【考察】プロメテウスの灯火
※ジャックジャンヌを最低1周(特に世長ルート)は遊んだ人向けです。
※2021.8.29 プロメテウスの項目に少しだけ追記。
タイトルでなんぞやと思われそうですが、なんからしくない?表情をしていて主に世長推しをざわつかせた7net特典色紙の世長について考えてみようぜ。
そういう回です。
このジャックジャンヌの店舗特典イラスト、スイ先生書き下ろしで結構細かく小ネタや元ネタがこっそり仕込まれていたりします。
ぱっと見てすぐわかるものや解説が複雑なものは除いて、ざっくり箇条書きすると2パターンほどあり……。
1.ゲームをクリアすると意味が分かるタイプ
・白田と根地(ブロッコリー)→新旧組長コンビ
・世長と根地(あみあみ)→新旧脚本担当コンビ
しかも背景がちゃんと砂浜っぽい(根地黒門ォ!!)。
・スズとカイ(TSUTAYA)→新旧ジャックエースコンビ
2.元ネタが分かると意味が分かるタイプ
※現時点でわかりやすいもののみ記載。
・希佐(Loppi & HMV)→ベツレヘムの星
救世主(イエス)が誕生した時に空に輝いたという不思議な星。
クリスマスツリーの一番上に飾られている星でもある。
ただし、希佐の本来の元ネタは厳密にはイエスではない。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4
・スズ(Joshin)→機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ
歯車はスズにとって特別な存在である希佐のシンボルでもある。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/ne2ad4d5cd3b2
・希佐と世長(ヨドバシカメラ)→楽園追放
おそらく厳密には楽園を追放される(→自らの性を知る)前のアダムとイブ。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n2e88776b11db
以上のような形でよく見ると全てのイラストにちゃんと意味が込められています。
――ということは、一部をざわつかせた世長の色紙にも何かあるはず。
今回はこれを彼の元ネタと西洋絵画のシンボルを使って読み解いてみたいと思います。
(過去に一部とりあげていますが、ジャックジャンヌの公式イラストやスチル、キャラデザは店舗特典に限らず、西洋絵画のモチーフやシンボルが取り入れられてるので探してみると面白いです。)
いきなりまとめて意味を拾うのは大変なので、まずは要素を一つ一つ分解して整理していきます。
①神の玉座
世長が腰掛けている大量の本の山。
本は知恵や知性の象徴とされる。
つまり、
大量の本の山に腰をかける
→多く(無限)の知恵の椅子
→全知全能の椅子
=神の玉座
また、世長=(いずれ)王(になる者)というのは実はジャックジャンヌの作中にしばしば言葉遊びの形で登場している。
・フギオー
フギオーはハヴェンナという「悪魔」崇拝の街に住む「王子様(プリンケプス)」
→悪魔の王子様
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n9d97a7b71149
・イザク
イザクは「悪魔」バフォメットの容姿を持つ「道化師(英語でclown)」
+「道化師のclown」と「王冠のcrown」の言葉遊び
※D.Gray-manのアレン・ウォーカーのイノセンス(武器)、神ノ道化クラウン・クラウンも同じ由来。
→冠を持つ悪魔
=悪魔の王子様
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n4aae5212c3da
さらに、世長の大きな元ネタには悪魔とは別に神の子イエスも含まれるので、悪魔の王子様である彼が神の玉座に腰掛けていても何の問題もない。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4
②ヘビ
世長の隠しモチーフは「ヘビ」。
――というか、そもそも世長自体が人間の肉体を持って生まれたヘビの神様。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n57449ab553e6
よって、この色紙の世長のねめつけるような表情は、「ヘビ」に睨まれたカエルや「ヘビ」睨みから、彼そのものがヘビであることの表現。
③悪魔の王サタン(+ガーゴイル)
世長は「玉座」に座るヘビ
+ヘビは悪魔を示すシンボルの一つ
→玉座(「王」の象徴)に座る悪魔
=悪魔の王サタン
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n4aae5212c3da
さらに、腰かける悪魔からガーゴイルもおそらくこの構図のモチーフ。
ガーゴイルは悪魔や怪物の姿をしているにも関わらず魔除けとして大聖堂など建築に取り入れられている。
→世長の持つ神と悪魔の二面性(Heads Or Trails 表か裏か)
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4
④神の子イエス
世長は「玉座」に座るヘビ
+青銅の蛇はイエスを示すシンボルの一つ
+イエスは王と表現されることがある
=神の子イエス
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4
⑤幸福な王子
世長は「王子」で身に纏っているのは「燕」尾服
→オスカー・ワイルドの幸福な「王子」及びそれに登場する「ツバメ」
幸福な王子はキリスト教の思想と関係があり、自己犠牲により命を落とすというのはイエスを始めとした世長の元ネタや彼が背負っているであろう運命に重なる。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n57449ab553e6
⑥プロメテウス
イラストの左端に見える謎の柱状の光はおそらくイエスの磔刑に使われた十字架。
十字じゃないじゃん!と思われるかもしれないが、これにもちゃんと元ネタがある。
西洋絵画においてギリシア神話のプロメテウスという神の伝承が、イエスの磔刑に重ねて描かれることがあり、その際に本来は前者に関係のない十字架が柱の形で取り込まれたりすることがあるためだ。
?となる人が多そうなので、以下に簡易の解説とスイ先生の発想(推測)を載せておく。
まずプロメテウスとは、ギリシア神話の神で人間に味方する存在。
全能神(最高神)ゼウスの意思に逆らい、寒さに凍える人類のために天界から火を持ち出して分け与えた。
彼はこの罰としてカウカソス山の山頂に磔にされ、大ワシに内臓を食われ続ける(不死のため死ねない)ことになった。
※後に紆余曲折あって英雄ヘラクレスに救出される。
このプロメテウスがなぜキリスト教のイエスと重ねて絵画に表されることがあるのかというと、
・人類のために自らを犠牲にしたこと
・それ故に磔にされる刑を受けたこと
・刑罰を受けた場所が高所(カウカソス山、ゴルゴダの丘)
というような共通項が見られるため。
この考え方に加えて、おそらくスイ先生は
プロメテウスは神に逆らった存在
=神に対する反逆者
→キリスト教の悪魔
という独自の発想のもと、神の子イエスであり悪魔の王サタンである世長のモチーフの一部に起用した――と考えられる。
世長ルートの最終公演でアタルが世長に向けて言う「あいつが劇場に火をつけたのさ。」というセリフも、おそらく彼が(アンバーが支配する劇場から)人々を救うプロメテウスだから。
さらに、プロメテウスの内臓を喰らうワシは、世長自身でもあるヘビの敵対存在として神話や伝承に登場することがあるのもおそらく理由の一つ。
また、特典イラストでは柱の光が途切れ途切れになっているが、これはヘビの体の模様や蛇腹の表現の可能性がある。
十字架とヘビの組み合わせ(青銅の蛇)は、イエス=世長を示すものでもあり、クォーツのクラスシンボルにも起用されている。
さらに棒とヘビはミシャグジ信仰とも関わりが深い。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n57449ab553e6
⑦キューピット
西洋絵画において、キューピットなどが知性の象徴である本を踏みつける姿には、どんな知性も神の前には無力(虚栄)という意味がある。
つまり、
世長=キューピット
プロメテウスに続いては?という声と、天使なんて世長に似合わない!とかいう言葉をぶつけられそうなので、こっちも簡単に解説。
キューピットは勘違いされがちだが、そもそも天使ではない。
ローマ神話の「男神」で、ギリシア神話ではエロスという名前で登場する。
その他にアモールと呼ばれることも。
妻は元人間で絵画では蝶とセットで描かれる美女プシュケー。
キューピットは「愛欲(=性)」を司り、プシュケーとの異類婚姻譚などでは「ヘビ」に例えられる。
要するに、世長=「性」と強い関わりを持つ「ヘビ」の神そのもの。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n57449ab553e6
話が果てしなく長くなるため今回は省略とするが、このキューピットとプシュケーの異類婚姻譚は世長と希佐の関係に始まり、ジャックジャンヌの物語全体の構造や大伊達山信仰にも深く関係している。
この関係性が最もよく出ているのは、冬公演のオー・ラマ・ハヴェンナ。
以下にジャックジャンヌ全体で特にわかりやすいものをいくつか挙げておく。
・チッチのモチーフの一つは蛾(夜の蝶)
→プシュケーのシンボルであり彼女そのもの。
・フギオーとチッチは基本的に夜にしか会っていない
→キューピットとプシュケーの最初の婚姻生活。
・フギオー「(対チッチ)俺なら君の望むものを与えてあげられる。
欲しいものも、現実を忘れる時間も。
だから、ヨモギ売りの仕事なんか……」
→プシュケーは至上の楽園のような宮殿でキューピットにもてなされた。
・希佐と世長は大伊達山が近いユニヴェールで再会する
・EDのタイトルが「風が吹いたんだ」
→キューピットとの婚姻が決まったプシュケーは山(=大伊達山)の上で、風の神ゼピュロスに運ばれ(=風が吹いたんだ)、彼の用意した宮殿(=ユニヴェール)にやってきてもてなされる。
※ただしEDはキューピットとプシュケーの伝承以外も複数の元ネタが組み込まれていることに注意
※世長が歌詞やタイトルに深く関係しているのはOPも同じ https://note.com/snowblossom_jj/n/naa08a0462562
・世長「僕を見ないで……。
恥ずかしいんだ……。
先に戻るね……お疲れさま。」
※世長の親愛イベント3
→神と人の異例の婚姻ということもあり、プシュケーはキューピットの姿を見てはならなかった。
夜しか現れない謎の夫に対し、姉たちに唆されて好奇心や不信感を募らせた彼女はロウソクの明かりで、眠るキューピットの姿を照らしてしまう。
愛するプシュケーに禁を破られ、彼女の不注意により火傷まで負ったキューピットは、嘆き悲しんでその場を跡にする。
・(他のキャラから受け取ることもあるが休日会話で)希佐は世長からハチミツ飴をもらう
・玉阪市は養蜂が盛んである
→紆余曲折を経てキューピットと再会したプシュケーは、神の酒ネクタールを口にすることで神々の仲間となり、種族の違いを超えてついに彼と結ばれる。
この神の酒ネクタールは英語で花の蜜を意味するnectarの語源で、先に挙げたイベントや設定もこれが元ネタの一つと思われる。
※不二家が販売している飲み物、ネクターも同じ由来を持つ。
良い感じにピンクなデザインをしているので、ソウキサが好きな人はこの機会に試しに買ってみてもいいかもしれない。
(余談)不二家のネクター以外にも、天使のような翼を持つキューピットと蝶の羽が生えたプシュケーの夫婦が描かれた絵画がサイゼリアに飾られてることが多い。
⑧東京喰種
7net特典色紙の世長の構図は、東京喰種の#002 異変のカネキ、東京喰種:reの委舵と畏蛇:2のハイセの扉絵をアレンジしたもの。
世長はスイ先生の前作「東京喰種」の主人公の金木研とキリスト教での元ネタが同じ。
※詳しくは「東京喰種 キリスト教」などで検索すると色々出てくる。
その他、カネキのCVを担当した花江さんは世長ルートに大きく関係する百無にも声をあてている。
大伊達山信仰の考察が正しいのであれば、世長ルートは前作主人公による本作裏主人公への試練をメタ的に描いていたと考えられる。
(世長を六月に似ていると評する人もいるが、受け手によってはどちらもヤンデレぽく見える程度で、おそらく元ネタはほぼ被っていないし、カネキと異なり対比構造も存在しない。
というか、世長が失恋から六月のような行動をとる人物ならば、ジャックジャンヌという作品は成立しないと言ってもいい。)
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n57449ab553e6
さらに、世長ルート最終公演で世長に向けられた以下のセリフ
ダンテ「遠い空まで映し出す水面のように静かですネ……。」
とは、天空の鏡という異名を持つ空を映す湖のウユニ塩湖が元ネタ。
鏡はクォ-ツの器(=透明な器)であり、神の子イエスである世長自身を示すもの。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4
加えて、TVアニメ版の東京喰種で一番最初に使用されたOP、unravel(凛として時雨)の映像で最初と最後にカネキが現れる場所もおそらくこのウユニ塩湖がモデル。
要するに、めっちゃ細かい小ネタであり、世長とカネキの隠された対比構造を表したもの。
(unravelという曲がスイ先生にとって大きな存在となっていることは、アレンジバージョンが石田スイ展で使用されていることからも感じられる。
他にも、東京喰種 JAILに使用された贅沢な骨の歌詞なども、おそらく世長の元ネタにこっそり混ぜ込まれている。)
①~⑧により、世長の7netの店舗特典イラストは全体として
・世長が持つ神と悪魔の二面性(Heads Or Trails 表か裏か)
・世長という王(蛇神)の前に全ては無力という全能性
・世長が東京喰種のカネキと対をなす本作の裏主人公(キーキャラ)ということ
という、主に以上の三点を様々なシンボルを用いて一枚に落とし込んだものと考えられます。
(こんなん分からん……。)
そこのお前!
世長の7net特典色紙一枚に含まれる意味は
主に西洋絵画6点、小説1冊、東京喰種1巻分だぜ!!(多分)
スイ先生の頭はコスモか?(褒めてる)