますもん。「やりすぎだよ」って思っちゃう(笑)。
 
——当時はなんで「やりすぎ」たかったんでしょう?
 
待雪 「ほら、私ってデキる人じゃん?」という驕り?(笑) 最初だから自分のいろんな想いを詰め込もうとしたんだろうし、なぜか私ならそれを全部できると思っちゃってたんですよね。そういう自分の存在証明みたいなものと、「推しメンがっ!」という感情のすべてを凝縮させた結果、こんな歌詞になってました。
 

 

■私の頭の中のMV



——楽曲制作って詞先ですか? それとも曲先?
 
待雪 曲先ですね。
 
——じゃあリーダーから届いたメロディやアレンジに喚起されて言葉が浮かんだりは?
 
待雪 「ペルスネージュ」のときは完全に任せてもらっていたから、もちろん符割に言葉数を合わせることはしたけど、それ以上に曲のイメージを深読みすることはしてなかったかも。詞をリーダーに提出したときも「ここはこうしてくれ」とは言われてなかったし。でも今はメッチャ言われてます。
 
——「メロディやアレンジに寄り添え」と?
 
KUMA(以下、リーダー) もっと具体的に細かく指示してます。「この曲はサビのメロディがフックになっているから、ここに印象的なワードを持ってこい」とか「ここは『い』の音で伸ばしたいんだけど、語尾が『い』になる、いい単語はなんかないか?」とか。「ペルスネージュ」のときはそういうディレクションをまったくしてなかったんだけど、上がってきた歌詞を見たらちゃんと書けそうな雰囲気があったので。「ここからちゃんと書けるように育てれば、ぼくの作業時間が半分に減るかな」って(笑)。
 
待雪 ということで、まんまと分担させられてます(笑)。
 
リーダー 仕事が早いしね。
 
——あっ、作詞は早い?
 
待雪 時間がかかることはあんまりないですね。電車の移動中にできあがったりとか、お風呂に入っている途中で「あっ、できた」みたいなことがあったりとか。早いと思います。
 
——ただ、それは最終工程。完パケの制作には時間がかからないって話ですよね。それ以前の仕込み……たとえば日々、歌詞に使えそうな言葉をメモってストックしておくみたいなことに時間を割いたりは?
 
待雪 あんまりないかも。曲をもらったらまず頭の中でその曲のMVを作るんですよ。で、そのMVのキーワードとなりそうな言葉をパパパッとメモ帳に書いておくという作り方をしているので。そのメモの中でも今回の歌詞には使わなかったけど次に使えるかも、ということで言葉をストックしておくことはあるけど、日常的に言葉のストックを増やそうと思ったことはないですね。
 
——「頭の中のMV」?
 
待雪 アニメのオープニング映像ってあるじゃないですか。あれを自分の中で作っちゃうんです。曲を聴くとバーッと風景や登場人物が思い浮かぶので、その風景の中でのその人のストーリーを映像化していく感じですね。そしてそれを言葉に変換しています。
 
——一時期話題になった「Get Wild退社」のハイレベルバージョンみたいな感じ? TM Network「Get Wild」を聴きながら会社から帰ると、なんか夜の街の風景が違って見えるというか、自分なりの映像が浮かぶというか。
 
待雪 あーっ! 似てます、似てます。そのビジョンを言葉にしている感じです。
 
——その作詞メソッドってどうやって発見しました?
 
待雪 これはちょっと自己紹介みたいになるんですけど……。
 
——じゃあイベント開始から20分経っちゃいましたけど、あらためてグループのあいさつも込みで自己紹介をお願いします(笑)。
 
待雪 「あなたの心にズバっと一撃! 会心ノ一撃です」「待雪アイリです」(笑)。で、まず映像をイメージする作詞のしかたというか、そもそもアイドルになろうと思ったきっかけの話なんですけど、子どものころから私はマンガ家になりたくて、今も「将来的になれたら」と思っているんです。でもたぶん今の時代、普通にマンガを描いているだけだと、ほかの若手の人たちの中に埋もれちゃう可能性もあるから、目立つためにもアイドルもやっとくか、好きだし、みたいな感じだったんです。
 
——アイドルをナメきったコメント、ありがとうございます(笑)。
 
待雪 今は全然違うんですけどね(笑)。そういうきっかけとはいえアイドルを始めてみたら、曲はいいし、パフォーマンスもすごく楽しいから、のめり込んでいった感じなので。アイドルとしてもちゃんと成功したいし、もっとパフォーマンスも作詞も極めたいと思っています。でもやっぱりマンガはずっと描いてきたし、マンガ家になりたいのも本当のことだから、どっちかっていうと物の考え方が映像的。歌詞を書くにも単語を書き留めておくんじゃなくて、まずは画を思い浮かべたいし、そっちのほうがラクなんです。メソッドみたいなしっかりしたものとはいえないかもしれないけど、そういう作り方はしています。

(につづく)

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②の更新は明日の20:00を予定しております!
お楽しみに!

🎉「待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。」第2弾が開催決定🎉

6/6(月)
『待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。~2017年と2022年の待雪アイリ(KUMAさんと)』
@ ROCK CAFE LOFT(東京都新宿区歌舞伎町1-28-5)

OP18:30/ST19:00
前売¥2500/当日¥3000(各要1オーダー)
配信¥1500

出演:待雪アイリ、KUMA(会心ノP)
聞き手:成松哲(ライター)

詳細、ご予約はこちらから

会場観覧(特典アリ)も配信もございますので是非!!