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少しずつ過去の自分に決着をつけてゆく

先日(5/9)、ダイアナ・クラールというカナダ出身のジャズピアニスト&シンガーのライブを聴きに行ってきた。
以前の来日時も気になってはいたのだが、そこまですごいファンでもないのに行くにはチケットが高すぎて、ずっと諦めていた。
でも今回は、一度は生で聴いておこうと思って奮発した。

昭和女子大人見記念講堂、素敵なホールだった。

なぜ今更そう思ったか…

2つくらい自分の過去を清算したかったから…かもしれない。

だいぶ先輩だが、彼女もボストンのバークリー音楽大学出身だ。
かつて私が同大学に在籍していた時、私はソングライティングを専攻していたのだが、自分の作った曲をクラスの皆の前でパフォーマンスする授業があった。
私はバークリーに行くまでクラシックピアノしかやってなくて、自分で曲を書いたのなんて、その課題で書いたのが人生で初めてだったと思う。歌詞を書くのも初めて、しかも英語で。笑
ところが、その授業で初めて書いた曲を弾き語りした時、先生が思わぬ良い反応をしてくれた。
「3拍子の曲は珍しいし、なんか良いな。。そうだ、ダイアナ・クラールに送ってみたらどうだ?」
と、彼女の事務所の連絡先をメモしてくれた。

は…?!そんなことある??笑

私は先生の言ってることがにわかには信じがたく、真面目に取り合わなかった。手紙を書いてテープを送るのも面倒でそのまま放置した。

でも、今になっても時々思う…。
「バカ、私!なにやってんのよ!」って。笑
たとえ連絡して相手にされなかったとしてもそんなの当たり前で、どうせ相手にされないだろうから送らない、ではなく、どうせならそのおいしい話に乗っかって送ってみれば良かったのだ。学生なんだから余計そんなのどんどん乗っかれば良かったのよ。笑
それに、万が一(のチャンス)のある無しは私が決めることではない。でも放棄したら万が一さえ起こらない。
帰国してもう20年以上経つが、普段はまあそんなこと忘れているけれど、何かの拍子に時々思い出しては、「あぁ……」って残念に思ったりしていた。

なんかその後悔?みたいな思いを彼女の生のプレイを聴きながら、きちんと味わい尽くしていい加減昇華させたかった。

まずそれが理由その1。


2つめ。
日テレのアーカイブ(映像ライブラリー)で働いていた頃、上司のお宅のBBQパーティーに誘われて参加した事があった。
その上司は元々は局のカメラマン(ドキュメンタリー番組メインの)で、父より少し下の世代だが、かろうじて父のことを知っている方だった。カメラマンは引退して生田スタジオのフィルム管理を任されていて、私は生田の研修で1度お世話になった程度なのだが、父のことを知ってるというだけで少し良くしていただいていた。
私がバークリーに行っていたというのもご存じで、そのBBQパーティーの時にその上司お気に入りのダイアナ・クラールのライブDVDを流してくれたりした。実際そのライブ映像はすごい良いなぁ…と思っていた。

そしてその上司のご自宅には古いアップライトピアノもあった。
当然「ちょっとなんでも良いからなんか弾いてよ…」という流れになる。

出たよ…、ちょっとなんか弾いてよ攻撃…。。

私はこれが苦手中の苦手だ。
よく知らない場所に行って、知り合いが私を人に紹介してくれる時、大抵「彼女はバークリーに行ってた…」みたいに紹介されるのだが、私はジャズは弾けないし、アドリブで弾くこともできない。
少し調子の良いときは幻想即興曲(ショパン)の触りだけほんの少し弾く時もあったけど、そうすると「あ…これガチなやつだ…」とか言われて盛り下がる。
「他になんか弾けないの?」
すみません、弾けないです。。
その上司のお宅でも案の定「なーんだ…そんな程度か…」的な空気にしてしまい、いたたまれなくなった。

こんなやりとりは1度や2度じゃない。
嘘のない学歴だからあまり隠しようもないんだけど(笑)、そんないたたまれない空気になるのがとにかく嫌で、自分が留学してたとかピアノ専攻してたとか学歴とかをなるべくひた隠しにして過ごしてきた。
上記のように知り合いがそうやって私を初めての人に紹介する時は、謙遜してみせかけながらも、もうマジでやめて欲しい…と内心いつも思っていた。。
これは割と最近もあって、「ああ、私ってバークリー行ってた人としか説明しようがないんだなぁ…」とつくづく思わされた。

学生時代の当時、バークリーの前に行ってたコロラドの大学(音楽学部でクラシックピアノ専攻)はすごくきちんと勉強して、良い成績で卒業して、個人的には満足だったんだけど、帰国した時に誰も知らない大学を出たところで…と思って、就職するのに箔をつけておきたい、日本でもある程度知られている大学に行っておきたいと思った。
他に受けた大学院はどこも受からず、偶然バークリーだけ受かった…というのもあったのだが、欲しかった学歴を手に入れたものの、自分がそれに追いついてなくて結果的に自滅したパターンだ。
いや、学歴のためだけじゃなくて、実際私は商業音楽に強い興味があったし、将来音楽業界で働きたいと思ってたから、バークリーは行ってみたかったし、それなりにしっかり充実した時間は過ごしてきた。
でも卒業もしてないし、日本では「ジャズの学校」として認識されている(?)のにジャズは何もできないまま帰ってきてしまった。だから下手にバークリーに行ってたなんて言うと、自分の首を絞めることになるのだ。
でもそこまで学生時代の間には予想できなかった。
良かれと思って頑張って得た自分の"学歴"にこんなに苦しめられるなんて…。苦笑

話が盛大に逸れたが、ダイアナ・クラールのライブといえば…で思い出すのがそんなバークリーにまつわる度々チクンと刺さるエピソードだったのだ。

これだけ音楽を勉強してきたんだから…という何の役にも立たないプライドと、その学歴にちっとも追いついてない自分がなんか哀しくて、なんとか少しでも、どんな形でもいいから音楽に関わることで自分を成り立たせたいとこれまでずっと必死に縋りついていた。これを手放したら本当に何も残らない…と思って、怖くて怖くて捨て去ることなんてできない!と、ずーっと執着していた。

しかしここへ来て、私はとうとう全く別の道を選ぶことにした。そう決めて、この音楽へのものすごい執着を今ようやく手放せそうな気持ちになっている。
だからこのタイミングで彼女のライブを観て、これまでの痛々しい思い出を成仏させてこよう…みたいな。。ちょっと訳わかんないけど、そんな気持ちだった。

これまで彼女のアルバムとか聴いてもそんなにすごい好きという訳でもなかったが、ただジャズの弾き語りは珍しいし、かっこいいと思っていた。(ジャズの弾き語りって他にはニーナ・シモンと綾戸智恵さんくらいしかすぐ思いつかない。ナット・キング・コールも歌とピアノ両方演るけど、弾き語りしている動画を見た事がないし。)
肝心のライブはとても良かった。良い感じに肩の力が抜けた余裕のある雰囲気の演奏でとてもかっこよかった。
ただやっぱり途中で飽きた。実際2時間近く休憩無しの太っ腹なライブだったので、通常よりだいぶボリューミーだったせいもあるのだが…でもやはり、1度聴いておけば満足、といった感じ。今回が最初で最後かな…と思う。(まあ、そもそもそのつもりだったんだけど。。)
過去の色んな個人的な思い出を成仏させるため…がこのライブを観る1番の目的だったので、その意味では行って大正解だった。
2万出した甲斐があった。

こんな風に少しずつ過去の自分に決着をつけることで、「私は大学で音楽専攻してました、バークリーにも行ってました、そのくらい音楽やってました。でも、そっちじゃなかったとやっと気づけたので、音楽じゃない方のアーティストになります。」…と、本格的にそっち方向に自分自身をシフトして行けているように思う。意識が完全に変わるまでもう少しかかりそうだけど、でももう大丈夫だと思う。

てか、もうこんなことだらだらと書かなくて良いくらい自分の中ではもうスッキリ決まってるの。
ただ心情を記しておきたかったってだけ。

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