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#46 景気は良くなっているのに人々が不況に感じてしまう理由

こんにちは。業務用のミックスナッツを買ってぼりぼり食べていたらなぜかピーナッツだけ大量に残ったすなっちゃんです。別に嫌いじゃないのに。

さて、今回お話しするテーマは「景気は良くなっているのに人々が不況に感じてしまう理由」です。

データを見れば景気は良くなっているのに人々は景気が悪くなっていると感じてしまっている原因を様々な観点からお話していきたいと思います。

それではいきましょう。



経済ライターや経済評論家の方たちが常に苛立ちの種にしているのは、国民の経済に対する認識と実際の経済状態との関連性が明確ではないということです。だからといって、関連性がまったく存在しないわけでも、人々の認識が単なる期待感や不安感からきているだけに過ぎないわけでもないのです。

例えば、インフレ率を考えてみましょう。経済ライターや評論家はインフレ率を報告する際に、前月比と前年比という2つの方法をとる傾向がありますね。この両方の数字が下がると、彼らは一斉に、「我々はインフレに勝利した」という見出しをつけたりして記事を投稿したり議論したりします。


消費者物価指数

しかし、もしあなたが普通に暮らしている人であれば、このような発言や記事は気にしなくていいかと思います。結局のところ、2年半前にこのインフレが始まって以来、物価はまだ15%も上昇しています。今の物価上昇は緩やかになっているかもしれないですが、私たちが耐えたばかりの物価上昇は元に戻ることはないでしょう。2021年初めに債券(少なくとも固定名目金利の債券)を持っていたなら、その債券は永久に価値が切り下げられたことになります。インフレの爆発による給与の実質購買力の低下も、すぐには完全に元に戻らないかもしれません。などなどです。

さて、これを知ったあなたはこう考えるかもしれません。

「よし、経済ライターや経済評論家は人々は何に関心を持っているかを測っていないのなら、人々が何に関心を持っているかを測ればいいじゃないか。簡単なことだ!」

しかし、人々が実際にどの経済指標を気にしているかを把握するのは難しいのです。さらに悪いことに、人々の経済に対する意見は私たちが測定できる実際の経済数値とは緩く、あるいは一貫性のないものでしかないかもしれないのです。

例えば、「バイブセッション」。バイブセッションとは、景気は良いけどそのように感じられない状況のことを言います。
ここ1年半ほど、多くのコメンテーター、アナリスト、ビジネスマン、経済評論家が、米国経済は景気後退に向かうと予測してきました。実際、経験則によれば、景気後退とはGDP成長率が2四半期連続でマイナスになることを意味します。プーチンがウクライナに侵攻し、原油価格が高騰した2022年前半に景気後退が起こりました。しかし、誰がどう見てもアメリカの労働市場はかろうじて止まり、2022年後半に回復しました:


雇用・人口比率

GDP成長率も回復しています。FRBが過去1年ほどの間に行った利上げが、最終的に景気後退に追い込むと考える人もまだいますが、予想される時期は先送りされつつあり、今ではまったく起こらない(少なくとも、次の予期せぬ大災害に見舞われるまでは起こらない)と言う人もいます。

相対的な意味で、米国経済はパンデミックが始まってからのGDP成長率でも、2022年半ば以降のインフレ率の低下という点でも、他のどの先進国よりも好調です。

このような有望な経済データを見れば、ほとんどのアメリカ人は経済についてかなり明るい見通しを持っていると思うでしょう。

しかし、実際はそうではないのです。

消費者心理は1980年以来最低で、大不況の最盛期とほぼ同じレベルです。2022年半ばからわずかな回復が見られますが、ごくわずかです:

消費者態度指数

この調査だけではないです。どの調査でも、アメリカ人は景気が最悪だと考えられています。実際にギャラップの調査を見てみましょう:


経済的信頼感指数

90年代以来最高の労働市場があり、インフレ率は低下しているのに、人々は現代史上最悪の経済的大災害の真っ只中にいると考えているのでしょうか?

カイラ・スキャンロンはこの現象を「バイブセッション」と名付けました。経済学者が使うほとんどの尺度や指標ではそうでもないのに、人々は経済が何かおかしいと感じているようです。

共和党は、民主党がホワイトハウスにいるとき、経済がいかに好調であるかを認めたくないだけなのかもしれません。しかし、そうではないと私は思います。党派的な差はありますが、比較的緩やかです。民主党もトランプ政権下より景気が悪いと考えています:


これは米国経済に対する肯定的な見方が、両党とも依然として低いことを表すものです。

複雑な要因のひとつは、アメリカ人は経済が地獄に落ちると思っていても、自分たちの経済状況はかなり良いと感じている傾向があることです。デレク・トンプソンが指摘しているように、人々は自分自身の経済的幸福については非常に肯定的で、地域経済については中程度に肯定的、そして国家経済については否定的な傾向があります


上のチャートは自身の経済状況(青)、地域経済(オレンジ)、国民経済(赤)に対しての評価を表しています。

ただここで注意しなければならないのは、この種の調査回答は、人々が調査実施者に伝えるべきだと考えていることに大きく偏ってしまう可能性があるということです。人々は自分が経済的に苦労していることを認めたがらないかもしれないし、個人的な苦労を主張するのは礼儀に反すると考えるかもしれません。

いずれにせよ、バイブセッションについてはまだ謎が多く、説明が必要もう少し必要です。否定的なニュースメディアの影響、パンデミックによるPTSD、不穏な時代のアメリカ社会のあり方に対する長引く悲観論などなど。実際、リック・パールスタインのような歴史家の中には、70年代の経済悲観論はインフレよりも社会不安の方が大きかったと今日まで信じている人もいます。

あるいはもしかしたら、利用可能なデータから抽出するのが難しいだけで、本当は実に単純なものかもしれません。例えば、否定的な景況感は、コロナからの長期遅延反応かもしれないし、不況の合理的な前向きの予測かもしれません。このような説明は学術的な経済学者の好みに合うかもしれませんが、雰囲気とか気持ちに基づく理論と同じくらい不可解で証明不可能ではあります。

しかし実際には、景気後退に関するかなり単純な説明があり、いくつかの研究によって裏付けられています。ダレン・グラントは「The Great Decoupling: Macroeconomic Perceptions and COVID-19」と題する新しい論文を発表しました。簡単にまとめると、彼は経済センチメントの歴史的な尺度や指標を集約し、客観的な経済状況と相関させています。多くの仮説を否定した後、彼はパンデミック以降の数年間の経済悲観論を実質賃金の下落の関数であると説明しています:

実質賃金がマクロ経済のファンダメンタルから切り離されると、経済認識もファンダメンタルから切り離される可能性がある。

年齢層別では、賃金上昇率が最も高いのは若年層であり、若年層は一般的に経済状況に対して最も前向きである。年齢が上がるにつれて賃金の伸びは低下し、悲観論が強まる。同様に、これら3つのグループのうち2つ、中間層と高齢層では、賃金がより速く上昇するとセンチメントが改善する。

コロナ前の景気拡大期には、実質賃金の伸び率は年ごとに大きく変動し、それに応じて景気に対する楽観的な見方も変化し、トレンドラインにかなり近い動きが発生した。2021年と2022年には、失業率とGDP成長率は正常化したが、実質賃金は大幅に下落した。実質賃金の伸び悩みだけで、この2年間のセンチメントの下落の大部分は説明できる。この下落は不合理なものではなく、賃金がインフレに追いつけないことの反映である。

パンデミック以降の数年間で、かつてないほど悪化した経済指標があるとすれば、それは実質賃金です。2020年末以降、実質時給はアメリカの戦後史上最大の下落幅を記録した。1970年代のインフレでも、2000年代後半から2010年代前半の大不況でも、これほど報酬が下落したことはあろ、ありませんでした:

非農業セクター・実質時給

この低下は現在止まっているのかもしれません。インフレ率が低下し始め、成長率が回復した2022年夏以降、実質時給の下落が止まったことがわかります。しかしそれでも、パンデミック前の賃金のトレンドラインを線で引くと、実質賃金はパンデミック前のトレンドが続いていた場合の水準を大きく下回っていることがわかります。

言い換えれば、ごく最近のわずかな回復にもかかわらず、アメリカ人はこの2年間、より少ない賃金でより多く働くようになったということです。ダレン・グラントのデータとロバート・シラーによる古い調査から考えると、実質賃金の減少は人々がインフレをめちゃくちゃ嫌っている原因の一つとなります。

つまり、バイブセッションではなく結局は単なる賃金のせいで不況のように感じる心理状態になっているだけの可能性があります。

そしてもしそうなら、慎重に楽観的になってもいいかもしれません。なぜなら、実質賃金はゆっくりとではありますが、再び上昇しているように見えるからです。しかしその一方で、今後しばらくは一見好景気に見える経済に対して人々が不機嫌な気持ちを抱き続けても不思議ではありません。

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