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#44 なぜAIを労働者を守るように利用するのが間違いなのか

こんにちは。海を見るとオーストラリア旅行でのダイビングで飛び込んだと同時に両足バキバキにつって溺れたことを思い出すすなっちゃんです。

さて、今回のテーマは「AIを労働者を守るように利用するのが間違いなのか」です。

それではいきましょう。



最近、学術界、産業界、メディアの有識者たちの議論の内容をのぞいてみると、労働者を置き換えるのではなく、補うようにしようという考え方が強い傾向がある気がします。現に経済学者のDaron Acemogluも、最近よく似たことを主張しています:

人間の仕事を自動化するためだけに設計された技術によって生み出される新しいタスクがなければ、単に人間の労働力を失い価値を労働から資本に振り向けるだけである。一方、効率を高めるだけでなく、人間の労働者に新たな仕事を生み出す技術は生産性を高め、社会全体によりポジティブな効果をもたらすという二重の利点を持つ。
私が提案するのは、技術的変化を人間の能力を高める方向に導くことである。特にAIは、これまで人間が行っていた作業を自動化することだけに焦点を当てるのではなく、労働者がより生産的になるように力を与え可能にすることを目指すべきである。

そこで、なぜこのようなことが一般的に良くないと考えるのか、そして代わりに何をすべきかを説明する記事を書こうと思いました。

理論的には、新しいテクノロジーは人間の労働者にいくつかの異なる影響を与えることができます。それは次のようなものです:

・労働力を代替することで、人間の労働者に対する需要を減らす

・人間の労働力をより生産的にすることで賃金を上げる

・新しい種類の仕事に対する新しい需要を創出する

・経済成長を通じて労働需要全体を増加させる

さらに、AIのような新技術は、低技能労働者や高技能労働者を優遇することで、不平等に影響を与える可能性があります。

AI技術の発展が労働者にとっての利益を最大化し、「置き換え」の部分を回避するように舵取りや形成をしたいと考えるのは理解できます。しかしこの考え方には大きな問題があります。それは、数々の経済学者も含めて、どの技術が人間を助け、どの技術が単に労働力を代替するかを予測する方法を誰も持っていないことです

1870年、いわゆる第二次産業革命の前夜に自分がいると想像してください。そして、大量生産、鉄道、電気、自動車、電信、電話、水道、飛行機など、今後半世紀にわたって導入されるか、あるいは大幅に拡大されるであろう驚異的な技術をすべて予知していたとします。これらの技術のうち、どれが人間の労働力を奪い、仕事を奪い、賃金を下げると思うか、どれが人間の労働力を増強し仕事を作り、賃金を上げると思うかを決めるチャンスを与えられたとします。あなたならどの技術をどのカテゴリーに分けますか?

実際、現代の経済学者が利用できるすべてのデータとツールがあったとしても、この予測を立てるのは非常に困難だったと思います。これらの技術のどれをとっても、仕事を奪われる可能性のある人々を具体的に挙げることができます。例えば自動車は、馬の世話に携わるすべての人の仕事を奪い、大量生産は、職人的な製造者の仕事を奪います。電気照明は、照明用の鯨油を生産していた人々の仕事を奪います。

ただ、奪われることだけを考えていてはいけません。これらの技術によって生み出される雇用もたくさんあります。自動車工場の労働者、機械工、発電所の労働者、などなど。1870年当時、新しい仕事がどのようなものか想像することはできても、それがどれくらいの数なのか、どれくらいの給料になるのか、確かなことはわからないでしょう。

なのでもう判断と直感に頼るしかないのです。

1世紀半の後知恵の恩恵を受けて振り返ってみると、第二次産業革命の技術は、全体として労働者にとって良い結果をもたらしたことがわかります。1970年にはほとんどすべての人間がまだ働いており、1870年よりもはるかに高い賃金と生活水準で働いていました。



所得格差も多少の変動はあるものの、全体としては北米で横ばい、欧州で低下しています:

このような歴史的な記録を見ると、産業技術の進歩を意図的に遅らせようとすることは良くない考えであったと結論づけることができます。

しかし、全体として第二次産業革命の結果が良かったとしても、1970年から振り返って、特定の産業技術が労働者にとって悪いものであったかどうかを知ることは難しいでしょう。例えば、1970年にはオフィスワーカーが増え、農業従事者が減っているなど、確かに多くの仕事が生まれ、同時に破壊されました。しかし、特定の技術が経済全体の雇用と賃金水準に与える影響を切り分けることは、たとえ歴史的なデータが揃っていたとしても経済学者にとっては困難な作業だと思います。

また、今から見れば不可能に近いことでも、1870年の時点で前を見れば絶望的なことです。しかし、この不可能な課題こそ、2023年に立ち今後50年、100年の間に特定のAI技術が雇用や賃金に与える影響を予測しようとする経済学者、歴史家、SF作家、政府職員、経済学ブロガーに求められるものなのです。

モデルも正直役に立ちません。先ほど述べたように、その予測は過去のデータから推定できないパラメータ値に完全に依存します。これまでのところ、Brynjolffson(2023年)、Noy and Zhang(2023年)、Peng(2023年)の研究により、生成的AIがさまざまな分野で人間の労働者の能力を向上させることが分かっていますが、その結果、雇用者がその労働者を多く雇用するか少なくするか、AIツールが可能にする新しい仕事は何か、経済全体の需要に何をもたらすかについてはあまり分かっていないのです。

なので仮に専門家を集めて雇用と賃金を最大化するためにどの研究・技術革新を奨励し、どの研究・技術革新を抑制すべきかを判断させたとしたら、おそらく直感とSF的な推測だけで判断することになると思います。

実際のところ、専門家による推測は単なる当てずっぽうに過ぎないことが証明されています。7年前、AIのパイオニアの一人であるジェフリー・ヒントンはこう言っています:

人々は今すぐ放射線科医の訓練を止めるべきです。5年以内にディープラーニングが放射線科医よりも良い結果を出すのは完全に明らかです...10年後かもしれませんが、放射線科医はもう十分にいます。

それから6年後、ヒントン氏の自信に満ちた予測はどうなったのでしょうか。2022年、世界的に放射線科医が不足し、放射線科の企業は米国議会に放射線科医を養成するための資金を増やしてほしいと懇願していました。2023年の時点で、医療用画像の欠員率は過去最高を記録していたのです。


そして、放射線科医の給与は高く、上昇しています:

放射線科医に対する強い需要に伴い、報酬が上昇したのは当然のことです。Merritt Hawkinsのレポートによると、新人放射線科医に対する高額なオファー(放射線科医の初任給は全専門分野の中で5番目に高い)や1万ドルから5万ドルの契約ボーナスが含まれています。

いつか、放射線科医の代替わりというヒントンの予言が現実になるかもしれません。あるいは、そうならないかもしれません。しかし、彼が指定した時5-10年という時間枠の中では、彼の推測はとんでもなく的外れでした。

そして、政府がさまざまなAIの機能を制限したり促進したりするために設置する専門家委員会や規制委員会についても、ほぼ同じことが言えるでしょう。おそらくこれからもコンピュータ科学者やエンジニアだけでなく、歴史学者や社会学者、経済学者など、多様な委員会が設けられるでしょう。しかし、彼らの直感がヒントンの直感よりも正確であると信じる理由はないです。まだ発見されていない技術が将来もたらす経済的影響という問題は、個人にも全体にも、人間の専門知識が存在しないと思われます。

では、私たちはどうすればいいのでしょうか。一つの選択肢は、何もせずイノベーションの流れに任せ、何が問題だったのかを後で考え、それを解決しするということです。この方法をとる国も出てくると思いますし、一般的には悪くないんじゃないかな思います。雇用が大量に破壊されるのを確認したら、本当に悲惨な状況になる前にAIへの課税や法人税の引き上げ、人間の労働への補助、ユニバーサル・ベーシック・インカムの導入などをいつでも始めることができます。これは20世紀初頭の第2次産業革命の際、高い不平等に対応するために新しい税金や福祉国家、労働規制を導入したこととほぼ同じです。

しかし、実際には、もっといい方法があるのではないかと思います。怖いと思われる技術を遅らせようとしたり、問題が起きてから後始末をするのではなく、今、私たちは制度の堅牢性を高めることができます。より強固な制度があれば、技術による人間への悪影響を最小限に抑えることができ、後で後始末をする量も減らすことができます。

重要な制度のひとつが労働力です。例えば今、アメリカでは港湾労働者の組合が港湾の自動化に反対しています。ロッテルダムが世界一の自動化港湾をつくろうとしているオランダでも同様でした。しかし、最終的には労働組合の懸念は静まり、港湾労働者が仕事を確保できるような取り決めがなされ、ました。企業、政府、労働者の関係がより調和することで、組合は渋々ながらも長い目で見ることができるようになったのです。

技術者の中には、労働組合は自動化の永遠の敵であり、テクノロジーは労働力の死体の上でしか進歩しないと単純に考えている人もいるでしょう。しかし、北欧諸国の経験から、労働組合が企業の成長と競争力に長期的な利害関係を持つようになれば、彼らの利害は新しいテクノロジーを受け入れることに大いに一致するようになると思います。

2つ目の重要な制度は、福祉国家です。AIが雇用や賃金に悪影響を及ぼすとすれば、それは誰か(企業経営者やある種のハイエンドな労働者)がより多くのお金を稼ぐためでしょう。もちろん福祉国家はすべての個人にとってネガティブな結果を防ぐことはできませんが、税金や政府給付を通じてテクノロジーによる全体的な破壊的影響を強く緩和することができます。シンプルで普遍的な現金給付の導入は、AIによる突然の雇用市場への破壊的な影響に備える重要な方法です。もし突然事態が悪化し始めたとしても、この種のプログラムをゼロから作るよりはるかに簡単にスケールアップできるでしょう。また、法人税も所得に占める労働分配率が低くなりすぎると利益に対する税率が自動的に上がり、その分が現金給付されるように変更することができます。


まとめ

今回は「なぜAI革命を労働者を守るように利用するのが間違いなのか」というテーマでお話しさせていただきました。

とにかく、最近このようなアイデアを出す人がいるのはいいことだと思います。AI政策に関わるすべての人に、将来のテクノロジーがもたらす経済的影響を予測するという考えから離れてマイナス面を最小限に抑える経済制度の開発へと思考を向けることを強く求めます。

今回は以上となります。ありがとうございました。


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