【考察】ハヴェンナの言葉を読み解く

※2021.7.12 ふせったー再録。
※2023.5.13 読みやすさと分かりやすさを重視して加筆、修正。

既に何人かの方が同様の考察をされていますが、自分用に別途まとめが手元にあった方が便利だと思ったので作成しました。
友人及びフォロワーさんたちのご協力にも改めて感謝いたします。
なお、今回は大部分に慣れない&古い言語が絡む考察です。
辞書や翻訳アプリなどを使用して最低限の確認は取っていますが、至らない点があればマシュマロなどを使用して筆者にご連絡ください。

まず、冬公演「オー・ラマ・ハヴェンナ」の基本的なルールとして、ハヴェンナ内の存在には主に(古い)ラテン語、外の存在にはスペイン語をベースにした独自の名前や言葉があてがわれています。
※キリスト教に関連する命名など一部例外もあります。
また、各公演内容含めジャックジャンヌ全体に言えることですが、一つの言葉や事象に対してダブルミーニング、トリプルミーニングがあるのは当たり前です。
以下に挙げるハヴェンナ語の訳はあくまで一例として捉えるようお願いします。
その他、下記のラテン語、スペイン語は文字化けなどを避けるために一部スペルを似た形のアルファベットで代用して記載しています。

①チカチーナ 
スペイン語の女の子 chica+可愛い tierna
→チカ+ティエルナ
→チカチーナ

②ルキオラ
ラテン語の蛍 lucciolaから。
ルキオラ(ホタル→光るもの)に執着するチッチ(蛾、夜の蝶がモチーフ)という関係を、虫が光るものに群がる性質(集光性)になぞらえている。

(補足)チッチのデザインと性別
本題から逸れるがこの機会に簡単に解説する。
チッチの外見は髪飾りの形状=触角が顕著だが、蛾(夜の蝶)をイメージしている。
しかし、この蛾の特徴的な櫛状触覚は基本的にオスのみが有するものである。
言動や名前を含め女性性を強調されているチッチがオスの蛾の触角をイメージした髪飾り≒男性の格好をしている理由の一つは、演者の希佐が男装の少女であることを意識したメタ的な表現である。
※その他の理由については冗長となるため今回は割愛。

③ミゲル
スペイン語で天使ミカエル Miguel。
ミゲルに天使のイメージを付与しているのは冬公演が旧約聖書のソドムとゴモラを元ネタの一つにしているため。
欲望と快楽の街ハヴェンナ≒堕落した街ソドムであり、そこに外の世界からやってきたミゲルとチッチ≒神が遣わせた二人の御使い(天使)という図である。
チッチは希佐が冬公演をふまえて最終公演で演じるシシアが一部ルートで天使のイメージと言及されるのがヒントの一つになっている。
ただし、元の話に登場するのは一般的にミカエルとされることがなく、フミの役名にミゲルという名前を起用した理由はもう一つ別に存在する。
※本題から大きく逸れるため今回は割愛。

④フギオー 
ラテン語で逃げる fugio。
チッチとハヴェンナから逃れたい男であるため。
自らを束縛する家族や故郷から逃れられない少年(→フギオーにとってのハヴェンナ)の物語である寺山修司の映画『田園に死す』を意識している節がある。
なお、この点はゲーム本編よりもノベライズ『ユニヴェール歌劇学校と月の道しるべ』(アニメイト電子特典を含む)の世長に関する描写の方が比較的分かりやすい。

④ジレ
板挟みを意味する「ジレ」ンマ(ラテン語でもそのままdilemma)からと思われる。
少し捻ったミーニングなのはジレに、天使ミカエル(=ミゲル)と縁のある男装の少女ジャンヌ・ダルク(=チッチ)を神聖視する「ジル」・ド・レが元ネタの一つとしてあてがわれているため。

⑤ドミナ 
ラテン語で女主人 domina。
女主人を意味する名前を持つギリシア神話の結婚の女神ヘラがイメージの一つにあるため(詳細は㉒カリブンクルスの項目を参照)。
また、遠藤周作の小説『月光のドミナ』も意識していると思われる(※フォロワーさんより情報提供)。

⑥ファキオ
ラテン語で作る、営むなどを意味する facio。
ポンタルチアの店主であるため。

⑦神父
神父の「我らの神は我々の強欲、怠慢、妬み嫉みのすべてを愛しておられる」というセリフから、彼が崇拝するのは通常の神ではないことが察せられる。
特に、キリスト教において強欲、怠慢、嫉妬は七つの大罪に含まれる人間の悪徳とされている。
また、彼が身につけているアクセサリーは悪魔崇拝を示す逆十字(※ただし冬公演では他の意味もある)であり、衣装自体も全体をよく見ると赤い部分が同じシルエットになるように調整されている。
ここから神父及びハヴェンナという街が信仰するのはキリスト教の神ではなく悪魔もしくはそれに近しい存在であると推測できる。
根地がカイの最初の演技を気に入らなかったのも、彼が一般的な神を信じる神父を求めていなかったためと考えられる。

⑧ハヴェンナ 
英語の楽園(天国) heaven+ラテン語のゲヘナ(地獄の一種のようなもの) gehenna
→ヘヴン+ゲヘンナ
→ハヴェンナ
ここで天国を英語表記にしているのはハヴェンナが水に囲まれた街なのが根地の拘りの一つで、英語で停泊所や港、安息の地を意味するhavenとダブルミーニングにしたいからと思われる。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n2cd823c712cf

⑨オー・ラマ・○○
ラテン語で愛 amorのアナグラム。
amor→o ram→oh ram(正しいスペルはポスターイラストで分かる)。
語感的に英語のI love ○○を意識しているのではないかと思われる。

<例>オー・ラマ・ハヴェンナ
直訳は「ハヴェンナ愛してる」になるが、作中での描写的にはもっとカジュアルな感じで「ハヴェンナ最高!」くらいのニュアンスか。

⑩歌小屋
作中の描写からおそらくショーパブ(のような場所)。

⑪セッカンダ
音と文脈からの推測。
おそらく英語の二回目 second→ラテン語のsecundusあるいはsecundoから。

<例>客B「もっと聞かせてくれ、セッカンダ! セッカンダ!」
ここではアンコールの代わりの言葉として使用されている。

⑫ヨモギ売り
ヨモギは春の植物で、ヨモギ売りは女の仕事らしい
→ヨモギ=春(の植物)を売る女
→売春婦のこと
※解説 https://note.com/snowblossom_jj/n/n7ef59ca4f9a9

⑬アグァクラブのプリンケプス
ここはセットで解説。

1.アグァクラブ
アグァクラブ→アグア+クラブ→(ラテン語で)水 aquaのクラブ
これだけでは意味不明だが、フギオーに関連する会話で劇場の星やショーのチケットという言葉が登場することから何かを見世物にしている施設であると推測できる。
なので、このアクアにあたる部分に少し捻りを加える。

水に関係していて何かを見世物にする施設
→港の岬にあって船を思わせる形状をした建物
→シドニー・オペラハウス

夏のウィークエンドレッスンに登場する船型のオフィスを所有するグレートガリオンSJBの存在を考慮すると、冬のアグァクラブは対比でシドニー・オペラハウスを元ネタにした船型の劇場という設定の可能性は十分にありえる。
また、夏のカンナと冬のフギオーは
・カンナ→名前が植物のカンナの女性
・フギオー→花がトレードマークの男性
であり、どちらも世長の役の中では華寄り(華やかで明るい存在)という対を意識した配役になっている。
よって、アグァクラブはオペラハウスのことと思われる。

2.プリンケプス
ラテン語で皇帝 princeps。
ただし、作中での使われ方は王子の意味が近いと思われる。
princepsは英語の王子 princeの語源であり、世長のフギオーの参考になったアタルのあだ名も「オニキスの王子様」である。

以上により、1と2からアグァクラブのプリンケプスはオペラハウスの王子様の意味。
(フギオーがヨモギ売り=売春婦のチッチを買っているなんてバレたらスキャンダル扱いな訳である。)

⑭チグリス通りのケバブ
実在する河川のチグリス川が由来。
旧約聖書の創世記において、エデンには四つの川が流れていたという記述があり、そのうちの一本がチグリス川であるため。
(よってハヴェンナ内には他の残り三つの川と同じ名前の通りが存在する可能性がある。)
※ハヴェンナは楽園、天国(英語 heaven)とゲヘンナ、地獄(ラテン語 gehenna)の二つの側面を持つ。
ケバブはこのチグリス川の源流があるトルコの料理。
他に作中では「ケバブでもピラフでもどうでもいい」というファキオのセリフがあるが、ピラフもケバブと同じトルコ料理である。

⑮ポンタルチア
冬公演の内容と関わりが深いヨモギを原料とする酒アブサンの名産地ポンタルリエから。
※詳細 https://note.com/snowblossom_jj/n/n7ef59ca4f9a9

⑯マトリック
ラテン語で子宮 matrix。

<例1>ドミナ「(対チッチ)マトリック臭い子」
直訳の子宮臭い子というより同じ下半身に関するものを指してると考えて、ションベン臭いガキ的なニュアンスで使用していると考えるのが妥当か。

<例2>ルキオラ「(対ドミナ)腐れマトリック女!」
そのまま腐れ子宮女、もっと言うと腐れマ○コ女と言いたいと思われる。

⑰夜部屋
作中の描写からおそらくホストクラブ(のような場所)。

⑱ネシロミ
ネシロミ→梨の語源の一つと言われている
演劇、主に歌舞伎の世界を梨園と呼ぶことに由来。
ネシロミ(→梨)農家のミゲル=日舞の家(高科家)のフミということ。

⑲豚のケツ通り
ブタはユダヤ教において不浄の生き物として忌み嫌われており(ユダヤ教徒はブタを食べない)、この考えがキリスト教にも影響を与えたため。
固有名詞だがブタ(=不浄の生物)のケツ(=不潔な部位)と命名されているくらいなので、相当汚いというか不衛生な通りだと思われる。
昔のヨーロッパのように排泄物を道に捨てている(もしくは捨てていた)のかもしれない。
なお、冬公演の作中のセリフにはネズミも登場するが、こちらも良い意味がないのは何となく分かるだろう。

<例というか補足?>ルキオラ「(対ドミナ)そのブタ汚い口を閉じて!」 
不浄な生き物にさらに汚いという言葉まで足しているので、「クソ汚え口を閉じろ」くらい乱暴な言い回しではなかろうか。

⑳バクークッキー
バクーは火の国と呼ばれるアゼルバイジャンの首都。
ミゲル=ミカエルは火を司る天使と言われているため、火繋がりで昔を思い出させてくれる味という設定になっている。
チッチも子どものころに食べたことがあるのは、③ミゲルの項目で解説した通り彼女も元ネタ的に天使にあたる立ち位置のため。

㉑○○パニエ
下着の一種であるパニエからか。
パニエは鳥籠のような形状からフランス語の籠 panirが由来で付いた名称らしいので、ハヴェンナの閉鎖的な風潮を意識しているのかもしれない。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n7ef59ca4f9a9

㉒カリブンクルス
古いラテン語でザクロ石(ガーネット)などの赤い宝石 carbunculus。

ドミナ「将来はカリブンクルス模様のチョウチョかしら」
ファキオ「ファキオの女は、カリブンクルスの指輪をはめることになる」

以上、二人のセリフに異なるシーンで登場するが、どちらもチッチに向けられた言葉である。
これは冬公演において、チッチ=シーデー、フギオー=オリオン、ドミナ=ヘラ、ファキオ=ゼウスという形でギリシア神話の悲劇が元ネタの一つに取り込まれているため。
シーデーは全能神ゼウスの妻ヘラと美しさを競ってタルタロス(奈落)に落とされたオリオンの最初の妻であり、その名前はザクロ(→「ザクロ」石)を意味する。
 
㉓ヴェルミクルミ
ラテン語で小さな虫 vermiculum。

<例1>ルキオラ「(対ドミナ)このヴェルミクルミ!」
<例2>チッチ「(対ドミナ)年増のヴェルミクルミです」
ファキオ「まぁまぁ、私のチョウチョさん。」
というセリフの通り、チッチだけでなくドミナにも蛾(夜の蝶)のイメージが付与されてることからくる暴言と思われる。
※詳細 https://note.com/snowblossom_jj/n/n2cd823c712cf
日本語でも相手を罵倒する意味で虫けらやウジ虫といった表現をするため、
「この羽虫女!」
「年増の羽虫女です」
という意訳が妥当か。

㉔イコノスタシス
そのまま英語の聖障 iconostasisから。
専門用語が多く解説が難しいので雑に言ってしまうと、聖障とは教会の聖堂の建築構造の一部で、特定の部屋を仕切っているイコン(宗教的な意味合いが込められた図像)の飾られた壁のこと。

<例>ルキオラ「フギオーは(中略)私のイコノスタシスよ!」
「フギオーは私の聖域よ!」が近いニュアンスと思われる。

㉕ファルサ男
ラテン語で人を欺く、偽りのなどを意味する falsus。
もしくはフギオーがチッチを買った=売春が行われている場所にルキオラが乗り込んだシーンで使用された罵倒のため、陰茎を指すラテン語 phallus。
ダブルミーニングの可能性もある。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n7ef59ca4f9a9

<例>ルキオラ「(対フギオー)ファルサ男!」
嘘つき野郎、(勃起)t○k野郎、どちらの意味でも容赦ない罵倒をしているルキオラ。

㉖エブリエタス男
ラテン語で酩酊 ebrietas。

<例>ドミナ「(対ファキオ)このエブリエタス男」
文脈的には自己陶酔野郎の意味と思われる。

以上、ハヴェンナ語の考察でした。
今後、もし何らかの形で新しい言葉が登場した場合は追記します。