【考察】ハンバーグとオムライス

※世長ルート、夏劇、東京喰種及び東京喰種:reの終盤のネタバレを含みます。


知ってる人は冒頭の時点でピンと来るかもしれない?
今回はジャックジャンヌのカネキと世長の比較考察です。
この二人、同じスイ先生から生み出されたというだけでなく、意図的な対比や類似性、セルフオマージュ要素が多いキャラクターになっています。
過去に既に取り上げたものだと、

・特典色紙と扉絵の構図の類似性
https://note.com/snowblossom_jj/n/n0e897dc0c78d

・白黒タイル(二面性、表か裏か Heads Or Trails)を象徴とする
https://note.com/snowblossom_jj/n/n6867a4c90836

などがあります。
また、スイ先生の作品はキリスト教の教えや思想から大きな影響を受けている部分があり、世長のモチーフは始祖アダム、救世主イエス、悪魔の王サタンの主に三つをベースとしていると何度も触れてきました。
※アダムについて https://note.com/snowblossom_jj/n/n2e88776b11db
※イエスについて https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4
※サタンについて https://note.com/snowblossom_jj/n/n57449ab553e6
この三つのモチーフ、実は東京喰種のカネキも同一です。
既に過去に同作の考察を行っている方たちが解説している部分も多いですが(気づいた人ホントにすごい)、知らない人もいると思うので分かりやすいところを何点か。

・「アダム」は「ヘビ」に唆された「妻イヴ」から神に禁じられていた「善悪の知識の木の果実(禁断の果実)」を渡され、それを口にしたことで楽園から追放された。
→喰種となった「カネキ」は「ニシキ(→ニシキヘビ)」と出会い、「トーカ」に初めて「人肉」を喰わされる。
※東京喰種、ジャックジャンヌに続く超人Xの主人公トキオも、前2作よりシチュエーションに捻りが入っているが、ちょっとしたお約束なのか超人=異形として目覚めた後に禁断の果実=リンゴを口にしている。

・「聖母マリア」は「イエス」を「処女の身のまま身ごもり出産した(処女受胎)」。
→「リゼ」の体の一部を移植されて「カネキ」は「人工的かつ後天的(→親の性行為を伴わない出生→処女受胎)に(半)喰種に生まれ」変わった。
※超人Xのトキオも後天的な異形化(超人化)をしており、その際に使う注射器の形がわざわざイエスのシンボルと言える十字架型になっている。

・「神の子イエス」は「聖母マリア」から産まれた「赤ん坊」。
→「カネキ」は「リゼ」から「赫子」を受け継いでいる。
つまり、赫子をなぜこの漢字で書くのかというと、リゼの赤ん坊=赤子(赫子)だから。

・「ヘビ」は悪魔(→サタン)のシンボルで「鱗」のある生き物。
→カネキの赫子は「触手のような」形態の「鱗」赫。
おそらく尾赫も西尾「錦」=「ニシキ」ヘビでヘビの尾のイメージが強い。
ニシキがreではヘビのマスクをしていたり、オロチ(→ヤマタノオロチ)と呼ばれるのもこのため。
また、カネキの容姿がコロコロ変わるのもおそらくヘビの脱皮(死と再生の象徴→挫折と再起の繰り替えし)が由来。

この他にも、作中のセリフや演出をよく見ると、キリスト教を意識している箇所やカネキと世長が作品をまたいで対になっていることが分かる部分がいくつも存在します。
また、ジャックジャンヌの世長ルートで鍵を握る百無の声優はカネキと同じ花江夏樹さんです。
世長の声を担当している佐藤元さんはまだ新人である(のにめちゃくちゃ演技がうまい)ことで知られていますが、花江さんもカネキの声優になった当初は比較的早い時期でした。
(ここまで状況が揃うのは奇跡ですが、ちょっと意識している感じはしますよね。)

さて、ここからが本題です。
ジャックジャンヌの考察を続けていく中で、各キャラのプロフィールにも細かく意味や元ネタがあることが分かって来ました。
※前作にあたる東京喰種の時点で既に指摘されており、誕生日などの由来の考察が当時から存在していた。
※ジャックジャンヌでの具体例
世長:https://note.com/snowblossom_jj/n/n57449ab553e6
白田:https://note.com/snowblossom_jj/n/n7dee9791f870
その他、カイの誕生日の9月23日は、初期モチーフのオペラ座の怪人の発行日など。

その中で残っていたものの一つが世長のオムライス。
好きになった経緯などは一応作中で説明されているものの、特に世長の設定はかなり意味があるようなので何かおかしい……。
というわけで調べていたら、カネキの好きなハンバーグがちょっとしたヒントになっていたのが分かったので今回のタイトルがあんな感じに。
(コレに限らずスイ先生の作品は前後で意図的に繋がりを持たせている部分があるようで、東京喰種、超人Xを読むとジャックジャンヌについてちょっとした気づきを得ることがしばしば。)

で、カネキのハンバーグですが、少し捻りが入っていてこのままでは意味が解けません。
どういうことなのかと言うと、まずハンバーグを別の物に置き換える必要があります。

ハンバーグ
→類似料理のミートローフ
→ミート(meat 肉)+ローフ(loafパン)
→肉のパン

これでもまだ??になる人が多いのかと思うのですが、各キャラのプロフィールは先に述べたようにその元ネタやモチーフと繋がっています。
カネキの場合は、キリスト教のアダム、イエスのミックスというのがポイントです。

・キリスト教では聖書の記述から「パンはイエスの体(肉)」とされる
→パンは肉(パン+肉)
→ミートローフ

・先述の通り東京喰種では「(人)肉=アダムが食べた禁断の果実」
→アダムが食べる肉
→カネキが食べるハンバーグ(ミートローフ)

つまりこのカネキのハンバーグが好きという設定、ものすごーく遠回しな彼の元ネタの示唆です。

「でも、ハンバーグからミートローフは飛躍しすぎw こじつけでしょwww」

という人がまだいそうなので、いくつか他に証拠になりそうなものを挙げます。
このハンバーグ→類似料理のミートローフの発想、カネキの周囲の人間やジャックジャンヌの設定にもきちんと活きています。

・カネキの娘イチカが好きな食べ物はリンゴと依子のパン
リンゴはアダムの禁断の果実。
さらにリンゴ→禁断の果実→東京喰種では(人)肉とパンで、ミートローフ(=ハンバーグ)。
(実は父親そっくりっていう……。)

・カネキとハンバーグの思い出話が出てくる#062 金木の回想で、彼と親友のヒデが食べているのはハンバーガー
ハンバーガーは「肉(ハンバーグ)」を「パン」で挟んだもの
→肉+パン
→ミートローフ(イエスの体)

・東京喰種と同じくキリスト教の影響が強いジャックジャンヌの舞台、玉阪市の名物は玉阪バーガー
カネキとヒデが一緒に食べていたハンバーガーと同じ、肉+パンでミートローフ→イエスの体という発想。
また、玉阪バーガーは「タマゴ(目玉焼き)」を入れているのが特徴だが、

タマゴ
→イースターエッグ
→イエスの復活(復活祭、イースター)

で、やはりイエス繋がり。
タマゴ(料理)はカネキと同じ救世主イエスが元ネタの世長が好きな物でもあるのでやはり意図的なもの。
(各キャラのプロフィールと同じで玉阪市の名物にも基本的に全て元ネタや意味がある。)

さて、カネキが好きなハンバーグがものすごく遠回しなキリスト教ネタなのが分かると、世長のオムライスも似たような発想ではないか――と考えられます。
そして、やはりというかこちらも捻られていて

オムライス
→オムライスは「タマゴ」料理
+オムライスが発祥したとされる店の一つが「北極星」
→「イエス」の復活(復活祭のイースターエッグ)
+「北極星」は「イエス」の母マリアの象徴(海の星の聖母、ステラマリス)
→世長(の元ネタ)は「イエス」

これでカネキのハンバーグ、世長のオムライスが二人の対比になっていることが分かっていただけた(といいな)かと思いますがもう少し続きます。
この二つただの元ネタの示唆ではありません。

まず、カネキにとってのハンバーグは

・今は亡き母の味
カネキは実母が作るハンバーグが好きだった。

・親友のヒデとの繋がり
半喰種になったことで味覚が変わったカネキが、人間の擬態の訓練を頑張るのはヒデとまた一緒に食事を取りたいから。
上記の内容が収録されている2巻の該当シーンには、ハンバーグの店(ビッグガール)で肉料理を口にする二人が描かれている。
また、1巻、7巻とカネキの人間か喰種かという自己認識に大きく関わる内容の話で、ヒデは一緒にハンバーグまたはハンバーガーを口にしており、彼らの繋がりと変化の象徴として意図的に用いられているのが分かる。

という形で、彼にとってハンバーグは大切な人との繋がり、絆(愛情や友情)を表すものでもありました。
そして、続編reの内容からカネキは亡き母やヒデに対して激しい執着を持っており、胸の内に深い虚ろを抱えていることが分かります。
さて、そもそも食事をするという行為は、

・自分に足りない物、必要な物(→栄養)を取り込むこと
・飢えや渇きを満たすためのもの

です。
そして、カネキにとってのハンバーグは他者との繋がり――(様々な)愛の象徴。
それを特に好んで(→頻繁)に食べるということは、彼が愛に飢えている(→母やヒデへの執着)という暗喩になります。
そして、そんな彼の心を満たしたのがトーカの存在と献身であった――というのは最後まで東京喰種の物語を追いかけた方にはご理解いただけるでしょう。

カネキのハンバーグが渇愛の象徴というのならば、彼と緻密な対比構造を持つ世長のオムライスも同様の可能性があります。

・カネキのハンバーグは母(愛)の味、大切な人たちとの繋がり、渇愛の象徴であり、愛に対する飢えを満たすためのもの
→世長がオムライスを好きという設定は「母(=聖母マリア→北極星)」繋がり(母の味)
+世長がオムライスを好きになった理由は希佐が作ってくれたから(愛の味、大切な人との繋がり)
+世長は終生に至るまで消えないと自覚しているような描写があるほど希佐に異常なまでの愛と執着を抱いている(渇愛)
+(夏劇より)オムライスを食べている時は嬉しそう(心の飢えを満たすもの)

つまり、カネキの場合は母、ヒデ、トーカと分散していた愛の対象が世長の場合は希佐ただ一人に集中しているのです。
しかし、世長が希佐に母性を求めているというような描写は現状見られません。
そのため、母の部分が少し置き換わるような形で、世長は本来ある程度はバラバラの相手に向かう家族、親友(幼馴染み)、恋人(夫婦)への愛が全て立花希佐ただ一人に注がれている、と思われます。
(まあそりゃ感情がでかいワケよ……。)

この部分、もう少しだけ深掘りしてみましょう。
前作のカネキは、家庭環境が少々複雑でその経験が彼の心の歪さに繋がっていることが描写されていましたが、これも元ネタの一つがキリスト教の救世主イエスであることに由来していると言われています。
ざっくりとしたあてはめは以下の通りです。
(最初に気づいた人ほんとにすごい。)

・顔を覚えていない実父→イエスの父はキリスト教の神
・カネキが後に父として慕う血の繋がらない有馬→イエスを愛し育てた血の繋がらない人間の父親(養父)ヨセフ
・カネキを育てた実母、半喰種としての母体リゼ→イエスへ愛を注いだ母としての側面と、処女受胎という奇跡がその身に起きた神聖存在としての側面が別れた二人の聖母マリア

さて、世長の詳しい家庭環境は攻略キャラの中で唯一まだ明かされていません。
しかし、あてがきになっているイザクの設定や世長ルートのエピローグの描写などから父母との間に何らかの確執があることがほのめかされています。
そして、カネキと世長は同一の元ネタを複数持っており、意図的な対比や類似性、セルフオマージュ要素が多いキャラクターです。

では、世長の未だに明かされない過去、秘密――引っ越しの理由、希佐への激しい愛と執着の根源はもしかすると……?
(カネキのハンバーグも、世長のオムライスも、日本ではお子様ランチに入るくらいには子どもに人気で日常的に口にする機会が多いーー家庭の味、思い出の味の一つという、ね。)


(補足)スズのプロフィール
ジャックジャンヌの中で肉、ハンバーガーが好き――というと世長の同期のスズが存在しますが、彼もイエスが元ネタなのかというとこちらはまた別の理由で設定されているようです。

最近になってスズにはイエスを裏切ったイスカリオテのユダがモチーフの一部に入り込んでいることが分かりました。
先述したパンをイエスの体と捉えるキリスト教の考え方は、新約聖書でイエスがユダの裏切りを予告(予言)する最後の晩餐で話した言葉が由来となっているため、それを意識してのセレクトと思われます。
(詳しくは
https://fusetter.com/tw/Vr6TwhKO#all
掲載許可ありがとうございました。
スズくんとジレに関して分かる面白い考察なので興味がある方はぜひ……。)

また、

・スズは継希の舞台に惹かれてユニヴェールへやってきたこと
・継希はジャックジャンヌの中で世長から見て先代の救世主(イエス)にあたる存在と考えられること
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n57449ab553e6

から、憧れ(目標)に近づきたいという感情の表れでもある――と推測されます。