『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』岩田松雄(サンマーク出版)を読む

 ブックライター塾でご縁をいただいた編集者が、塾の恩師と共につくられた本を読み終えました。

 51の考え方はすべて、なるほどと納得できるものばかりでした。「人を治める前に、まず自分を修めよ」「部下は、上司の人間性をこそ見ている」「地位は権力ではなく、責任である」「部下に関心を持つことから始めなさい」「リーダーは逃げてはいけない」「人の悪口や自慢話は控えておく」「無私の心を持つ」……。

 どの言葉ひとつ取っても、過去の至らなかった自分のことが思い出されて、胸が痛くなります。全然ダメだった痛恨の思い出しかありません。当時の部下たちに申し訳ない気持ちでいっぱいです。知らず知らずえこひいきしていたり、責任逃れをしていたり、苦手な部下を放置していたり、思わず悪口を漏らしたり、人として至らぬ上司でした。最終的には、早期退職して、私は部下から逃げました。最低最悪ですね。今も合わせる顔がありません。

 そんな私が、理想とする、実際にお会いしたことのあるリーダーが3人います。

 1人目は、約40年前に私が新卒で入社した広告代理店「ADK」(当時は旭通信社)で社長をされていた稲垣正夫さんです。大阪支社に配属され、入社2か月で東京出張することになり、支社長に社長を訪ねろと言われて社長室のフロアに行くと、稲垣さんは自分でコピーを取っていました。「社長がコピーとるの?」と驚きながら、「今年入社した大阪支社の中島史朗と申します」と挨拶すると、「あ、兵庫県の相生出身の中島さんですね。出張ご苦労様です」と返されました。400人以上いる社員全員の顔と名前、略歴をすべて記憶されていたのです。恐縮して、二の句が告げませんでした。しかも、新入社員に対しても誰に対しても「さん付け」でした。社員からも「稲垣さん」と呼ばれ、慕われていました。酒もタバコもゴルフも、女性の方もやらず、広告代理店には珍しい謹厳実直な方で、業界の尊敬を集めていました。当時は業界11位でしたが、瞬く間に急成長させて3位まで押し上げ、業界で初めて(電通よりも早く)東証1部上場を実現しました。この方に出会ったことで、私のリーダー観が形成されていきました。
 
 2人目は、約10年前に私が転職した食品会社「合食」の取引先だった「フジッコ」の福井正一さんです。昆布と豆製品でヒットを連発し、通販事業も軌道に乗せ、業績を拡大しました。この方は、年1回の「合食」最大の全社展示会にたった一人で来場され、たまたま担当営業がいなかったため事務局長を務めていた私が会場を案内することになり、マンツーマンでお相手をさせていただきました。私のような平社員に対してもきわめて丁重に接し、丁寧語で受け答えし、私の拙い説明にうんうんと頷き、最後は「ありがとうございました」と頭を下げて、労ってくださいました。いっぺんに福井ファン、フジッコファンになったのは、言うまでもありません。

 3人目は、先日「カンブリア宮殿」に出演された「カネテツ」の村上健さんです。実は旭通信社の得意先だったので約40年前から存じ上げているのですが、7年前に「合食」の取引先という関係で、30数年振りに再会しました。昔と同じように気さくに話しかけてくださり、大変恐縮しました。一時は倒産の危機に立たされ、自殺を考えるほど追い込まれていたそうですが、まったくそんな過去を感じさせないご様子でした。今や「ほぼカニ
」の大ヒットでV字回復を遂げ、一躍名経営者の仲間入りをされました。

 3人ともに共通するのは、人間性です。まさに、本書中に出てくる通り、「偉い人が謙虚でいることはかっこいい」。誰に対しても態度を変えないその人との接し方は、いつも私の永遠の目標です。(了)

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