言葉の絶対音感(絶対語感?)に障る、謎の敬語らしきもの〜させていただく。
ここ数年、「〜させていただきます」という謙譲語風な言葉の使われ方が気になってしかたないんだけど、昨日も「お伺いさせていただきます」というメールが届いていた。
これは敬語に属するものなのだろう。僕が学校で習った限り、敬語には「尊敬語」と「謙譲語」と「丁寧語」があり、この「させていただく」は謙譲の気持ちを表しているんだろうな、おそらく。お気持ちはわかりますけどね。
だったら「お邪魔します」でよくないか? あるいは「伺います」だけでもいいと思う。「行く」に対する謙譲語なんてたくさんある。
多くの動詞は敬語に言い換えることができるけれど、そちらを選ばずに(あるいは知らないまま)、「動詞+させていただく」と組み合わせて謙譲語にしてしまおうという、安易な道を選んでいるとしか思えない。もちろん「させていただく」で正しい場合もあるけれど、上記のように安易な道があるので、かえって使わなくてもいい場面で使うことが多くなったものと思われます。
しかも謙譲語は、いくつも重なるとかえって失礼になるので油断ならんのです。「伺う」に「お」までつけて、さらに「させていただく」が重なるのは何とも鬱陶しいし、これは多重敬語の典型的な例です。
これが友人同士のメールだったらまだしも、業務上の文書であれば、ちょっとヤバいかも。
どうやら与党議員に「させていただく」派が多い。
とにかく最近やたらと聞くので、いったいどこが震源地なのかと思っていたら、かなり国会方面が怪しいことがわかった。先日終わった通常国会の中継をぼんやり聞いているだけでも、とにかく「させていただく」だらけなのだ。どちらかというと野党議員の追及を受けて立つ側、つまり政権側とか与党側に「させていただく」派が多かった。とくに今の総理は「させていただいて」ばかりで、「丁寧に説明させていただく」と言われると、それは「聞く耳を持たない」や「強引に押し切ります」と同じ意味の隠語なのではないか、とさえ勘ぐりたくなる。
国民の代表たる国会議員の先生方が、自国語を壊していいのでしょうか?
国会中継に限らず、メディアに登場する人が「させていただく」人ばかりだから、みんな間違えてしまうのかもしれない。たとえば役者さんが新作ドラマの記者発表の席で「〜の役をやらせていただく○○です」と言えば、多くの人はそれが正しい謙譲語だと思ってしまう。
「役を演じる」ことを謙って言う必要はなさそうだけど、あえて言うのであれば「役をいただいている」ではどうなのかな? かえって卑屈に感じるかな? もっとふさわしい言い方があれば教えてください。
使い方を誤ると、ただ卑屈になるだけ。
とは言え、「させていただく」のが下の立場の人であれば、多少の誤用は笑って済ますことができる。しかし、謙らなくてもいい対等な関係以上の人が間違えてしまうと、かえって卑屈で、イヤな空気になってしまうことがある。
たとえば、有名シェフの料理を「いただく」場合。
タレントさんが食レポで有名な店に行ったとしましょう。そのときに、「食べさせていただきます」と言った人がいた。おいおい。
こっちは客なんですよ。だから謙譲語を使うのはおかしい。もちろん、客だからと言って、店や店員に対して横柄な態度を取るのは何よりカッコ悪い。しかし、美味しい料理や優れたキャリアを誇る料理人の方には謙虚に敬意を表しつつも、客はあくまでも相手よりも上の立場です。まさか、シェフの方だって「オレはミシュランで星を獲得するほどエラいからいいのだ」とは思わないはずで、料理のプロであればあるほど、お客に対して謙虚になっているはずだし、間違った謙譲語を使われると、かえってもやもやしてしまうはず。
こんなとき、ワガクニには「いただきます」という美しい言葉があるじゃないですか。誰でも知っているこの言葉を、いろいろ気を回すうちに忘れてしまう。もったいないことです。
職業柄、本の著者に対する読者からの「買わせていただきます」という言い方もたびたび聞きます。これも食レポのタレントさん同様で、こっちは買う方なんだから、謙らなくてもいいんです。「買います」と対等な丁寧語で言っても決して間違えではないし、どうしても謙りたいのであれば「購入いたします」という、より丁寧な言い方でいいはずだし、尊敬する著者なのであれば「拝読いたします」という便利な言い方もあります。が、「拝読させていただきます」となると多重敬語になってしまって、話は振り出しに戻る。
ちなみに「拝読」と「拝見」は微妙に意味が違うけれど、そこまで話を広げると長くなるのでやめておきます。
などなど、気になる敬語を探し始めたらキリがないので、このくらいにしておきます。とか言いながら、僕も間違えて使うことはホントに多いです。前述の僕の言い換えも、実は間違っているかもしれません。あったらご指摘ください。
謙譲語の使い分けは特に難しい。文化庁が敬語の使い分けを解説していたので勉強し直します。
ということで、今日は自信が無いまま話を終えます。
表題の写真は、内容には関係なくイメージです(ところで、イメージって何なんだろう?)。自分で撮って気に入ったので、どこかで使う場所は無いかな? と思っていたものです。ここで使わせていただきます。
どこのベンチか、わかる人はいるかな?
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