見出し画像

総合商社のDX戦略とその行方

今回は商社の新事業戦略の中でもDXについてお話しします。商社の次世代事業とは、三菱商事で言えば産業DX部門、三井物産ではICT事業本部、丸紅の次世代事業開発本部が該当します。AIや機械学習をはじめとする昨今の技術革新は商社にとってチャンスなのか脅威なのか。

商社にもテクノロジーにも興味がある就活生向けに書いています。


これまで商社は、巨大な資本と情報網を背景に、物や権利(所有権・販売権等)を中心に効率よく運営させ、周辺アセットを獲得することで、他社の参入障壁を高めて安定的に収益を生み出してきました。

従来のビジネスにおいて商社が勝ちパターンを生み出せたのは、今の商社が扱うエネルギーや食糧、電力等、国家のライフラインであり、安定供給が求められる産業で、自ら仕組みづくりを行い先取特権を手に入れられたからです。物理的な資産や拠点が元々持っている価値・特徴が直接的なメリットの大小を決定づけることが多くありました。例えば、利益率の高い電力プラントや油田の獲得などです。商社が介入することで改善の余地がないわけではありませんが、一定の限度があります。また、一度獲得してしまえば、奪われることも複製されることもないです。

DXにおける資産の性質

一方のDX分野では、主役となる資産の性質に違いがあります。テクノロジーには改善の余地が常にあり続け、身近なところから言えば、機械学習の精度向上、新たなアルゴリズムの考案、サーバーの強化など挙げ始めればキリがありません。もし改善の努力をしなければ、すぐに他社の作ったハイスペック品に代替されてしまいます。

改善に伴なって必要となる研究開発は商社のビジネスサイクルとは残念ながら不協和音を発します。商社は上場企業ですから四半期毎にある程度の見通しを持ち、1年毎に結果を残さなければいけません。つまりある程度線形に進める必要があります。一方で技術開発は革新的な内容であればあるほど見通しが立たないものなので、商社の四半期・1年サイクルとは必ずしもマッチしません。
 
また、商社の全社決算結果は、部門から部へ、課から個人へとBreakdownしていくことが容易に可能ですが、私たちエンジニアの場合にはそうはいきません。エンジニアは開発速度や、システムの効率性等、決算結果からは直接的に測るのが難しし物差しで評価されています。

変な話、非効率なシステムでも売れれば良いし、最高のシステムが全然売れなくてもおかな話ではありません。売れないからって作ったエンジニアにも営業責任を負わせるなど、仮に誤った物差しで評価し続けると、不満を持った有能な技術者を失うことになるので、この特殊なマネジメント手法は商社にとって馴染みがなく不得意な分野です。

取るべき戦略

以上のことから、自ら技術開発に積極的に前線で関与するのはうまくいかないだろうと思われます。その一方で、商社は新技術のビッグユーザーとして活躍することができると考えられます。

商社の傘下には広大な事業ネットワークがあり(三菱商事には千を超える子会社が、三井物産も全世界で280社)、新技術をこれらのネットワークに取り込むことで、既存のビジネスの生産性向上を図ることができるでしょう。内製化が不得意でも、新技術を使ってこれまで築いてた産業構造を更に強化できます。このDX分野で商社ほど良い立ち位置にいる企業はないのではないでしょうか。

関わり方にはさまざまな選択肢があると思いますが、技術開発やエンジニアのマネジメントは専門家に任せ、商社の資金を用いたFinanceや巨大な事業ネットワークを背景にテストユーザーとして関わるなど、パートナーとして開発を加速・支援する立ち位置が、最も商社の地の利を生かせると思います。

開発されたテクノロジーは商社グループに一層の競争力を与え、競合他社の吸収などを通し、更なる産業構造変革を推し進めるでしょう。従来、資本と情報網を使って商圏拡大してきた商社は、新たにテクノロジーという三本目の矢を手にするわけです。

商社はGoogleやAppleの様な万人ウケするテクノロジーの技術開発を得意とはしませんが、自らの土壌を強化するDXテクノロジー開発に勝機を見出せると私は考えています。技術開発マネジメントの得手不得手の観点からも、特に協力者・パートナーとしての立ち位置が最も適していると考察しています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?