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#32 先週の米銀破綻は一体なぜ起きたのか。

おはようございます。昔の友人がVチューバ―をやっていると聞いて驚いた後年収を聞いて目が飛び出たすなっちゃんです。

さて、今回お話しするテーマは「先週の米銀破綻について」です。

いったいなぜこんなことが起きたのか、そして今後どのような影響を与えていくのかについて詳しく説明していきたいと思います。

それではいきましょう。

※この記事は3/11 20:00時点での内容です。


先週の10日、米銀シリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻しました。カリフォルニア州の金融保護当局によってシリコンバレー銀行を閉鎖し、その結果株式市場では世界的に銀行株が売られ、巨額の時価総額が吹き飛ぶ事態となりました。シリコンバレー銀行は多くのスタートアップ企業に資金を貸し出したり金融面でサポ―トをしたりしていました。経営破綻の理由は9日に多くの顧客がシリコンバレー銀行からお金を引き出したため、銀行から顧客へ返すお金が無くなってしまったことが原因です。
そして破綻した結果、連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれる事態となったのです。

FDICの管理下に置かれると一体どうなるのか?

まずはじめにSVBはFDICの加盟銀行となるので、1人当たり原則25万ドル(約3400万円)までの預金が保護されます。つまりもしあなたがSVBに25万ドル以下の預金があった場合は安全です。政府が払ってくれます。
しかし問題なのは、シリコンバレー銀行の93%の口座が25万ドル以上の預金があり、FDICの保護対象ではないのです。ではいったいこれらの口座はどうなるかというと、FDICがSVBの資産を売却し、その中からそれぞれの顧客に保護対象枠外の預金分が今週支払われます。

さて、それではもう少しいったいなぜこのようなことが起こったのか?について深堀していきます。


極めて普通な取り付け騒動が極めておかしな銀行で起きてしまった

まずはじめに一般的な取り付け騒動について説明していきます。(もし理解していたらこの部分は飛ばしていただいて大丈夫です)

基本的に銀行とは短期的に借りて長期的に貸し出す会社です。たとえば銀行は顧客が預けたお金を借ります。この借りたお金は顧客が返してほしいと言った時点で返さないといけません。なのであなたがATMや銀行にいってお金を引き出そうとするとすぐに返ってくるようになっています。そして銀行はこれらの借りてるお金(預金)に対して金利を支払うのですが、この金利はそこまで高くありません。その間に銀行は借りたお金を使い長期的な資産投資を行います。例えば住宅ローンや法人融資です。これらの投資からは大きな利益を得ることができますが、すぐに清算できないのがデメリットとなります。

この長期投資と短期金利の差額が銀行の収益となります。しかしこれは非常にリスクが高いビジネスです。なぜなら先ほど言ったように長期投資はすぐに清算できないので、もともとの価値以上で売れないことがあるのです。つまり、もし銀行にお金を貸し出している顧客たちが一斉にお金を返してほしいと言ってきた場合、銀行は全員にすぐに支払うことができないのです。このリスクを期間のミスマッチといい、顧客が一斉にお金の返却を要求することを取り付け騒動といいます。

2008年の金融危機では、たくさんの銀行が取り付け騒動を起こしました。そして経済学者はこの経験から従来の取り付け騒動モデルを大幅に変更し、この騒動をなんとか経済学的に説明しようとしたそうです。

しかし今回起こったシリコンバレー銀行の経営破綻はいわゆる従来の一般的な取り付け騒動でした。

従来の取り付け騒動のモデルはいわゆる順序型で、最初に銀行から預金を引き出そうとした顧客は引き出すことができるが、遅れて引き出そうとした顧客は引き出せず銀行が破綻すれば全て失う形でした。つまり従来の取り付け騒動モデルは、多くの人が「銀行が取り付け騒動を起こす」と信じた場合、全員が必死になって我先にと銀行から預金を引き出そうとします。これが結果的に取り付け騒動を引き起こすのです。

通常であればFDICがこの騒動を引き止めます。なぜなら連邦政府が預金分を返してくれますし、騒動が起きてもお金を失うことはないと安心して急いで引き出したりしません。なので取り付け騒動は起きないのです。事実、一般的な銀行の顧客の口座の50%以上はFDICの保護対象です。

しかし、先ほども言ったようにシリコンバレー銀行の93%以上の口座はFDICの保護対象外の口座です。つまり「シリコンバレー銀行が破綻する」と大勢の人が信じた場合一体何が起きるかというと、教科書通りの取り付け騒動です。

なぜシリコンバレー銀行にはそんなに保護対象外の口座があったのでしょうか?

それはほとんどの口座がスタートアップ企業のものだったからです。スタートアップ企業は基本的には収益は少なく、社員の給料やほかにかかってくる費用は全てベンチャーキャピタルへ売った株で稼いだお金で支払われます。つまりそのお金を使わない間はどこかに預けておかないといけないわけですね。そしてほとんどのスタートアップ企業がお金を預けていた先がシリコンバレー銀行だったわけです。

しかしもしあなたがスタートアップ企業の創立者だったとしたらシリコンバレー銀行のような小さい銀行に預けますか?おそらくJPモルガンのような大手で安全な銀行に預けようとするはずです。

ここが今回一番の謎です。なぜスタートアップ企業はシリコンバレー銀行に預けていたのか?

単純にお金の貸し出し条件にシリコンバレー銀行からお金を借りているから企業側もお金をシリコンバレー銀行に預けろという条件があったのもありますが、他にあるとすればシリコンバレー銀行がスタートアップ企業に大きな金融面でのサポートをしていたことです。
またもう一つ可能性があるとすれば、いわゆる集団心理です。あるレポートによるとスタートアップ企業の半分以上がシリコンバレー銀行を使うそうなので、「スタートアップ企業はシリコンバレー銀行をお金を預けているから私の企業も預けよう」という考え方がこの結果につながったのかもしれません。

とにかく、個人ではなくスタートアップ企業が多くの資金をシリコンバレー銀行に預けたおかげでシリコンバレー銀行は他の銀行に比べて少しおかしな銀行になりました。そのせいで取り付け騒動が起こってしまったのです。

取り付け騒動が起こった理由

次は取り付け騒動が起こった理由について詳しく説明していきます。

今回このような騒動が起こった理由としては3つの可能性があります。

1.自己充足的予言

2.SVBの資産に対しての不安感

3.ベンチャーキャピタルの投資状況の悪化

まずは自己充足的予言から説明していきます。自己充足的予言とはある社会的事象や状況に関して,誤った判断や思い込みなどが,新たな行動を引起し,その行動が当初の誤った判断や思い込みを現実化してしまうことをいいます。つまりここで言いたいのは、取り付け騒動を起こすために銀行の経済活動状況を示す基礎的な要因は必要なく、必要なのは大衆が「早くお金を引き出さないとまずい」という心理状況になることなのです。

今回のシリコンバレー銀行の取り付け騒動はピーター・ティールのベンチャーキャピタルが投資先企業に「シリコンバレー銀行から金を引き出せ」と言ったことから始まりました。BloombergNewsのコラムニストであるMatt Levineは、スタートアップ企業は巨大なベンチャーキャピタルの宣告に従う傾向があるため今回のような騒動が起きてしまったと発言しています。

なので今回の騒動はピーター・ティールといくつかのベンチャーキャピタルの責任だと言う人も多いです。実際間違いではありません。もしかしたらティールは何日か前のシルバーゲートの崩壊をみてビビった可能性もありますし、もしかしたらなにかシリコンバレー銀行とひと悶着あった可能性もあります。

しかし私は今回のは決して偶然起こったわけではないと思います。ティールや他の企業はシリコンバレー銀行の支払い能力に不安感を抱いていたのではないかと思うのです。

取り付け騒動が起きる基本的なトリガーは銀行の資産価値が抱える負債より低下した時に人々が不安感を抱えて起きます。破産は突然起きるわけではないということですね。資産の価値が上がり支払い能力が戻ることもあります。しかし何らかの理由で銀行が破産に近いと信じた場合人々はお金を一斉に引き出します。

シリコンバレー銀行の資産が低下した理由はいくつかあります。一つはここ数カ月の金利の上昇です。シリコンバレー銀行は固定利付債と融資に大半を投資しているので金利が上がればどちらの価格も低下します。もう一つはテック業界の崩壊です。金利の上昇も崩壊の一つの原因ですが、局部的なバブルや長期的な要因も絡んできているのではないかと思います。つまりこれらせいでスタートアップ企業は金がなくなり、SVBローンの債務不履行につながった可能性があります。

シリコンバレー銀行に対しての恐怖感は3/8に発表された減損処理(株を売り資金調達するという内容)から始まりました。この減損処理だけでは銀行を破産させるには全然足りないのですが、人々に「さらに大きな減損処理が近い未来にくるかもしれない」という恐怖感を植え付けるには十分でした。中にはシリコンバレー銀行の自社株売りについての主張がとても不透明だったのが恐怖感を増大させてしまったと発言している人もいます。

どんな状況にせよ、利上げとテック業界の崩壊が原因の可能性が高いです。

さらにもう一つ原因があります。いわゆる一般的な銀行では普通の状況であれば人々はそれぞれランダムのタイミングでお金を引き出すので問題はありません。しかしスタートアップ企業はそうではありません。取り付け騒動が起きる前にもかかわらず一斉に引き出されることが起きるのです。

スタートアップ企業の一斉引き出しが起こった理由は、テック業界の崩壊によるベンチャーキャピタルの連鎖的な崩壊です。

ベンチャーキャピタルが崩壊したということは、市場が回復するまではスタートアップは自分たちのランウェイを使い現金を消費し社員の給料や他の費用を払わなければいけません。しかしつまりこれはベンチャーキャピタルが新たな預金をシリコンバレー銀行に預けられない間にスタートアップ企業は多額の現金を引き出してしまうということになります。

このような、スタートアップ企業の現金需要に応えるためにシリコンバレー銀行は資産を売らなければいけません。当然最初に売るのは流動性が高い資産なので、残されるのは流動性が低い資産です。そしてこの行動が取り付け騒動につながります。加えて資産の売却は顧客に「シリコンバレー銀行は破産するんじゃないか?」という心理にさせます。つまり心理的にも取り付け騒動を引き起こすトリガーとなるのです。

スタートアップ企業、テック企業、金融システムへの影響は?

今回の銀行の失敗がどのような影響を与えるのか説明していきます。

最初の疑問はおそらくどのスタートアップ企業の創立者がもつ疑問で、それはすなわち「シリコンバレー銀行に預けたお金はいつ、どれだけ戻ってくるのか?」です。

3/13にシリコンバレー銀行から250,000ドル(もしくはそれ以下の預金は全額)返金されます。そしてそのあとFDICがシリコンバレー銀行の流動性が低い資産を売却し、できる限りの返金を行います。

売り方はいくつか方法があります。大体行われるのがFire sale(投げ売り)です。流動性が低い資産を現時点での価値関係なく即座に売ることです。これは可能なのですが、もし投げ売りが起きた場合シリコンバレー銀行に預けていた企業は数パーセントの預金を失うことになります。

これが最悪のシナリオです。しかし2008年に起きたいくつもの巨大銀行が崩壊した時とは違い、今回は一つの奇妙な銀行だけです。つまり他のゴールドマンサックスやJPモルガンのような大手の銀行がシリコンバレー銀行の資産を購入し企業の預金口座の責任を持つこともできます。すぐに買い手を見つけることでパニックを避けることができるので、おそらくFDICがこれをやろうとしているのではないかと思います。

追記(3/13 16:30):先程HSBCがシリコンバレー銀行の買収を決めたと発表がありました。

もし数パーセントの預金を失う可能性が高いとしても、ほとんどの預金が消えるようなことはないと思います。シリコンバレー銀行の資産の数割はスタートアップ企業への融資で、これは非常に価値をつけるのが難しいのですが2008年の暴落に関与した複雑な住宅資産のようなものはありません。ほとんどの資産は国債で価値づけも簡単ですし、価値もほとんど落ちることはないです。

さらにMatt Levineはこのように発言しています。

私はシリコンバレー銀行の資産は最終的に1880億ドル(預金の総額)以上の価値になるのではないかと思っている。FDICにとっても預金者に大きな損失を与えるような方法で大手の銀行を巻き込むのは都合が悪いんだ。

もし預金者が損失を食らうようなことがあればさらに取り付け騒動が起こるだろう。私はFDICや連邦政府、他のシリコンバレー銀行の資産を買おうとしている企業はそんなこと起きてほしくないと願っていると予想している。もしあなたがシリコンバレー銀行の資産を購入しようとしている銀行だったとして資産が1880億ドル以上の価値になると計算したとしたら、おそらくあなたはFDICに対して「銀行の資産を買うので保護対象外預金者には1ドル95セントで支払おう」というと思います。しかしFDICは預金者には損失を被ってほしくないので「1ドル100セントの間違いだろう?」と返答するだろう。

政府が良くない形で銀行を破産させた代表的な例が2008年のリーマン・ブラザーズです。しかし今回のコロナパンデミックからわかるように政府は過去から多くを学んでいます。そして一刻も早くパニックを防ぐことはスタートアップ企業に罰として5%、20%の損失を抱えさせることなんかよりよっぽど大事ということも理解しています。

他にスタートアップ企業が抱える大きなリスクは、今週の給与が支払えるかどうかです。ただこれは大きな危険かというとそうではないと思います。一つの理由としてはほとんどの企業は規模が小さいため250,000ドルあれば1,2週は耐えられます。さらにもう一つは、今週中にFDICが顧客に支払うことを約束しているので給与を支払うのは問題がない可能性が高いという点です。
FDICが顧客に支払うためにすることは二つあり、一つはSVBの資産の買い手を探すこと、二つ目はSVBが保有する国債を売却することです。

(絶対にSVBの保護対象外口座の顧客が100%預金が戻ってくるかはわかりません。しかし2008年の金融危機以降に起きた取り付け騒動で、預金の100%が戻ってこなかった口座はありません。実際ワシントン・ミューチュアル銀行に起きた破産はシリコンバレー銀行より大きな破産でしたが全ての預金が返却されています。なので基本的には全て返されると思いますが、もしかするとSVBの場合は違う結果になるかもしれません。)

シリコンバレー銀行の破産はテック業界へ長期的に悪影響を与えると思いますが、大災害になるかといわれるとそうではないと思います。2022年初頭から投資家に流れている悲壮感に追い打ちを与えるような動きになりますし、シリコンバレー銀行は金融面でのサポートも行っているのでスタートアップ企業はその点をどうにかしなければいけません。また、シリコンバレー銀行はテック企業に積極的に投資を行っているのでその点もスタートアップ企業に大きな悪影響を与えることとなるでしょう。

最後に金融の伝染について説明します。金融の伝染とは簡単に言えば金融市場の混乱がどんどん他の国や金融機関に伝染していくことです。
多くの人は2008年にリーマン・ブラザーズが破産したトラウマが記憶に残っていると思います。なのでFDICや他の政府はシリコンバレー銀行の顧客にできるだけ損失を食らわせないように必死に努力するはずです。

しかし今回はリーマン・ブラザーズショックとは違う点がいくつかあります。一つ目は、2008年の時は多くの大手銀行はそれぞれ互いに依存していました。お金を貸し合っていたり流動性が低い不動産担保証券をお互いに売り合ったりしていました。これはシリコンバレー銀行には当てはまりません。銀行関連銘柄はSVBのニュースで下落していますが、これは一時的なものになるだろうと多くのアナリストは予想しています。


まとめ

今回は先週起きたシリコンバレー銀行の破綻について説明していきました。

少し長い内容となりましたがこの記事で今回の騒動が理解していただけたら幸いです。今週は銀行関連銘柄はもちろんバイオ系銘柄(ディスコードで教えていただきました。ありがとうございます!)も危ないので注意しておきましょう。

今回は以上となります。

ありがとうございました。

















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