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くすぐったい距離

彼を思い出すときは、いつだって制服姿。いちばん好きだったのは、学生時代の彼だったんだと思い出させてくれる。

同じクラスでもない彼と出会ったきっかけは、高校までの電車のなか。となりの車両なんとなく見かけていた。背が高くて、あんまり笑わない。無愛想っぽいのに、さりげなく優しくて。彼の姿を探していたり、メールの返事が嬉しく感じるようになるのに時間はかからなかった。

彼のことをかっこいいなと思う気持ちと同時に、その気持ちは胸に秘めておこうと思った。たまに一緒に帰りながら話している関係をずっと続けたかった。

***

そんな彼と2人で出かけたのは、高校を卒業してから1年くらい経ったころ。
よく晴れた暑い日だった。

すきなマンガの実写映画が公開されていて、お互いにお休みの日に一緒に行くことになった。彼はマンガを読まない人。だから、合わせてくれたのかな?って今になって思う。そのくらい当時のわたしは舞い上がっていた。

映画館までは、彼の車に乗っていくことになった。迎えにくれた彼の車に乗りこむということが、その時のわたしの心をぎゅっとさせるのには充分だった。
車の中は涼しくしてくれていたはずなのに、しばらくたっても身体のほてりはおさまらなかった。

私服の彼は、学生服のときとは違っていて。同級生というよりも男の人だった。顔をあまり見れないまま、車が動きだした。

元気だった?なんてたわいのない話を投げかけてくれる。運転している横顔をちらりと見ながら、ポツリポツリ答える。

緊張してあまり覚えていないのだけど、映画は楽しかった。泣きたかったのに、近い距離に彼がいるのだと思うと泣けなかったことは、はっきりと覚えている。

一緒にいたのはほんの数時間だったのに、近くに彼がいることがすごくすごくくすぐったかった。
停車するためにバックするときの仕草にはやっぱりどきっとしたし。道路側を歩いてくれたり、飲みものを買ってきてくれたり。そんなひとつひとつが嬉しくて、くすぐったかった。

やっぱり彼が好きだなって感じた。

***

一度抱いてしまった好意がずっと残っていたのは、伝えてもらった彼からの想いがあったから。わたしは、彼に甘えていたんだ。

彼に出会えたから、好きの気持ちには素直になりたいと思えるようになった。
でも、彼に出会ってしまったから、恋愛の好きの関係が怖かった。

好きとか嫌いとか。
たったそれだけで関係が決まってしまうことがすごく怖かった。そんな風に思っていたからか、適度な距離でずっといてくれた彼。この想いには、どんな名前が似合うのかわからない。わからないから、ずっと残る。

ファーストデートと聞いて、最初に思い浮かんだのは、彼だった。
ファーストデートという言葉が、ぴたりとくるのもあの夏の映画に行ったこと。
好きとか嫌いとか。それだけで終わりにしたくなかったくらい。ずっと尊敬していたし、ずっと大好きでいたかった人との大切な思い出。



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