観る将の話を少し

長年にわたってF1観戦を楽しみに費やしてきたけれど、中嶋悟選手が日本人初のレギュラードライバーとなり国内でのGP開催と放送が開始された1987年ではなく、翌88年のモナコから見始めました。それまでは耐久やラリーに興味があって、テレビ観戦する競技と言ったら、毎年のルマン24時間をスタートとゴール、そして深夜帯に気紛れに見るくらいでした。マツダが参戦していた頃です。メルセデスがひっくり返ったりとか。運転は好きですが競技の経験は0です。観る走。ちなみに鈴鹿や富士や茂木に、計6回詣でています。

セナ/プロストがマクラーレン、ピケ/中嶋がロータスに乗り、ベルガー/アルボレートのフェラーリ、ジャッドエンジンを積むウィリアムズにはマンセル/パトレーゼ、ナニーニやワーウィックやチーバー、アルヌー…。もう出走者全員の名前と顔が思い浮かぶ! ってなことはないけれど、1988年はすぐそばにある記憶です。

やがて地上波の放映可能時間に合わせた録画ダイジェスト放送に飽き足らず、生をCSで見るようになります。契約したスカイパーフェクTV!をサーフィンすると、中には「囲碁・将棋チャンネル」なんてのもあって、他に「釣りチャンネル」などなど、きめ細かく趣味に対応する専門プログラムが沢山あるなぁと知らない世界に驚きました。F1以外見向きもしなかったですが。

2002年から父と二人暮らしになりました。その父は2017年の夏に施設に入居することになり、2世帯住宅として建てられた古い一軒家に独りで住む生活が2020年3月まで続きます。放送を受信できない地域にあって、光テレビというようなものに結線しておりましたが、父が居なくなってすぐにその契約を終了し、いわゆるテレビ放送から無縁になります。

かわりにAmazon Fire TVを導入し、開始2年目を迎えるAbemaTV(現ABEMA)が娯楽の友となります。一方F1はDAZNで見るようになりました。アベマのコンテンツだって、当初からすでにスカパー同様、無数にも思えるプログラムを持っていて、だいたいはニュースチャンネルを流し見る程度でしたが、「あ、ここにもあるのか」と見つけた将棋チャンネルを試しにつけてみると、そこでは当時中学生棋士だった藤井聡太四段(14歳)が『炎の七番勝負』を戦っていたのでした。

藤井さんの、歴史を塗り替え続ける偉業と天才性はものすごいと思いますが、その時にはプロ将棋界について微塵も知識が無く、もちろん国民栄誉賞を受けられた羽生さんや、それ以前の「大山名人」とか「中原名人」(みんな名人付きで記憶に残っています)、あるいは林葉直子さんとか、有名人として名を知るばかりでした。

藤井さんをすごい、と思って見始めたというよりも、むしろ対戦する棋士の方々に、なぜか惹かれました。そして引き続いての『若手vsトップ棋士 魂の七番勝負』には、早くも釘付けになります。そこで解説の「聞き手」として登場される「女流棋士」という存在も知ることになります。彼等のトークが門を開いてくれました。

私が2017年に将棋へ関心を持つきっかけの一つに、前年にあった「将棋ソフト不正使用疑惑騒動」も無関係ではありません。私の全く知らない世界が、意外なほど身近に連綿と存在していた、それは激しい波のごとく時代の変化が顕わになっている群雄割拠の世界なのだ、といったイメージが無意識へと刻まれていた模様です。

ところが、何か、その騒動を浄化するかのように藤井さんの活躍が、一気に将棋界のイメージアップを果たしていったような気がします。アベマの開局も力を添えたかもしれません。まんまと私も、その渦に巻き込まれ、にわかではありますが立派な「観る将」に成長しました。『将棋世界』を購読するまでには至りませんが、雑誌Numberの将棋特集は2冊とも買い、すみずみまで読んでいます。F1が日本GPを迎える頃の特集号と同様。

日曜日にはNHK杯がEテレで放映され、本日は永瀬拓矢王座対木村一基九段の対戦が行われました。どちらも好きな棋士です。Numberの永瀬さんのインタビューは興味深く読みました。共感が強まり、応援熱も上がります。木村さんは王位を藤井さんに奪われましたが、戴冠に至る番勝負は息を呑んで見続けました。この方の人柄には勇気と癒やしをもらいます。木村さんは今期のNHK杯で藤井二冠を破り、続いて永瀬王座も退けました。1年のみのタイトル保持者ですが、またここで優勝を飾って欲しいと願います。

このあと木村九段は佐藤天彦九段と当たりますが、その佐藤さんも元名人、どの戦いを見ても、私が見てもですが、ハイレベルに指している印象があります。木村さんの側を持ちますと言ったばかりで、すぐまた、どちらも頑張れという気持ちになります。

棋戦を見るたび、ここまで高いレベルだと、自然にどちらも頑張れとなります。どなたにも人生をかけてきた気概と、ずっと天才と言われながら不断の努力を続けてきた気迫を、その静かな物腰の中に漂わせます。トップの人達を見る面白さが、これほどわかりやすく伝わる分野も中々珍しいのではないでしょうか。若い頃、F1に一気に夢中になった瞬間と重なります。

NHK杯のある日曜日は、私にとって「将棋の日」(アベマトーナメントをやっていた時は土曜日がそれでした)ですが、F1が開催されると「F1の日」と重なりますので、まったく仕事ができなくなります。コロナが収まった先にはどうなるでしょう。このような余暇の持ち方は難しくなるとしたら、どちらかの趣味を離れるかもしれません。どっちが残りますかね。

あ、ちなみに指す方ですが、iPadに「将棋教室I」というアプリを入れており、練習対局をほぼ毎晩、寝床に入ってから5分くらい指します。強さ設定を一番優しいレベルにして、平手で4回に1回くらい勝てるようになりました。頭を使うせいからか、勝っても負けても寝付きがいいです。いつかそのうち対面でリアルな勝負を誰かに挑みたいです。それまでのんびり学んでいきますが、予定では老人ホームへ入ってからの楽しみにするつもりです。

PS: 面白い記事を見つけました。この仕掛け人にまんまとやられたひとりです。
https://careerhack.en-japan.com/report/detail/871
最近のアベマには、解説の入らない「ライブ中継」の割合が増え、AIの戦況判断のみが無慈悲に掲示されている、ほぼ無音の番組が多くなり、寂しい限りです。

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