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ハイフレックスというアクロバット

 今年度の学年暦がようやく決まる。ひとつはオンライン、もうひとつは対面でやる。本当は全部対面でやろうと思ったのだけど、3月が終わろうとしているのに、なかなか情報があがってこない。アンケートでは対面でやりたいと答えたのだけど、ほんとうにできるのか。できるとすればどういう条件になるのかなど、わからないままだった。

 業を煮やしてこちらから動く。学年暦を手に入れて、細かい情報に目を通し、いろいろ質問をぶつけてみる。わかったことは、対面ではやれるのだけど、かなりの確率でハイフレックス型の授業になるので対応してほしい、というもの。「ハイフレックス」(HyFlex:Hybrid-Flexible)の授業なら、学生が同じ内容の授業を、オンラインでも対面でも受講できるという。教員は対面で授業を行い、学生は自身の状況に応じて対面授業を受講するか、同時双方向型のオンライン授業を受講するかを選ぶのだ。

 大学側もお金をかけて必要機材を整備してくれたのだと思う。学生はお客様で視聴者様。オンライン授業でもいいし、状況が許せば対面授業でもかまわないというのは、効果的な売り言葉。細かいことは主催者である学校側が決めてくれればよい。授業をやる側だって、オンライン用の教材を活用できる。情報のインプットを主眼に、放送大学的な授業を展開するなら、比較的うまくゆくはず

 しかしである。ぼくなどが行う語学の授業では、いわゆる「コミュニカティブ・アプローチ」(CA: Comunivative Approach)」を考えている。CAでは、参加者を言葉のやりとりの現場に巻き込み、実際のコミニュケーション体験を再現しようとする。ただでさえ、そんな現場には神経を使う。その現場が教室での対面とオンラインの遠隔に分かれるとなると、ことは簡単ではない。対面のなかでのコミュニケーション、遠隔におけるコミュニケーション、そして対面と遠隔の双方にわたるコミュニケーションという、3つの相に注意を払いながらの授業運営となる。

 もちろん、そこには可能性がある。ヴァーチャルとリアルを行き来しながらのコミュニケーションは、おそらくこれからの言語活動の在り方なのだろう。だから学生とやりとりをしながら、オンライン視聴の学生に語りかけて反応を引き出し、そこからペアワークやグループワークへと展開するために、チャットルームや席の配置を準備し、モニターのなかのブレイクアウトルームをリアルのチャットルームと連結し、テキストを行き交わせ、問題点を洗い出し、その解法を考えてもらうという作業を、いったいどうやって制御することになるのか。

 やればできるのかもしれない。けれども、ひとりでこなすのはほとんどアクロバットの世界。そもそも、どんなアクロバットであっても、その離れ業を可能にするアシスタント・スタッフが必要になる。ひとり現場でアクロバットに挑戦するのは無謀というもの。そりゃ楽しいかもしれないけれど、少しずつやってゆかないと、こちらの身がもたない。

 いやはや、「小人19」の混乱のおかげで、遠隔授業をやるだけの技術がすでにあること、そしてそれをうまく活用すれば、思ったよりも効果的な教室を運営できることはわかってきた。一方で、問題が少しずつ見えてきている。それをどうやって乗り越えてゆくか。

 まあ、楽しみながらやるしかないよな。