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「待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。」⑤

2021年6月25日(金)、東京某所で開催された「待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。」。アイドルグループ・会心ノ一撃のメンバーにして、メインソングライターでもある待雪アイリさんが、これまでに制作してきた楽曲の作詞術や制作秘話、さらには2021年1月リリースの会心ノ一撃初のオリジナルフルアルバム『シガテラ』の全曲解説まで、その名のとおり、待雪さんが“自分の詞<ことば>”について大いに語る配信イベントです。
 
ここでは、そのテキスト版をお届け。2時間のイベント中に垣間見えた待雪さんの詞作に対する熱い想いから、すっとこどっこいな横顔まで、その表情と詞<ことば>の数々を楽しんでいただけるとうれしいです。
 
構成:成松哲




前回→「待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。」④

はじめから読む→「待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。」①

■待雪アイリは「パステル」を語りたい

 

——じゃあ時間も迫ってきているので、急いで5曲目「パステル」について。まさに色の曲ですけど、待雪さんの頭の中の映像ではなにがパステルカラーに彩られているんですか。登場人物の感情が色に置き換わっているのか? 登場人物の洋服や街の風景の色が印象的なのか?
 
待雪 あー、なんだろう? 「パステル」については「色の曲である」ということにかなり意味を込めていた気はします。私たちのジャケ写やアー写ってデビューしたばっかりのころはモノクロだったんです。それがだんだん色を使うようになってきていたから、その色の変化と自分たちの変化のことを歌おうと思った気はするんですけど、なんでそうしようと思ったのかは、あんまり覚えてないな。リーダーのほうが覚えているかも。
 
リーダー おれもあんまり覚えてないなあ。新型コロナが問題になり始めた時期に制作していたから、けっこうバタバタだったんだよね。
 
待雪 だから歌詞にかんしてはかなり任された記憶はあります。これまでも色を歌詞の中にけっこう入れ込んでいたんですけど「この曲では色を使わないで」「この曲は海系のイメージじゃない」っていう指示を受けることも多くて。でもこの曲はほぼお任せだったので〈虹色〉とか思いっきり入れちゃっている。……あと、マンガの影響もあった!
 
——マンガの影響?
 
待雪 この歌詞を書いているころ、『ナンバデッドエンド』(小沢としお作)っていうヤンキーマンガを読んでいて、その主人公が絵の描ける人だったんです。で、全話読み終えたとき「ああ、いい作品だった」ってなると同時に、「パステル」は色の曲にしようというふわっとしたアイデアと、マンガの絵が描ける=色を操れる主人公という設定、それから主人公を取り巻く幸せが全部壊れるっていうお話がどこか重なったんです。それで頭の中で、絵の描ける主人公のMVを作ってみた。だから歌詞の中の絵画系のフレーズは完全にマンガの主人公に引っ張られてます。〈メディウム〉とか〈クロッキー〉とか〈ナイフ〉とか。〈厚く塗り重ねた後〉もそうですね。
 
——さっき椎名林檎&柴咲コウ楽曲にちょっと影響を受けていると言っていましたけど、これにかんしてはもっと露骨に影響を受けた?
 
待雪 「パステル」については『ナンバデッドエンド』から刺激を受けすぎていると思います。
 
——普段はほかのコンテンツに引っ張られることはそんなにない? たとえば待雪さんはL'Arc~en~Cielのファンだけど、Hydeの歌詞にモロに影響を受けたりは?
 
待雪 自分のステージネーム自体、ラルクの「snow drop」(「待雪草」の意。1999年10月発表)っていう曲のタイトルを参考にしているし、「ペルスネージュ」の〈ユキノハナ〉がカタカナなのもその「snow drop」の歌詞の引用ではあるんですけど、これ以上参考にするとヤバいと思っています。ラルクの曲は死ぬほど聴いているから、作詞しているときにHydeさんのテイストが顔を出しそうになるんだけど、それに従っちゃうとただの劣化Hydeさんにしかならないですから。私がラルクのことが好きなのを知っているファンからは「Hydeさんみたいなフレーズを使うよね」とは言われるんですけど、実はそんなに意識してませんね。
 
——それでもHydeっぽく響くのであれば、それは待雪さんがラルクを死ぬほど聴いているから。その経験が血肉になっている待雪さんが書いたものだからっていう話なんでしょうね。
 
待雪 それか、うっかり出ちゃったか(笑)。……でも「パステル」はなんでああいう歌詞になったんだろう? 難しいですね。歌詞や音楽のことって考えれば考えるほどわからなくなる(笑)。
 
——リーダーの上げてきた数分間ぶん、しかも時間だけでなく音符の数次第で文字量にもある程度の制約が生まれてしまうメロディに聴き手の共感性の高い詞や詩を乗せようとすると……。
 
待雪 どうしても抽象的になっちゃうんですよねえ。
 
——説明を省かなきゃいけないから。だから、あとから寓意を分析的に語るとなると骨が折れるのは当然だと思います。まあ今回は待雪さんに積極的に骨折してもらっているわけですけど(笑)。
 
待雪 骨折難しいなあ(笑)。
 
 

■待雪アイリは「歪」を語りたい

 

——そして終盤戦1曲目は「歪」。前言を撤回しちゃって申し訳ないんですけど、この曲の1Aの1行目で待雪さんは、ほかの曲のような広角の風景ではなく、かなりマクロな画を切り取っている。〈夜空の香り 汗かきの グラス〉。しかもちょっとセクシーなシチュエーションです。
 
待雪 そうですね。
 
——アイドル・待雪アイリ(17歳)の身になにがありました?
 
待雪 リーダーから「歪んだ恋愛観の曲を」というリクエストと、さっき話した〈会いたい〉という4文字と一緒に曲を渡されまして。曲を聴いてみたら〈会いたい〉のパートでは音がドンガラガッシャンになるし、そこに〈会いたい〉が乗ると本当に「会いたいわー」ってなったから、その心境に辿りつくように書き始めてみた詞なんです。ただ最初は「歪んだ恋愛観?」「そもそも恋愛観って?」となって「歪んだ恋愛観」でググってみたんですよ。
 
——そのキーワードを検索窓に叩くと、なにがヒットします?
 
待雪 某女性タレントさんがテレビで披露していた恋愛観を紹介するニュース記事が(笑)。その番組で「カレシとは歯ブラシを共有したいし、同じパンツを履きたい」って言っていたらしくて……。
 
——いや、ちょっと過剰だけど、すごくストレートなラブラブカップルの一風景ですよね、それ。そんなに歪んではないか、と。
 
待雪 えーっ……。あと「カレシにはGPSを持たせておいて、常に居場所を把握しておきたい」って言っていたらしいんです。
 
——それも度を超えるとストーカーになっちゃうけど、「好きな人は今どこにいるのかしら?」って気になったり「浮気されたらイヤだな」って気を揉んだりする気持ちってわかりません?
 
待雪 うーん……。今、ここにいるほかの男性陣に「そういうものなんですか?」って聞こうと思ったものの、おっさんしかいないので急に興味はなくなっちゃったし(笑)、そのときも記事に「○○の歪んだ恋愛観」って書いてあったから「なるほど。歪んだ恋愛観とはそういうものなのか」と納得しときました。
 
——でもこの曲の主人公は男性ですよね? 〈僕〉だし。
 
待雪 そこから歪んだ恋愛を妄想していたら、なぜか主人公がカレシになっちゃって。「じゃあコイツを束縛・メンヘラ・ゴミクズ男にしよう」と、そのタレントさんの恋愛観以上に歪んだ人物にしてみました。ただ、最初の完成品があまりにアレだったらしくて、読んでもらったリーダーに「なんかゾッとした」と言われたので、最終的にはちょっとマイルドにした感じですね。でも失礼だと思いません? 人のラブソングを読んで「ゾッとした」ってメチャクチャDISじゃないですか! しかも私のはただの妄想だし! その妄想に対して「ゾッとした」って! 書いたこっちが恥ずかしくなっちゃうじゃないですか。
 
——もう6年の付き合いになる職場のボスに「待雪さんはとても気持ちの悪いことを考えていらっしゃいますね」と言われたわけだし(笑)。
 
待雪 だから恥ずかしい待雪さんは捨て去って(笑)、もうちょっとゾッとしない束縛・メンヘラ・ゴミクズ男を作ってみました。でも、これ以上人物像を解説すると……。
 
——聴くほうの楽しみを奪っちゃいますね。この曲を聴いている人それぞれの頭の中にオーダーメイドの束縛・メンヘラ・ゴミクズ男ができあがったほうが面白いし。
 
待雪 みんないい感じの束縛・メンヘラ・ゴミクズ男を作ってください(笑)。
 
 

■待雪アイリは「シガテラ」を語りたい

 

——アルバムリードトラック「シガテラ」については……。
 
待雪 さっきお話したとおりって感じなんですけど、リーダーから曲をもらう時点でタイトルと〈毒を喰らわば皿まで〉という1行目は決まってました。
 
リーダー そうだっけ? おれがメッチャ覚えてるのは、デモを送ったら「どんなワードを入れたいですか?」ってレスポンスがあったから「おれは作詞とかよくわからないけど、1行目は〈毒を喰らわば皿まで〉かな?」ってまた返したら「私もそれだと思った!」ってなったことで。それで2人でテンションが上がった記憶があるんだけど。
 
待雪 そうだ、そうだ。それで私自身の中にあるわだかまりや悪意や毒とか、メンバーが抱えていそうなものを実際のシガテラのように積み重ねていって歌詞を作っていきました。実際にメンバーにヒアリングしたわけじゃないんだけど、傍から見ていると「こういうことを思ってるんだろうな」「こういうことに苛立ってるんだろうな」ってわかることもあるから、そういうものをもっと抽象的な言葉に置き換えて。
 
——ちなみに待雪さんの苛立ちが反映されているフレーズって?
 
待雪 〈自我の更新〉と〈訣別〉。ぶっちゃけて言っちゃうと、会心ノ一撃からスコールに体制が変わったら、なんでこんなに人が減んねん! みたいな話なんですけど(笑)。
 
——ぼく、スコール目当ての客が3人しかいない対バンライブを観たことありますよ。チェキを撮るまでの待ち時間がチョー短くて助かりました。オタクとメンバー(待雪、轟姫、操神莉乃)がマンツーマン状態だったから(笑)。
 
待雪 ホントそういうことばっかりだったんですよ。第1期の会心が終わるときにたくさん聞いた「ずっと付いていきます」という言葉はどこに? って感じで。だから〈訣別〉だし、とはいえ私はスコールの待雪アイリとして次のステップに進みたかったから〈自己の更新〉なんです。この曲も最初に頭の中でMVを作ってそのキーワードを拾っていったんですけど、メモにあったのは〈足のもつれ〉〈悲しみ〉〈毒だまり〉〈有害な憂い〉〈剥がれ落ち〉……。そんな言葉ばっかりだったし、〈涙〉も、涙って血液と成分が似ているからということで流血描写のつもりで書いていますし。
 
——そういうストレートな心情吐露を言語化するのも早かった?
 
待雪 毒々しいものをバーッと羅列するのは楽しかったんですけど、サビの〈何万回〉〈Never die.〉のところはダメ出しされたかな。
 
リーダー 元の歌詞だとなんかハマりが悪かった。そしたらアイリから〈Never die.〉って出てきたから、そっちにしよう! ってなりました。
 
待雪 で〈何万回〉と〈Never die.〉みたいに韻を踏むとこの曲が面白くなることに気付いて、〈錆びた笑み 剥がれ落ち 流れ星〉という、意味とかどうでもよくて、とりあえず踏めればいいんだ! みたいなフレーズができあがるという(笑)。
 
——いや、The Beatles「Come Together」じゃないけど、一見無意味そうな、でも聴いていて心地のいい言葉の羅列に身を委ねる面白さってポップミュージックにはあるじゃないですか。「なんでそこでコカ・コーラ?」「なんか突然ジョンのヨメさんが出てきたぞ」って。
 
待雪 だからサビについてはこれでいいって感じ。私自身、実は意味をちゃんと説明できる自信がないんだけど、だからこそみなさん、ぜひ深読みしてみてください。
 
 

■待雪アイリは「melt」と歌割りを語りたい



——「melt」の詞についてはさっきけっこう聞かせていただいたので、ここでは歌割りの話をもうちょっと掘らせてください。轟姫さんにこの曲を締めくくらせたのがそうであるように歌割りについてはリーダーにお任せとはいえ、作詞家として「ここは○○に歌ってほしい」っていう要望はまったくないんですか?
 
待雪 あー、いない人の話になっちゃうんですけど……。
 
——ああ、アルバム制作時には5人組でしたもんね。
 
待雪 4人になるはずじゃなかったんだけどなあ……(笑)。私が勝手に考えていたのは「Ting-A-Ling」の歌割りで。〈静かにはしゃいでみよう ぽかぽかするね〉って、これ、綾波レイなんですよ。
 
——確かに「ぽかぽかする」はエヴァンゲリオンシリーズの名ゼリフのひとつですね。そしてその引用を脱退した織羽さんに歌わせたかった、と。……って、髪型が似ていたから?
 
待雪 いや、確かに髪型も一緒だけど、物静かなところも一緒だし、2人とも美少女じゃないですか。だから「織羽さんに歌ってほしいなあ」と思いながら書いていたら、リーダーがそのパートを織羽さんに任せてくれて「来たっ!」ってなったんですけど……。
 
——よもやいなくなろうとは。
 
待雪 でも織羽さんに歌ってもらえて光栄でした。ほかの曲については誰にどこを歌ってほしいなんて、ほとんど考えたことないけど。
 
リーダー しかも「melt」の制作時ってそんなことを考えていられなかったんです。納品の2週間前にそれ以外の曲は全部そろっていたんだけど、それだけだとアルバムと呼ぶには収録時間が足りねえ、ということに気付いて。ぼくが1日で1コーラスぶんだけデモを作って、次の日にアイリをスタジオに呼んで作詞をしてもらいつつ、ぼくはそのうしろで2コーラス目以降を作るという(笑)。
 
待雪 ほぼ同時進行でしたよね。だから実質24時間くらいで曲ができていた(笑)。
 
リーダー その翌日にはデモを全員に渡したもんね。
 
待雪 だから「ここは○○に歌ってもらいたいなあ」なんて妄想しているヒマがなかった(笑)。
 
 

■待雪アイリは「2017年の待雪アイリ」を語るはず

 

——最後にいかにもこの手のインタビューの定番質問をしたいんですけど、今後、作詞家・待雪アイリとしてやってみたいことってあります?
 
待雪 やっぱり平沢進さんみたいな詞を書きたい!
 
——でもそれ、会心仕事としてやると間違いなくボツるやつですよね?
 
リーダー 絶対にGoは出しません(笑)。
 
待雪 だから会心以外にも歌詞を書く機会ができたらいいな、とは思ってます。
 
——これだけ曲が貯まると、実際、会心楽曲を聴いて「待雪アイリいいじゃん」って作詞のオファーをしてくるアイドル運営がいても全然おかしくないですしね。
 
待雪 でも作品にはけっこう絶対の自信を持っているんですけど、今のトークで待雪アイリという人物そのもののアレな感じがバレた気がしていて……。仕事来ますかね?
 
——ごめんなさい。それにかんしては責任持てないっす(笑)。
 
待雪 あとイベント自体はすごく楽しかったんですけど、こういう話題って話が尽きないじゃないですか。成松さんがどの歌詞が好きなのか? みたいなことも聞きたいし。
 
——今回は初期作品についてはほとんど触れてないから「2017年の待雪アイリ」についてもまだ聞きたいですしね。
 
待雪 それもやりたいし、メッチャ質問がきたりもするんですよ。私が昔書いた曲の伏線を新曲で回収することが多いのを知っているオタクから「『melt』はどの曲とつながってるんですか?」って聞かれたり。それにも答えたいな、と思ってます。
 
——じゃあ近々、続編イベント「2017年の待雪アイリ」をやりましょう。『diary』収録の作詞曲について探りつつ、『シガテラ』楽曲との関連を探ったり、みんなの質問を受け付けたり。というわけで、今回の「待雪アイリは自分の詞〈ことば〉を語りたい」はこれにてお開き。たくさんのご視聴ありがとうございましたっ!
 
待雪 ありがとうございましたっ!

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最後まで読んでいただきありがとうございました!!
楽しんでいただけたでしょうか?

いよいよ明日(6/6)は『待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。」第2弾』!!
是非、会場やお家や移動中にお楽しみ下さい!

🎉「待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。」第2弾が開催決定🎉

6/6(月)
『待雪アイリは自分の詞<ことば>を語りたい。~2017年と2022年の待雪アイリ(KUMAさんと)』
@ ROCK CAFE LOFT(東京都新宿区歌舞伎町1-28-5)

OP18:30/ST19:00
前売¥2500/当日¥3000(各要1オーダー)
配信¥1500

出演:待雪アイリ、KUMA(会心ノP)
聞き手:成松哲(ライター)

詳細、ご予約はこちらから


会場観覧(特典アリ)も配信もございますので是非!!