春だから初心者に向けたエレキベース選びについて その四

前三回より少しディープな話へ入っていきます。今回は開放弦の弦長、つまりスケールについて説明します。ベースはギターより大きい、長い、というのは、弦長を引き伸ばし、低い音域へ有利にと設計されているからです。

楽器を分類する時によく使われるのが「スケール」というワードで、エレキベースの定番は34インチ・スケールとなります。単位がインチなのは、発明したのがアメリカ人だからで、時々スケールを半分の弦長で、しかもメートル単位で表記したものがあります。34インチスケールの楽器に対し、"432mm"と表記される事例もあり、私が子供の頃はだいたいそうでした。

さて、この34インチを、一般にロングスケールと呼んで、それより長いものも短いものもあるとは言え、標準がそれであることは間違いありません。私の見聞の範囲では、成人男性の場合、34インチスケールであれば全音域で一指一フレットで運指を組み立てて演奏することが可能です。それが困難なのは、構え方が適切でなく、もし、そう構えられないのだったら、昨日までにお話しした通り、デザインの機能性について疑うべきです。

とはいえ、若年層も高齢層も、34インチで、もし無理を感じたとすれば、より短いスケールの楽器を選択するのは良いアイディアです。ザ・ビートルズのポール・マッカートニーでお馴染みのバイオリンベースは、約30インチと、かなり短いです(ショートスケール)。フェンダーのマスタングベースなども同様ですね。私の生徒さんで、ある成人女性の方はこれです。

それに対し、日本のヤマハやフェルナンデスといったメーカーは、それらの中間である32インチ近辺で、ミディアムスケールとして製品を出しています。初心者用として低廉であることが多く、本格的な使用に向かないきらいがあります。ボディサイズも小さめで、印象としてはロングスケールのベースを全体的に縮小してしまったミニチュア感が否めません。30インチの楽器ですらプロがステージや録音で堂々と使っているのに、32インチとなると自動車が買えるくらい高額な米国アレンビック社や英国ステイタス社くらいしか使用例が思い当たりません。リーズナブルで、かつ優れた製品があるのならお勧めしたいところですが、現状では見つけがたいかもしれません。ただし、小中学生の初めての一本としては、実に悪くない選択です。

32インチのミディアム、34インチのロングの間を取って33インチスケールのベースが2000年代より出現しています。私もファンです。これは事実上「弾き易い」ロングスケールと言うことができる優れ物だと感じます(セミロングと呼ぶのを見たことがあります)。ポールの名を出しましたが、彼がバイオリンベースの次に使用していたリッケンバッカーがこのタイプです。というわけで、実はかなり昔から存在していながら、あらためて注目され始めたというわけで、近年には多弦ベースでも有効性が確認されたことが大きいです。

まとめると、これからベースを始めようとする方に対し、私がお勧めするのは、ロングスケールの34インチ、あるいはセミロングの33インチとなります。お子様、あるいは高齢の女性などに、ミディアム(32インチ)やショート(30インチ)は、とてもいいと思います。無理する必要はありません。スケールの短いものは軽量に作りやすいですから、運搬にも便利でしょう。

初めての一本にミディアムスケールで選択された方が「もっとちゃんとやりたい」から「良い」楽器が欲しいと相談され、一般的であるロングスケールをお勧めし、実際買われて満足されたり、あるいはセミロングの良品をしっかりと選択される方もいらっしゃいます。弾けるようになるにつれ、選択肢は広がりますので、入門時はハードルが低い方が続けやすいと思います。

最後に、34インチスケールよりも長い開放弦に設計された楽器があることもお伝えします。低音を、よりはっきりと発音させるのに、理論的に有利なのは明白です。エレキベースの元の姿であるWベースは40インチ以上あります。5弦のエレキベースは更に低い音を出そうと試みた結果、34インチでは足りないと考えるデザイナーが1990年代に現れ、その潮流は今も続いています。

私も、現在5弦ベースは34.5インチスケールのものを使用しています。この体格で、一指一フレットが可能な、事実上限界の長さかもしれません。35インチとなると、それを続けていくうちに体に変調を来す不安があり、仕事用として選ぶのには抵抗があります。

長いスケールの楽器にお気に入りがあれば、もちろんお使いになるのは自由ですし、そのために運指の考え方を特化しなければならないとしても、ご自身のポリシーを曲げる必要はありません。若い方でエキストラロングの5弦を最初の1本として買われ、あっという間に使いこなして活発にライブを行っている生徒さんがおいでになり、感心したことがあります。

ただ、論理的に優れているというだけで安易に飛びつかず、実際に店頭などで試し、慎重な判断をされるよう注意を喚起して、この項を終えたいと思います。


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