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弱いzineってなんだ?

ギャラリー、公演、避難所、絵本……?謎の空間「弱いzine」をつくるosamuosanai、AntiSatori両氏にお話を伺いました。
弱いzineってなんだ?一体全体なんなんだ?

この記事は2021年2月26日(弱いzine公開直後)のインタビューによるものです。

弱いzineの誕生

ーー始めに弱いzineが出来るまで。何がきっかけでこのプロジェクトが始まったのか教えてください。
osamuosanai(以下o):僕が去年(2020年)の2月から賢いULYSSES*でライブをやらなくなって。コロナがめちゃ怖いからなんですけど。ライブの代わりに何か表現出来ないかと考えた時に思いついたのが弱いzineのコンセプトで。それで弱いzineをとりあえず何かの形で作ろうと思って。最初にできたコンセプトが「SNSに疲れてるけどSNSが好き」みたいな人が休める場所になるようなもの。例えば僕がSNSでフォローしてるみたいな感覚で、僕がその人の事を知りたいと思ってるような身近な人たちの作品をテーマ無しでぎゅっとまとめるみたいな。で、そのwebサイトを作ってくれる人を探していた時に、友達のAntiSatoriに久々に出会って、やってもらって。それでwebサイトが公開されたという感じです。
ーーAntiSatoriさんが技術的な部分を支えてるということですね。
o:そう、webサイトを作ってるということですね。
AntiSatori(以下A):あとデザインもロゴとかそういうところ以外は基本的に自分が考えてます。
o:ロゴとか表紙とかを、最初は僕が作ったやつをAntiSatoriに送って、これでこれでここに置いて、みたいな。画像だったら簡単な図案をAntiSatoriに送って画像内の文字をどう置くかとか、記事だったらどう改行するかとか。こういうのをWebデザインって言うんですけど、それをAntiSatoriが行っています。
A:Figma*というデザインのツールがあるんですけど。こういうデザインとか構成にしようみたいな話をしながら、zineの基になるものを一緒に作ったんですよ、少しだけ。それも凄く簡単なものしか作っていないので、実際のwebサイトのデザインを自分で考えながら、見やすくなるようにやってます。でもサイトを開いた時に回っている「弱いzineってなんだ?」はosamuosanaiの提案です。

弱いzineトップページをスクロールすると現れる…

A:最初は出町柳の福到*という中国茶の店で、そこで一緒にお茶を飲みながら……。
o:会議したよね。弱いzine会議。第1回の。
A:まあ一緒にお茶飲んでるだけですけど。それで、ピクセルの「弱」ってロゴみたいなものをお絵かきアプリで描いて作って。そんな感じ良いよね、みたいな話して。それで最初にロゴが出来て、それを元にさっき言った文字が回ってるものを作ったり、それらのイメージに合うようにサイトのデザインとかを考えましたね。
ーーなるほど。
o:ロゴはこれのことなんですけど。これって何なのか分かりますか。

弱いzineの弱いロゴ

ーー「弱」という字に見えます。弱いし泣いてるし。
o:あ、泣いてるってわかる?この間知り合いに「この弱いzineのこのロゴが良いよね。」って言われて。この「弱」のやつですかって言って。そしたら「ウサギが……」って(笑)
A:ウサギ!?(笑)ウサギ、確かに。え、でもウサギには流石に……。
o:見えないよね。それで「これは『弱』という漢字が泣いてるんですよ」って説明したら「全然そんな風に見えない」って言われて。
A:へ〜。でもウサギに見えるって凄い。
o:そうなんだ!って思って。自分で作ったからこの意味がわかってるけど、見てる人には全然わけのわからない絵に見えてるのかもしれないと思って、ちょっと怖くなったんだよね(笑)
A:でもウサギに見える人はなかなかいなさそうやな。
o:まあウサギ…には見えないかもしれないけど、全然何なのかわからない人はいるかもしれないなと思った。
ーー確かに「何かロゴがあるなあ」くらいの人は何のロゴかわからないかもしれないですよね。私も拡大してやっと「泣いてる!」と気が付いたので……。

大変にならないように

ーー何か大変だったことはありますか。
A:これが特に一番大変やったとかはあんまり。文字ふわふわさせたりとかは、大変っちゃ大変ですけど、別にめちゃくちゃ手間がかかったというわけでも無いですね。難しいことがあったら難しいからやめとこ、みたいな感じで(笑)どちらかというと出来る範囲のことでやってるような感じです。難しいことは後にして、とりあえず公開する為に早めに完成させようとしました。だからデザインもシンプルだし、カテゴリとタグみたいなものは無いし。このままどんどん作品を追加してたら、バーッと作品名と作者名だけがめっちゃくちゃ長く表示されるようになっちゃいそうなので、もしかしたら今後ちょっと改修するかも。でもそういうのはちょっとめんどくさいから考えずにしてます。
o:頑張って何かを作った感じにしたくないから、基本的に大変なことは大変にならないようにしようと思ってるんですけど。でもコーディングはAntiSatoriに任せてるから、こういうのできる?みたいに聞いて、こういうのだったら一か月ぐらいかかる、じゃあやめとこう、みたいな。基本的に相談してるのはそういう感じです。ギャラリーができて、新しい記事を載せていくことができるみたいな。そこが最初の完成で、目標だったから。今それができて、さっきAntiSatoriが言ったように記事が増えていったらどうするか、とか課題はあるけど。
A:難しいことは本当に要求してないし、本当に簡単に作ってます。
o:でも僕が去年うつになって、AntiSatoriもいつも頭が痛くて。二人が体調悪くて全然話にならないというのが一番大変なことですね。
A:そうですね(笑)単純に「やれへんとあかんなあ」と思いながらも、ずっと体調が悪いから進まないなみたいなことが多かったし。そもそもこのサイトって自分が10月ぐらいから精神病院に入院してたんですけど、その間にほとんど作ってるんですよ。だから一番大変やったんは入院してたことですね(笑)
o:入院してたのは大変だったの?
A:入院自体は大変ではなかったというか、むしろ入院してたから楽やったというのはあるんですけど…。まあそもそも入院するぐらい体調悪かったことが大変やったかな。どっちかっていうと。だから弱いzineと直接的に関係あるところじゃないですね。
o:逆に言えばそういう精神的にも社会的にも弱い僕らでも何か出来ることを、って生まれたものみたいな感じ。

今並んでいる作品たち

o:僕が何でもいいから作品を送ってくださいってお願いを。最初の締め切りは2020年の11月1日でした。
A:サイトが出来ていたわけではなかったから、もっと遅くてもいいんじゃないかなと思ったけど。締め切りがあって、期間が短い方が良いみたいなことを言ってたんだよね。
o:そう、短い方が良いなと。短いというのはどれくらいだったんだ…?
A:2〜3週間?
o:そうだね、2〜3週間ぐらいか。早く送りたい人は早く送れるだろうなあと思って。すぐに何かを送ることが出来るような気楽さを持って、何か送ってほしいなと思ったので締め切りまでの期間を短くしました。

ーー最初にこれをお願いしたのはどういう人たちだったんですか。
o:簡単に言うと僕の身近な人たち。職業とかやってることとかみんなバラバラなんだけど、僕の関係性の中でのいろんなエキスパートというか。なぜそういう人たちに送ってもらったのかというと、自分のタイムラインを作りたいと思ったから。Twitterで知りたい情報があったら、その情報をアウトプットしてる人たちをフォローして自分のタイムラインを作るみたいな。でも自分のタイムラインは自分しか見れないじゃないですか。それを見て欲しいなと思って。僕自身がドゥームスクローラー*で、Twitterとかインスタとかずーっとスクロールしちゃうんですよ、不安を抱えながら。明るいニュースがないかなと思って。でもこれって凄く精神的に良くないことだなと思いつつ、だけどもうそれしか出来ないようなタイムラインを自分で作っちゃってるわけですよね。いろんな方面の自分の必要な情報をミックスしたタイムラインになってるというか。フォローした段階では「良い情報が足りないから不安なんだ」っていう気持ちを補うかもしれないと思っていろんなものをフォローしていったわけなんですけど。それがタイムラインになって、いろんな情報が並んでいるのをずーっとスクロールし続けるというのは、基本的に不安が大きくなっていく感じがするなと思って。でも自分に必要な情報をアウトプットしてる人たちだと思ってフォローしてるのは本当だから、いったん自分に必要な情報じゃなくて、自分の身の回りの人たちで。要はSNSじゃなかったら自分がフォローしてる人っていうのは、面白い情報を出してる人じゃなくて、身近な人になるかなと思って。人間関係でフォローしてるみたいな。で、その実際人間関係でフォローしてる人たちに作品を送ってもらって。基本的にフォローしてる人、されてる人とかは見せることができるけど、自分のタイムラインは人に見せられないじゃないですか。SNSがこういう風になってるのを開くというか、自分のタイムラインも外側に見せるみたいな、ひっくり返すことが出来たら良いなって思ったんですよね。
A:なんか「ドゥームスクローラー」って面白いよね。
o:全然面白くないよ!
A:いやそうじゃなくて。名前が面白いなと思って。その概念が。ドゥームスクローラーって、やってることをそのまま表してるような名前がついてて、「ドゥーム」ってチョイスがすごく面白いなと思った。英語圏で流行ってるの?
o:流行ってるというか問題になってる。
A:ドゥームスクローリング……。
o:ずっと不安があるからずっとSNSをスクロールしてしまうみたいな。SNS中毒のことだね。
A:不安かどうかはわからんけどね。パチンコとかと一緒やからな、ある意味。
o:まあでもそのSNS中毒にもさ、いいね中毒もあるじゃん。いっぱいアウトプットする側の中毒。ドゥームスクローラーは逆にそのインプット側の中毒ってことだね。SNS中毒でも。
A:パチンコで例えたのは、パチンコも操作とか簡単やし基本的に何もせんでいいやん。でも結構ランダムにいろんなことが起こるから、それが似てるなと思って。パチンコとかやってる時と同じような気持ちなのかなって。
o:確かに同じかも。パチンコを設置してみる?弱いzineに。
A:ええ(笑)そんな。すごい謎を呼ぶなあ。どうなんやろう。
o:パチンコ的なシステムというか。
A:それはほんまにパチンコのゲームとしてじゃなくて?
o:ゲームではなくて、例えばここをクリックしたら、ほとんどハズレばっかりだけどたまに当たりが出て、それにリンクがついてて何かの記事に飛ぶみたいな。まあ記事じゃなくてもいいんだけど。
A:くじ引きみたいなもんやね。
o:そうそう、くじ引きで殆どハズレだから、ずーっとクリックするみたいな。
A:クッキークリッカーみたいな?
o:何、何?
A:ばあちゃんが出てくる、クッキーをクリックするゲーム。ひたすらクリックしてクッキーを増やしていく。
o:へ〜。つまんなそうだね。
ーー(笑)でも何から見たら良いんだろうみたいな時に、くじ引きでこれを見な!って出されたらちょっと面白いかも。
o:なるほど。
A:まあ、くじ引きつけるくらいだったらもうちょっとサイトを見やすく変えたりする方が先にやった方が良いんやけどな(笑)
o:そうねえ。

ーー最初の公開は?
A:2021年の1月16日。
o:公開した時にTwitterも作ったよね。まだ一か月ぐらいしか経ってないじゃん。信じられない。この1ヶ月でいろいろありすぎた(笑)
A:16日だけで700人アクセスしてるって。
ーーすごい。
A:すごい!700人…。あ違う15日の夜か。
o:15の夜か。
A:15日の深夜に公開して、16日に700人来た。10月頃に企画し始めて、11月12月くらいには結構完成してたけど、ちょっと細かいところを直すのが...。まあ体調悪かったりして。はよやらへんとあかんなあと思いながら。
o:何ではよやらへんとあかんなあと思ったりしてんの?
A:もうちょっとで完成するのにもったいないなみたいな気持ちがあるから。もう少しで終わる、形になるのにそのまま放置してるのって気持ち悪くない?
o:ああ。形になってよかったね。
A:そうやね(笑)
ーーじゃあ公開まで3ヶ月ぐらいだったんですね。
A:うん、そうですね。でもほんまに集中してできるんやったら1ヶ月でも出来たと思います。単純に出来ない日が多過ぎたっすね(笑)時間が無いとかじゃなくて、元気が無くて。
o:うん。

対話としてのzine

ーー嬉しい反応とかありましたか。
o:ああ〜、嬉しい反応はあったかな。
A:ええ〜。まあ見てるんはわかるけど、みんなわかりやすい感想とかを言うわけでもないから、どんな反応もらってるのかよくわからへん。でも最近、楽々堂*っていう障害のある人でも働けるような事業をやってるリサイクルショップがあるんですけど。そこの大野さんっていう人にこのサイトを見せたら「めっちゃいいやん」て喜んでくれましたね。
o:何で喜んでくれたんだろうなあ。
A:単純にやってることとかデザインとかもいろいろ全部かっこいいなと思ったって。
o:今弱いzineについてTwitterで検索したら、まだ全然知らない人が言及してることは少ないと思うんですけど。でもそれはそれでいいと思う。だって今はみんなの知らない、まあ知ってる人もいると思うけど、大体みんなの知らない人たちが何のためにそれを書いたり送ったりしたのかわからない状態でギャラリーがあるだけだから。この作品がいいなとかそういうのはあるかもしれないけど、ただ作品が並んでるだけなので、パッと見た人がこれって何だろうって思って終わりみたいな感じだと思うし。
A:Twitterだけの反応見るのも微妙やとも思うしな。
o:そう、それもそうだよね。僕は「弱いzineっていったい何なんだろう」って思って欲しいっていうのがひとつ、自分の中のテーマとしてあって。対話としてのzineであって欲しいと思うんです。僕は3人以上で会話するのがすごく苦手で、対話じゃないとうまくコミュニケーションできないタイプなんですけど。それは簡単に言うと、情報を与えて情報を吸収して、というキャッチボールが1対1だったらしやすいから。これが3人4人と増えてくるとそれは双方向だから……。
A:俺はそっちの方が好きやな、3人4人の方が。
o:こういう風に隣からなんか言われたら……。
A:そういう隣から言われたりするのが好きなんよ。自分が思ったこともない意見とか反応とかが出てくるから。それだと話す気になるけど、一対一で相手のことや反応が分かってきたり、今この人はこの話してるんやなみたいな感じで話が決まっていくのが俺はちょっと嫌。いきなり全然違う話がバンって出て来る方が俺は好きやなって思う。そういうことしちゃった方が良いな、好きだなっていう。なんかごめん(笑)今言うことじゃないかもしれんけど。
o:いや、今言うことじゃないとかそういうのはないけどね。別に言いたい時に言ったら良いと思う。僕は1対1だったら話ができるけど、3人4人になると基本的に黙ってしまう。自分が話したことを相手が聞いて、それについて相手が話したことを聞いて、というのを繰り返さないといけなくて。そうなってくると頭の回転が遅いから会話ができないんだよね。だから3人4人になってくると、人の話を聞くことはできるけど自分で話すタイミングが取れない。複数人で話してて一人だけ黙ってたら、意見をあまり持たない人だと思われたり、気分が良くないからあまり話さないんじゃないか、みたいなイメージを持たれると思うんだよね。でもそういうタイプの人は僕だけじゃなくて。そして2人で黙ってたとしたら、あの2人は意見を持たない人たちだと思われる。意見を持ったアクティブな人達だけで話し合っていこう、という風にミーティングは進んでいく。だけど本当はそうじゃないでしょ。意見を持ってない訳じゃなくて、僕みたいに上手く発言のタイミングをゲットできない人もいっぱいいると思う。だからそういう人たちのために対話が必要だと言っていきたい。その点AntiSatoriは頭の回転も速いし、ミーティングタイプなんだと思う。場を盛り上げるタイプというか、クリエイティブなミーティングができるタイプだと思うんだよね。でも集団の中で弱い、つまり友達がうまくできないとか陰キャラだと思われるとかの理由の一つには、例えば学校の中の集団にいた時に話せないとか。それでどんどん「僕って明るいタイプじゃない」とか「暗い奴だと思われてる」とか「自分って意見を持ってないのかも」って、自分のことを疑ってしまうと自分が小さくなっていくというか。実際にそういうキャラになっていってしまう経験をしてるから。そういう人たちは何かのマイノリティとか、何かの病気とかではなく、ただ弱者になってるだけっていうか。「自分はこういうマイノリティです。だからこういう意思を持ってます」とか言えるんだったら、マイノリティでもそのマイノリティの人権を獲得することができるけど。ただ引っ込み思案の性格になってしまって、そのまま大人になって生活してる人、大学生でも、仕事してる人でも、或いはおじいさんおばあさんになってもずっと「自分は引っ込み思案な性格で、あまり人前で話すタイプじゃないんだよな」って思ってる人はいっぱいいると思う。だから反応が返ってこないのも仕方ないかも。

でも寄稿をオファーした人はみんなすごく喜んでくれる。弱いzineの最初にも書いてるけど、コロナ禍でバンドでライブができなくなったからこれを作ろうと思って。ミュージシャンがあまりライブできなくなったように、みんなそれぞれコロナ禍で生活が変わったと思うんですけど、その中で何かアウトプットしたいと思ってるんじゃないかと思ってみんなにオファーしました。そしたらみんな「何かそういう表現をするプラットフォームが欲しかった」っていう風に言ってくれるんですね。それはすごくよかったなって思う。コロナ禍の中で作らないとみたいな、そういう使命感は全くなかったわけだけど、実際タイミングが良かったのかも。それが一番嬉しい反応ですね。

弱いzineってなんなんだ?

o:今は作品がギャラリーみたいに並んでるだけだから、一見何のためのwebサイトかわからない。何のwebサイトかと言ったら、僕の身近な人だったら僕の周りの人に作品を送ってもらってるんだなーっていうことぐらいはわかるけど。基本的に見てくれた人たちには「弱いzineって何だろう」と思って欲しくて。というのも、ドゥームスクローリングをしていると想像力が欠如していく実感がある。たくさんの情報を吸収していくと不安も大きくなるし、どんどん想像力がなくなっていくのを感じるというのが、僕の実体験としてあって。じゃあその逆をしたいと思ったんですよね。僕は子供の頃、絵本がすごく好きで。絵本ってストーリーとか絵とか「これって一体何なんだろう?」みたいな想像力を掻き立てられる。子供の想像力を育てることを前提にデザインされているメディアだと思うんですけど、弱いzineがそういうものになったらいいなという気持ちがあって。それを具体的にデザインしようと思ったらいろんなアイディアを入れられるかもしれないけど、そんなに頑張って作るものではない、お金を稼ぐわけでもない、という前提の中で簡単にできて想像力を膨らませることができるのは何かと考えた時に「これって一体何なんだろう」って思うことが凄い大事だなと思って。
「弱いzineっていったい何なの」って友達に聞かれた時に、今みたいな説明をしてるんです。でも説明を聞いて「ああそうなんだ、これはなんか大人の絵本みたいな感じなんだ」みたいに、わかってもらいたくない面もあって。「弱いzineってできて10年経ったけど、未だになんなのかわかんない」みたいな人がいたらいいなというのが理想ですね。

弱いzineとみんなのこれから

A:まだ見てもらってる人は友達の友達ぐらいまでだと思うんですよね。その人達はosamuosanaiのこととか賢いULYSSESのこととかを知ってたりして、ある程度こういう意図でやってるんやろなぁみたいなことをうっすらと知ってるような人が見てることが多いと思うんですよね。でもそういう情報が事前にある人じゃなくて、本当に初めてこのサイトに訪れた人が、面白いな、もっといろいろ知りたいなと思うようなものにはなってないと思うんです。だから今はまだ事前にある程度知られてる人にしか届いてないと思うので、本当に自分達の知らないような、予想を超えた人に届けられるように色々と変えていきたいなと思ってますね。
o:僕も同じように思いますね。だけど弱いzineのTwitterをフォローしてくれてる人は僕の知らない人たちが半分以上だから、僕の周りの人というのは意外とそんなにいないというか。作品を送ってくれている人こそが僕の周りの人であって。弱いzineをTwitterで宣伝してるけど、みんなのリツイートとかでいろんな人に届いて、それで見てる人たちとか「弱いzine」で検索して反応してくれてる人たちとか、僕の知らない人もコメントしてくれてたりして。それが僕は面白いなと思う反面、手の届かないところにまで届いてるっていうのはすごく不安がつきまとうっていうか。
僕が思うSNSの一番怖いところはバズったようなものがコントロールできなくなるということ。自分の簡単なツイートとかがバズった時に、そこにいろいろな知らない人からのリプライが付きまくったりするわけじゃないですか。何かそういうのって単純に怖いなと思う。弱いzineのTwitterはツイートはあまりしないから、弱いzine自体がそんな嫌な風にバズったりはしないと思うんだけど。でも自分の見えていない範囲まで届くっていうのはそれをコントロールできなくなる部分が大きくなると思うので。
A:俺はどっちかというとそういうのワクワクするけどな。
o:ワクワクするのはわかるんだけど、僕は不安かなーって感じ。もちろん弱いzineがいろんなところに広がっていくために、内容を整えていったらいいと思う。今は別に何も説明してない、身内のギャラリーがあるだけ。すごく立派なことをしてるとかじゃない。「弱いzine」っていうプラットフォームを使って、いろんな人がそれに参加したいと思えるような、っていうのは言葉を変えると夢を与えるみたいなものだと思う。だから一歩ずつ進んで行った方がいいと思うんですよね。だって何かに参加したいって思えることと自分でも何か作れるかもっていうのは違うじゃん。弱いzineは今そういう簡単なギャラリーがあるだけ。これくらいだったら俺にもできるかも、みたいな気持ちになってもらいたい。AntiSatoriも前言ってたけど、Webサイトを作るとかじゃなくても、何かをまとめるとかならできる、あるいは作品を見て自分にもこういう絵が描けるかもとか、こういう文章面白いなと思って自分も文章を書いてみようかなみたいな。寝たきりの状態でずっとSNSを見てるところからちょっと立ち上がる、みたいなことが凄く大事だと思ってて。今はそういう機能が果たせそう、みたいなシンプルさがあると思うんだよね。そのシンプルさをとりあえず大事にしたいなっていう気持ちがありますね。でもそれがバズってしまうと弱いzineにこういうことをやって欲しい!みたいな意見が来るかもしれない。で、それがめちゃ面白いアイディアだとして、これやってみようみたいな、弱いzineでこの企画をやったらめちゃ面白いかもっていうのが重なっていくと、弱いzineが普通にただの面白いメディアになって、僕らのやることが多くなって疲れてしまって、それで見てる側も「読んでて面白いけどただの面白いWebzineじゃん」みたいな風になったらちょっとダサいかなとは思う。
A:俺は結構オープンにする事をめっちゃ言ってて。オープンにすること自体が目的になってるみたいに思えると言われたけど、それはオープンにすること自体を過小評価しているように思えて。オープンにすること自体に価値があると思うし、そういう風に進めたほうがいいと思うから、オープンにできるような仕組みを作ろうとしてるねんな。なぜかと言うと、影響力の大きい人と小さい人をあんまり作りたくないっていうか。この人はすごいから影響力持ってるとか、この人はあんまり大したことないから影響力が小さいとか、そういうことではなくて。自分の理想としては弱いzineを読んでるだけの人も、作品を投稿してる人も、俺みたいにサイトを作ってる人でも持ってる影響力自体は同じになってほしい。やっぱりある意味では他人ごとやと思って欲しくないというか。関係無い話かもしれんけど、例えばおじいちゃんおばあちゃんで寝たきりになってるような人。何も役に立てなくなったことによって、さらに性格悪くなるみたいなことがあると思うけど、見てるんじゃなくて参加してると思って欲しいねんな俺としては。じゃあ今の日本でやってること、いろんな問題とか変な所って、オープンにしてないことになるんじゃないかなと俺は思ってて。それを結局どういう立ち位置にいるとか、どういう立場にいるとかそういったものばかりが優先されてしまって、気軽な交流がしづらいというか。ポジショントークをしてしまうのはしょうがないと思うけど、ポジショントークとしての要素はできるだけ減らすべきだと思うので。弱いzineがよくわからないところで影響力持った知らない人に拡散されて、嫌なバズり方とかするかもしれないみたいには言うけれど、嫌なバズり方をすること自体も悪い事やとは俺は思わなくて。もっと失敗することに慣れていかないとダメだと思う。何回でも嫌なバズり方してもいいと思うんやけど、でもその代わり嫌なバズり方した時の対応の仕方の方が大事だと思う。
o:それは絶対そうだね。
A:そういうことに対応できる体制というか、やり方にどんどん変えていきたいなという気持ちがある。自分ではそっちの方が目指してるところっていうか。コントロールできないことが不安っていうのもわかるんやけど、まず今やることはコントロールできないことがあってもそれに対応できるようになるということ。どんどんコントロールできなくなっていく上で、オープンであることや影響力が人によって変わりすぎないようにすることを今は重視するべきなんじゃないかなと。一つずつやっていくという話だったけど、その次の一歩はそこやと思う。
どういう過程でものが作られているのかを知りたいと思ったら知れるし、関わろうと思ったら関われるっていうことが大事で。俺は出来上がったものがすごく良いものだとしても、その過程が微妙やったらそれは微妙なものやと思うねんな。で、このオープンにするのが大事って俺が言ってるのはその過程を大事にしたいというか。「弱いzineってそういう過程を経て作られてるんやな」みたいなことが外から見えることによって、読んだり聴いたりするだけで、自分から積極的に何かをやってるわけじゃない人でも参加してるような気分になるんじゃないかって思う。
o:それは絶対そうだよね。まさにそれを今から作ろうとしてる。ギャラリーとは違う形で見せられたらいいなっていうのを今話し合ってて。それを見てることによって参加してる気持ちになれたらめちゃいいよなと思う。Notion*とか使えたら良いよね。
A:なんとなく書いてるだけで別に形になってないものも、過程の状態から見せられるよね。
o:今日話したこととかをまたNotionに書いて、それをギャラリーとは違うページに載せてみようよ。
A:そうやねえ。それから自分はある程度ファシリレーターというか、管理する人がいないと成り立たないと思ってる。だから弱いzineも弱いzineとは言ってるけど、弱いzineが弱い必要はないと言うか。弱いzine自体は強くないと、弱いzine自体が弱さに負けてしまって共倒れになってしまうと言うか。
o:僕は強くなれないから、割ける時間や体力が限られてて。だからできることはすごく少ないけど、何か目標とかゴールを目指してるみたいなものは共有したいと言うか。それで面白くなったら良いと思う。
A:出来ることは少ないし、制約だらけやから簡単になんでもできるわけじゃない。今できる範囲でのことしかやってない。ただ、もしこれからのことを考えるとすれば……
o:オープンにする。それはマジでこれからやろうとしてることだね。
A:だから少しでも「そういう意思があるんや」って外から見えるように、ちょっとでも変えられたら良いなと。
o:そうだね。
A:インタビューとかも載せることで、それが伝わることは何かしら良い影響を与えるんじゃないかと。だからこういうところから始まるんじゃないかなと思う。

2021年2月 左京区にて

*賢いULYSSES:osamuosanaiがボーカル/ギターを務めるバンド。

*Figma:ブラウザ上でUIデザインができるツール。無料で利用できる。
*福到:京都市左京区、出町柳の台湾茶専門店。
*ドゥームスクローリング:情報を探し求めてSNSをスクロールし続けること。心身に悪影響をもたらすことも。
*楽々堂:京都市左京区、法然院近くに位置するリサイクルショップ。就労継続支援も行っている。
*Notion:メモや議事録の共有、タスク管理などが行えるツール。


弱いzine
osamuosanai
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インタビュー/構成  綯





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