ベース再生装置におけるパワーアンプについて少し の5

トランスの話題に振っていこうと思った矢先のことで申し訳ありませんが、リスニングオーディオ界のことにもちょっとだけ触れておきます。わりとこっちの方でも同じ問題を抱えているのです。ていうか、もう標題変えないといけませんね。来て頂いた方に失礼です。(でも変えてない)

我々が育った世代で音楽好きの家と言えば、大きなスピーカーの一組と、その真ん中に堂々たるアナログレコードプレイヤー(ターンテーブル)が鎮座するラックがあり、中には銀色か、黒色か、はたまたシャンペンゴールドの瀟洒な金属パネルに何やらつまみがいっぱい飛び出ているメカメカしい装置が2段、3段と積み重ねられ、一方の壁に直系30cmのレコード(ヴァイナル)を収める縦に細長い紙ケースがひとつひとつビニール袋に入れられて、専用の棚にコレクションされているといった「応接間」を備えていました。

それが40年前の馴染み深い風景の一つであり、そうした部屋には、たとえ弾き手がいなくともアップライトピアノが家具然と置かれていたのも珍しくありませんでした。高度成長期という潮が満ちた頃なのでしょうか、悠然としています。インフラは乏しく、今と比較するなら全てが人力だったとも言いえる、この頃の方が良かったなどとは微塵も思いませんが、なんかゆったりとした空気感は、記憶の中に鮮明です。まだ少年だったせいでしょうか。

まず、CDの前と後、デジタル化の始まりと、その前という風に時代を切り分けられると思いますが、音を聴く装置にスピーカーが使われ、近年それがイヤフォン主流にとって替わられようとも、電気信号を物理現象に変換し、耳の奥の毛を揺らす装置の動力源として働く、パワーアンプの存在が不可欠であることは、基本的には変わりありません。

インターネットを介して、あたかも空気中から取得した音楽データを手の平で包み込めるようなデバイスから最短で脳へ伝達できる仕組みが、こうまで普及している世界を、レコードからCDへと小型化、高音質化(異論はあるかもしれませんが)されて驚いていた1980年代に、微塵も想像しませんでした。

CDが出てきた時、そりゃぁ嬉しかったですよ。レコード盤で良い音を聴くためには多大な努力が必要でした。聴きたい曲を選ぶことですら一手間だし、曲順を変えて聴きたいと思っても裏面に入っている曲へ飛ぶためには、いちいち装置を止め、盤をひっくり返して、溝の模様を見て当たりを付けたところに針を落とさなくてはなりません(代わりにそれをやってくれるDJなる職業が生じるのも理解できます)。なにしろ、埃や傷によるノイズからおさらばできました。楽になった以上に、音の汚れが無くなり、鳴っているはずなのに聞こえなかった音が、何者にも阻害されずに聞こえたときの喜びは、それは大きかったです。

今私がアナログ盤を購入する理由は、まずCD化がなされないまま埋もれている音源を確保しておきたいことと、新作がヴァイナルのみのリリースで、どうしてもそれも聴きたい、またその瞬間に入手しないと今後手に入らなくなることが目に見えている場合などです。

ちゃちな音では聴きたくないから多少は値の張る装置を用意していますが、マニアとは雲泥の差があるし、アナログの方がCDよりも音がいいと盲信はしません。業界はそのように思わせたいみたいですが。

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たしかに音は尖ってなくて聴きやすいですが、CDのフォーマットが、何か欠陥を持っていて聴き疲れしやすいということは絶対にありません。ここでその論争に加わるつもりはありませんが、なんの話だっけ?

リスニングオーディオ系のアンプに触れておこうと思ったんだった。

英国のティム・デ・パラヴィチーニが主催するEAR社の859を、スイスのAcustik-Lab社のスピーカーStella Melody、これを専用スタンドStella Fortisに組み込んだ状態で鳴らしておりました。音源はiMacからUSBでMarantzのHD-DAC1へ通した音のみ。これが、それまでの長い年月、JBLのホーンやバスレフの15インチキャビネットで組み、マルチアンプで鳴らしていたシステムから移行したもので、2016年あたりのことだったと思います。自宅内で部屋の移動があったためサイズを縮小する必要に迫られ、スタジオモニターで言うなら、ラージモニターからニアフィールドモニターへ移行したようなものでした。

私にとっては、夢が叶ったと言っても大袈裟では無い、リファレンスとして自信の持てるサウンドでした。EARは真空管アンプですが、世に言う「温かい」とかなんとかのノスタルジックな線を狙ったものではなく、パラヴィチーニがスタジオ機器を設計するエンジニアでしたから、フラットであることを担保できるシンプルさで入念に作られています。

彼のバイオを見ると「1993 米国グラミー賞にて Best World Music Album 受賞作品 Ry Cooder & V.M. Bhatt "A Meeting By The River" Technical Contributionに選出される。」の一文があります。

ライ・クーダーとバッツのギター2本のセッション(インド系の音楽です)ですが、彼が自身の機材を使って録音を行っています。内容もですが、音も素晴らしく、今でもオーディオのセッティングを変えた時などに聴き返します。この純度の高い音を聴けば、パラヴィチーニが最高の音を残すために真空管を使った機材にこだわる理由が、私にはわかる気がします。

オーディオに使う真空管アンプを所有したことは、これが初めてではありませんが、以前の物も、常にコンディション良くフラットなサウンドを出すには真空管こそ最適のデバイスだと説得を受け、その証明のために導入しました。接客時の店員(開発者)いわく、トランジスタアンプは常時通電させておかなければ本領を発揮しない。真空管は暖まりが早く、10分もすれば最高の状態になる。とのことでした。私はそれを信じました。

詳細は省きますが、やがてこのEAR859が故障したため、他を色々試すことになります。いずれ多く語るつもりでいますが、ギターショップのフーチーズが販売するUsagi no mimiというポータブルなプリメインアンプも、この時に買いました(優秀な製品でお気に入りです)。

Usagi no mimiはKORGのNutubeをプリ管に置き換えた、ミュージシャンをターゲットに開発された製品です。言うまでもなく859に迫ることはできませんでしたが、ディテールの表現に優れ、アンプの存在を忘れさせてくれる音がします。しかし、サイズ、価格の制約から、当然ながらパワーアンプ部はD級、デジタルアンプです。私の嫌いなそれですが、使い始めの頃Stella Melodyと全然合わなくて、試しにYamahaのスタジオモニターNS-10Mのウーハーユニットのみを使ってフルレンジとしたNS-3MXを組み合わせると非常にマッチしました。ここでもD級はナローレンジのスピーカーなら気にならない、という命題が浮上しますね(bagend ps-12bの話と同様)。

Usagi no mimiをオーディオに詳しい知人宅へ持ち込んで、そちらのコレクションするスピーカーを色々と試させて頂いたところ、英国TDL社(すでに消滅しています)の1990年代の2wayスピーカーとの組み合わせを聴くや、目から鱗が落ちました。これを端緒にいつものあれです。非常にレアなTDLのラインナップから4機種(手当たり次第)、ebayを通じて英国から輸入し、手許にあったアコースティックラボ社のStella Melody、Stella Harmonyの2機種とは時を経ず別れました。

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話変わって、ある時、AV用システムのヘッドフォンリスニングにおいて、バランス駆動を行うことに強い興味が湧いたのをきっかけに、それができないMarantz HD-DAC1から、フォンプラグ2本挿しで左右耳を独立して鳴らすことのできるTeacのUD-503に替えてみました。携帯用ポータブルオーディオでは数年前から実践しており、とても好ましい違いを感じていたからです。

普通、ヘッドフォンはL / Rの信号にグランドは共通で3極の接続がされます。スピーカーの場合はL / Rチャンネル、それぞれに+、−が接続されますよね。合計するなら4極です。ステレオヘッドフォンは、言わば帰り道を合流させてしまっているのですが、これを分離してスピーカーのように左右完全独立した回路を持たせる接続方法が(ヘッドフォンの)バランス接続です。ライン信号のそれとは意味合いが異なります。誤解を招きかねない言い方ですね。

このUD-503には「ライン信号」のバランスアウトが備わっているので、マイクケーブルを使用したバランス接続のできる(バランス入力を持っている)プリメインアンプが欲しくなって、同TeacのAX-501を追加で買いました。筐体のサイズが同じだからです。

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ややこしくてすみません。ちゃんと、おわかりいただけるように書けてないかもです。

ちゃんと聴く用は、数年間使っていなかったのですが、RME社の初代Baby FaceというA/D D/Aコンバータを引っ張り出して使っています。より新しいもの、あるいは上級機種を狙ってはいますが、資金投下の優先順位的に、もう暫く月日を要します。でも、一応わが家のどれよりも音がいいので、音に不満はありません。

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長くなりました。まとめに入ります。EAR859の後に買ったアンプはTeac AI-301DA、Crews Maniac Sound "Usagi no mimi"、Marantz HD-AMP1、Teac AX-501の4台となりますが、全てD-class、どれもが真剣に聞くシステムでは不足でした。Usagi no mimiは唯一フォノイコライザーを積んでいるのでアナログを聴くとき用、映像装置からの光アウトを受けるUD-503からバランスアウトで繫ぐAX-501はAV用、その他は箱にしまわれました。で、真剣に聴く用は。

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かつてJBLを中心としたマルチアンプシステムを組んでいた時にウーハーを鳴らすのに使っていた、相模原市にあるLinear Technology社というところのM-032という小さなパワーアンプを再び入手して使用するに至っています。1990年代のリニアアンプです。サイズの割には重く、電源スイッチと入出力端子しかありません。baby faceでも音量調整はできますが、別にアナログのアッテネーター&セレクター(パッシブ・プリアンプとも言われますがアンプではありません。機能的にそのような体をしているだけです)を噛まして、実はその後にトランスを挿入しています。これがさらに音を良くします。このトランスボックスを製作した方は、モバツイ、ソフトモバツイの回にご紹介したHUMPBACK engineeringの戸田さんです。

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はい。昨日からトランスの話をしようとしていました。長い回り道をいたしましたね。楽器店で、トランス入ってるアンプは音がいいよね、という声を聞いたことがありませんでしょうか。この一言は様々な誤解を生みやすいと考えています。私、電気素人ではありますが、ユーザー目線で、少しこのあたりを説明し、誤解を解きたいと思う次第であります。

ではまた明日。(気が変わらなければ良いが)


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