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#58 エヌビディアは危険なゲームを繰り返している

先週の火曜日、米商務省は中国への先端半導体の輸出に関する抜け穴を塞ぐ新しい規制を発表した。

これは、米国政府が中国共産党が軍事目的で使用するチップの輸出規制を始めてからおよそ1年後のことである。そしてこれは、米国とその同盟国から中国へとパワーバランスを傾ける可能性がある。

オーストラリアの防衛専門家によると、中国の軍備増強は、第二次世界大戦後、最大かつ最も野心的なものとなっているとされている。

そして、中国は今、AIを使った兵器の開発重視している。これには自律型の空中・地上ドローンが含まれ、中国軍はこれらを偵察、監視、戦闘任務に使用することができる。中国はまた、敵のレーダーや通信システムを妨害するためにもAIに投資している。

推計によれば、中国政府のAIへの支出は2025年までに1500億ドルに達するという。

新たな対策は、中国が悪用してきた抜け穴を塞ぐものだ。彼らは米国の大手チップメーカーであるエヌビディアの助けを借りてそれを成し遂げることができた。

同社の株価は今年188%上昇している。しかし、エヌビディアはアメリカの国家安全保障上の利益を弄んできた。今、その株価は急落の危機に瀕している。

中国専用チップ


ワシントンの最初の輸出禁止措置は、中国がNvidiaのH100チップを含むハイエンドチップにアクセスするのを阻止するためのものだった。

このチップはOpenAIがChatGPTを動かすために使用しているAI対応チップだ。そして、現在市場に出回っているAIチップの中では最高峰のものである。

しかし、ワシントンが昨年輸出規制を実施した後、中国のハイテク企業は回避策を見つけることができた。それは、エヌビディアの助けを借りる、といいうことである。

輸出禁止を回避するため、カリフォルニアを拠点とする同社は中国専用チップA800を開発した。

これはH100と同じ設計をベースにしている。しかし、このチップは米国の輸出規則に準拠しており、なおかつ十分な機能を提供している。

そして、中国のハイテク企業はこれを買い占めた。

8月には、TikTokを所有するBytedance、バイドゥ、アリババ、テンセントなど、中国のハイテク大手が50億ドル相当のA800チップを買い占めた。

商務省は今週発表した新たな規制によって、こうした回避策に終止符を打つことを狙っている。モデルやブランドに関係なく、一定の処理速度と密度を超える高性能AIチップの輸出を禁止するのだ。

エヌビディアは、この規制が直ちに業績に影響を与えることはないと述べ、財務的な影響を軽視しようとした。

しかし、私はそうは思わない。

会計上のトリック


確かに、エヌビディアが11月に第3四半期決算を発表するときは、この規制による影響はみられないだろう。しかし、中国への販売禁止がエヌビディアにどのような影響を与えるかを完全に把握するには、同社が使っている会計上のトリックを理解する必要がある。

エヌビディアは「ファブレス」半導体企業である。同社はチップを設計する。しかし、製造は台湾積体電路製造(TSMC)が行っている。

TSMCは世界最大のチップメーカーだ。アップル、グーグル、インテル、AMD、テスラなど、顧客リストは膨大である。

TSMCは、顧客が注文するチップを製造するための原材料と設備を確保しなければならない。そのため、エヌビディアやその他の顧客は、特定の量のチップを購入する拘束力のある契約をする必要がある。つまり、エヌビディアのAIチップの需要は急増しているため、TSMCに対してより大きな契約を行う必要がある。

エヌビディアは財務諸表上、これを「future purchase commitments(将来的に支払う契約」と呼んでいる。

同社がこれらの契約をどれだけ増額しているかを知るために、過去3四半期だけを見てみると......。

2023年1月29日 - 49億2000万ドル

2023年4月30日 - 72億7000万ドル

2023年7月30日 - 111億5000万ドル

年初から126%の飛躍だ。

そして、11月にエヌビディアが決算を発表するまで、最新の契約内容に関してはわからない。

重要なのは、これらがオフバランスシートコミットメントと呼ばれるものであることだ。つまり、エヌビディアは契約内容をを開示しなければならないが、これらの契約は存在しないものかのように売上と利益を計上することができる。

売上が好調であればエヌビディアにとって問題ではない。

しかし、常にそうだったわけではないのである。

危険なゲーム


2020年と2021年、エヌビディアはゲームと暗号通貨マイニング用のチップを製造するためにTSMCに大規模な契約を行った。

2022年に需要が激減すると、エヌビディアはこの約束から手を引こうとした。

しかしTSMCは譲らなかった。

そしてエヌビディアの株価は、需要を見誤ったこともあり、2022年に50%近く急落した。

確かにエヌビディアは2024年、新たな輸出規則によって中国へのチップ供給が停止されるため、米国やその他の国への供給に軸足を移すだろう。しかし、国内販売に関しても誤った判断を下している。

アマゾンやグーグル、マイクロソフトなどの大手企業にチップを供給する代わりに、自社が出資している新興企業にチップを供給することを選択したのだ。

そのため、これらのハイテク大手は、エヌビディアのチップへの依存度を下げるために、独自のカスタムチップを展開するようになった。

中国がNvidiaのシリコンを買い占めなければ、そして資金力のある大手テック企業との競争が迫っていれば、エヌビディアは危険なゲームを繰り返していることになる。



まとめ

今回は、エヌビディアなどのAI半導体輸出規制拡大が発表されたことによる影響についてお話しさせていただきました。

11月に発表されるエヌビディアの決算に対して私はあまり期待していません。しかし、決算が予想を上回った場合は株価が再び上昇するでしょう。ただ上でも言ったように、今回発表された規制の影響はまだみられない、ということは忘れないでおいてください。

今回は以上となります。ありがとうございました。


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