ベースとEQ

レコーディングやミックスの話ではありません。演奏するベーシストが、その責任範囲内で、電気的に自分の音を脚色していくには不可欠なツールであるイコライザーについて、例によって思いつくままに喋ります。昨日までの内容の続きでもあります。

エレキベースに搭載されるマグネティック・ピックアップからの信号は、本来直接ベースアンプへ受け継がれるべく、双方が設計されています。パッシブベースからシールド1本でアンプに繫ぐ。この時に、楽器の音として認識されるのはアンプのスピーカーが発する音で、その音量と音質はアンプに搭載される調整つまみを加減して成形されます。

ベースアンプは時代と共に性能を上げ、きめ細かい音色作りに対応できる仕様を纏います。80年代、グラフィック・イコライザーを装備するアンプが流行りました。なぜ、それまでの3バンド程度の音質調整では賄えなくなったのでしょうか。

自身の経験で言えば、演奏する会場とベースアンプの配置、他の楽器との関係によって、「いつもの」音が出ないからです。スピーカーが鳴る環境変化に対して、その直前で補正を効かすのが、この頃の正しいやり方でした。調整は細かければ細かいほど有能ですから、最大31バンドのグラフィックイコライザーを用いることもありました。PA用の機材の転用ですね。まぁ、はっきり言って、ベースの再生はPAと同じです。会場の影響を受けずに「自然」な鳴りを得るための施策は、同様のプロセスを辿ります。

ですから、その手順の面倒さが、おそらく理由で、著しく廃れていきます。ベーシストのアンプシステムには、取って代わって3〜4バンドのフル・パラメトリック・イコライザーが導入され始めました。増減したい帯域とその幅がコントロールできる、グライコをデジタルに例えるならば、アナログ方式と言えるようなエフェクターがパライコです。

実際に私がよくやっていたのは、比較的小型のアンプシステムに対し、スピーカーの再生可能な低域不足を補うように、80Hz辺りから広い帯域で穏やかにローエンドを持ち上げつつ、鋭いピークでブーストを掛けながら共振する周波数を探ってスイープさせ、先とは矛盾しますが、そこを狭い帯域で切っていきます。結果としてローエンドを確保しながら濁りを無くすことができます。

指弾きのタッチが聞こえにくければ2〜4kHz辺りを持ち上げますが、これも中心周波数をスイープして探します。帯域幅やブースト率は時に応じて。パライコによってはシェルビング(ローエンド、ハイエンド方向へ無限のカーブを描ける方式)に切り替えられるバンドがあって、それらを組み合わせても良かったです。

アンプヘッドのプリアンプ部分には、使いやすさ、必要十分な機能としてハイ・ローのシェルビングにミッドを2バンドに分けたパライコ、といった音色補正機能に収斂されていきます。80年代から現場をやってきた身としては、ベースアンプのEQがこれでは全く不十分に感じますが、世の中はだいたいオッケーな空気です。もちろん、製品のユーザーが全員プロではないですし、主な購買層が満足すれば商品としては成り立ちます。なぜ駄目かと言えば、パライコの帯域の広さをコントロールするパラメータ("Q"と呼ばれます)が省かれているものが殆どだからです。

一方で、足元に置く「コンパクト・エフェクター」、いわゆるペダルの分野にアンプヘッドのプリアンプ部分を抜き出し、それを凌駕する性能のものが、各種現れてきます。商品のユニバーサル化が進んだアンプ側が、現場対応しきれなくなったためと私は想像します。プロ側の要求ですね。同時に、それはライブに欠かせないDIの機能(バランスアウト)を併設し、やがてベーシスト必携のツールとされるようになります。プロが使っているのを見て、あれは必要だ、などとマーケットが煽るわけです。

そこで行われる音造りは、機種選びに始まり、微妙な調整によって奏者の拘りを反映させることができますが、現場のアンプで聴取した音が、そのDIからラインでPAに送られた結果として、客席に届けられるサウンドがベストになるかどうかは疑問です。そのベースアンプのコンディションを補正する音造りが、PAのスピーカーを鳴らすための、あるいはアンサンブルに適切なトーンとはマッチしないかもしれません。

ペダルタイプの「プリアンプ」は、乾電池駆動のコンパクトな回路であるならば、勢い、ベース本体内に収納されるようになります。それが今、私たちの楽器、電池を必要とするベースの中身です。

もちろんピックアップに可能な限り近いところでローインピーダンス化するメリットは大きく、弾き手が、演奏の途中でも瞬時に音色調整が加えられるのも利点です。ですが、それがベースから出力される音色となる以上、PAへの送りとして許容される範囲での脚色でなければならず、もちろんベースアンプのスピーカーが置かれる環境での補正は、依然楽器の外、PAに送る信号の後で行わなければなりません。というわけで、もちろんご存じの通り、ベース本体にプリアンプが内蔵されたからといって、ペダルもあったほうがいいし、アンプにも詳細な補正機能があった方が良い、とまぁ何ら原則は変わらないわけです。弄る箇所が多くなって、ある種のパーソネルには、萌えであろうと思いますが。機材、いっぱい使いたがる人、少なくないですよね。批判じゃないです。

今日の長い話は、なんのためのものかと申しますと、私個人としては、結局のところオンボードプリアンプには多くの効果を求めていないというところを確認したかったのです。演奏時に自分が聴く音は、ベースアンプのスピーカーから出る音で(PAが用意するモニターに依存する場合もありますが)、そこを快適に演奏できるよう調整するのは奏者の責任範囲です。

仮に、ツイーターの無い小型のアンプだったとしたら、ローもハイもブーストすることになるでしょう。そのアンプの足りないところを補うセッティングは会場PAに渡される信号でもありますから、そこは考えに入れなくてはなりません。もっとも、PAオペレーターは、ベースのローエンドをばっさり切るのが常ですから、問題ないと言えるかもしれません。(続きはまた明日)



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