売りたい楽器 その4

今回、4本のベースをGeek In Boxさんへ委託に出しており、売主としてその紹介をこの場でさせて頂いております。販売店への委託手数料を抑えるプランを選んだために、商品のメディア露出が制限されている分、個人としても宣伝をテコ入れしているつもりです。

そんな条件にもかかわらず、ショップのスタッフによるサウンドサンプル動画を作成していただきました。現時点で、クルーズのスリーピングビューティシリーズの2本、一本はアクティブのアッシュ/メイプル、一本はアルダー/ローズのパッシブと、ある意味対照的な仕様を、同じ弾き手、同じ演奏内容で比較が可能な価値ある動画が作成され、嬉しく思う次第です。

アッシュの方は、ピックアップロケーションが60sですので、マーカスミラーのニュアンスは出ませんが、それが功を奏してミッドレンジ豊富な太さと、抜けの良さ、フォーカスされたボトムが感じられ、我ながら良いアッセンブリが組めたと満足しています。LEDの灯火状態も確認できますね。点灯しているのでアクティブです。

アルダーの方は、やはりK&Tの62Eというピックアップのキャラクターが、ほっこりした60sジャズベーストーンに、更なるディテールを彫り深く与えている印象があり、エレキベースという楽器の中で、最も数多く生産される仕様でありながら、一段高い汎用性と格調をもたらしている気がします。

どちらも軽量なペグへ交換しており、ヘッドダイブ傾向皆無にしてあります。楽器は膝の上でもストラップで吊っても、きれいに約45度の角度でネックが起き、弾き易い状態を自然に維持できます。メーカーは音質最優先と謳い、今でも重いペグを採用するケースが多勢を占めますが、左手でネックを支えたり、右腕で楽器を押さえ込んだりする必要がない経験をすれば、元へ戻ることはできません。プレイヤー目線では最優先事項になります。

今日、最後にご紹介するのは、Crews Maniac Sound Be Bottom' 24のカスタムオーダー品です。この個体については、昨年来、私のnoteをご覧の方には度々お目にかけております。クルーズのヒット作に、Jacksonと銘うたれたフレットレスベースのシリーズがあり、Be Bottom' 24は、オリジナルデザインのBe Bottom' 21とは異なりJacksonとパーツを共有しています。簡単に言えば、Jacksonのフレッテッドバージョンです。

21の方は、細いネックで私の好みに合うのですが、それの24フレットバージョンと信じてオーダーしたところ、19mmピッチのブリッジが標準搭載されるJacksonがベースのため、幅の広いネックで仕上がってきたのが想定外でした。不満は端的に述べて、その一点だけです。

ボディ材はアルダーの1ピースを軽量な材から選んで頂きました。指板はエボニーで。Jackson用ですので、ネックシャフトの製造が終わって寝かされていたものの中から、一番木取りの良い個体を選定いたしました。その時点でネックの太さを知り得ていたわけで、自身の甘さを悔やむばかりです。

ピックアップとサーキットはクルーズ標準のもの。実はクルーズのアクティブサーキットが大変優れていることはあまり知られていません。2バンドのブースト・カットのみですが、フラットにした時の音の変化の無さは1、2を争うと思っています。

ピックアップが優秀な場合、アクティブサーキットの多くは、そのダイナミックレンジを受け止めきれません。EQを加えないで、単純にアクティブにすると、大人しく纏まったサウンドに収斂してしまうものが殆どだと感じます。製作家がそれに気付いて、近年18V駆動が常態化してきました。漸くまともになってきた感はありますが、その分EQが極端に動作するモデルも散見します。楽器に載せるEQなど微調整でいいから、ピッキングニュアンスを忠実に再現することを一義に置いて欲しい。そういう観点からだと、昔ながらの9V動作でありながらクルーズ製は高く評価できます。

だがしかし。ここからは好みの問題ですが、丸まった音色を求める際にトレブルカットするのはゲインが下がるので美味しくありません。全体の鮮度といいますか活力が微量失われますが、コンデンサを用いたハイカットトーンは、やはり有用だと信じており、アクティブ回路によって省略せしめるのは意に反しております。というわけで、パッシブトーン(マスタートーン)を、本楽器においては追加しています。

ちなみに、ピックアップバランサーについて言及しても、クルーズのアクティブサーキットに付属するポットと、その配線の工夫は、2ボリューム信者の私も納得できる音質と動作を得ています。結構考えられていて感心しました。

ブリッジは弦間調節可能なHipshotのKickassに交換しています。サドルはブラスです。Badassの代替品として生まれた背景はありますが、Badassよりも弦の響きは生々しいです。ナットもブラス製にして、弦を支える二点の素材を揃えてあります。重みのある鳴り感だと感じます。ペグは自身でウルトラライトへ交換しています(元はゴトーが付いておりました)。

いわゆるテンションバーは、通常5本の弦を全て押さえつけますが、ローB弦だけはフリーにしたかったので、オーダー時に取り付け位置を変更しています。またナットから先の弦の折れ角を、そのローB弦に等しくするよう、緩くして頂いています。弦はサドウスキーのステンレス・ブラック45-130Tです。

いつものようにPLEKマシンでのフレット摺り合わせを行っておりますので、その分フレットが減っている記載となりますが、最善のセッティングが保たれていることと思います。私の中ではアンソニー・ジャクソンをイメージしてオーダーした品で、音質には満足していますが、細いネックでは、もしかするとこうならなかったかもしれないので、痛し痒しですね。

塗装は、ブラック・スパークルです。2019年に閉館した日比谷の東宝ダンスホール最終日の演奏を行った際に出されたお寿司のお弁当が包まれた箱を、いつかベースのカラーとして再現しようとして取っておきました。生涯の記念になるべき楽器だったのですが、弾かないでただ持っているのはもったいないので売却を決めました。GIBさんを通さずにお譲りする場合は、送料別19万円で承りますが、是非、お店の方でお試しの上、できればそちらでお買い求めください。

最後に。クルーズの楽器をカスタムオーダーしたのはこれが初めてでした。ご存じのようにボディ・ネック等、木部の製作はデバイザーの飛鳥工場に依頼しているようで、モモセの刻印が押されているものも見られます。数年前に工場見学へ行きましたが、今もCNCを使わずに人の手で機械を動かして製作されていることに感銘を受けました。ところが、カスタムオーダー品に関しては、その先の組み込みはまた別の工房が行っており、熟練の製作家による細心の注意を払った製作過程を経て出荷されます。今回は、私自身が安直であったために、最もこだわるべきポイントで失敗を犯しましたが、楽器の品質としては国内最高峰のレベルで仕上がっていることは明らかにしておきたいです。いつかまたご縁があればいいなと思います。


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