虎に翼（39）

今朝の放送回、弁護士事務所に辞表を出した寅子の挫折が描かれます。学徒出陣が始まり戦況において逼迫する中、まだ家によっては緩やかな時間が流れています。場面は飛び、無事に女児を出産したことは絵の中で示される頃、地所の引き渡しによって、たぶんそれは経営する工場のある多摩川のほとりかと推測しますが、疎開を余儀なくされました。そこへ訪問者が現れるところで幕となり、明日がまた楽しみです。

ひとことで挫折と言っても、状況の苛烈さ、その理不尽さに及んでは見ていても苦しくなるほどの四面楚歌によるものでした。ドラマの趣旨としては、今日でさえ性別間の人権の平等性に不全があるとしながらも、前時代の極端な不均衡がどのように是正されてきたかを示す意図が背景にあるかと思います。それは、弁護士を志した女性達にも、案件を抱える相談者にも、役割が持たされていました。

女性3人目の司法試験合格者となり、法改正の後、最初の女性弁護士となった寅子の順調な門出は「女性では不安」「未婚者は信用できない」といった社会通念が支配的な中、漸く得たクライアントの嘘が見抜けなかった失敗が躓きとなり挫かれます。戦略的な結婚でしたが、唯一の安らぎとなっていた夫との間に子を設けたことが仕事に支障を来し、先輩弁護士は出産を機に辞職していたこともあって、周囲の善意が同様に休むことを示唆するのに従い、ついには「降参」することを決めました。

寅子の置かれた環境は、優しい家族に守られており、職場の人間関係も良好なものでした。そのように恵まれていても、この時代の常識に対して抗う力が持てない様を、状況を積み重ね、むしろ淡々と描いてきた進行に強いものを感じます。お茶の間に届けるドラマとしては、例えば家族による足の引っ張りといった、もう少し卑近な障害の設定が一般的かと思います。意地悪な上司がいたり、などと誰もが日常に感じる疎ましさを代弁する装置を散りばめて感情移入を誘うといった手法です。

ここでは、戦時下の圧迫感もやや薄味に示して不気味さを増しており、あくまで善良で幸福な市井の人々が、社会情勢によって苦境を強いられ、その中での生身の人物が打ち勝ち、生き延びる道筋を柔らかく描いていることに共感が持てます。

と、ここまで書いてみて、同じ事を、言葉を変え繰り返しているだけにすぎないことに気付いたので、説明を終えようと思います。結論は、今期の朝ドラは十分に面白い、といったことで、今日、ひとつのピークを迎えた感があって、書き記す必要を感じたことです。以上、観賞日記でした。

ドラマの話ついでに、『不適切にもほどがある！』で初見だった河合優実さん主演作の『RoOT』が素晴らしいという話は、これまで書いていませんでした。ご存じの通り『オッドタクシー』の実写版スピンオフというような内容ですから、かつてここでも書いたように圧巻の作品でしたので、期待十分です。

そもそも『オッドタクシー』すらビッグコミックスペリオールにおける漫画版が関心を抱かせたのと同様、ルートも同誌に連載が始まったのを契機に知りました。ところが漫画誌も2ヵ月ほど溜めながら読んでおり、情報が遅れて入ってきたこと、『ふてほど』も先月遅れて見て、大いに良かったと感じる中、その貢献度は一番かもしれない河合さんについては、何も知らなかったのを反省し、それに続くキャスティングとあって興味は倍加しますが、それらの遅れが影響して2話からの参戦でした。Tverで探しても配信はなく、Netflix独占のようなので、会員ではない私は1話を見ることができていません。

一昨日8話まで進みました。作品のエナジーはアニメを上回り、わかりにくさを残しながら進むストーリーテリングには、様々な未体験エピソードが含まれており一層強力な作品になっています。後から出たものが先のものを超えられないのは悲劇ですものね。テレ東はやってくれます。

どうしてもゴールデンタイムの民放各社によるドラマは、スポンサーの顔色を覗い、視聴率（Tverお気に入り登録数）を気にしながらの、日和見主義が極まっており、それをもって「トレンディ」という言葉を捧げたいほどに、主体性の欠如を見せつけられる結果となりがちです。一方で NHKとか、なぜかテレ東とかは、表現に同時代性への矜持を保つ、骨太な作風が見て取れる傾向を感じます。番組がスポンサーによって作られる背景にあって、制作者も戦っているのだなと同情する側面はありますが、文化という観点では、その闘いに勝利する脚本だったり演出を貫けないものかと願います。時代の要請とは、あるいは常に敵なのかもしれません。

さて、秀作の『VRおじさんの初恋』は今夜が最終回です。その時間になったら昨晩の録画から続けて見ようと思います。