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ギャラリーオーナーの本棚 #9 至福を知る 『ラマナ・マハルシの教え』

この本は5月14日からGallery Pictorで個展《New Landscapae》を開催するアーティスト・武田哲さんが、ギャラリーの年間プログラム《中心はどこにでもあり、多数ある》のために選んでくれたものです。

たぶん哲さんの作品とこの本は容易に結びつかないだろうと思います。哲さんの作品は一見するとグラフィティ・アートのような、主義主張を自由に発露したような印象を受けがちです(一般論として)。一方、シュリ・ラマナ(シュリは「聖なる」の意味)の教えは自我を解き放つことによる平安を説きます。

本の内容に入る前に余談だけれど、私はアーティストとその人の作品には、鑑賞者から見たときにそういうズレがあって当然だと思います。ズレがないならわざわざ作品を見なくてもいいのだから。
人はたいてい、物事を「見たことのあるもの・聞いたことのあるもの」に置き換えようとします。だから作品を見たときに、自分の経験の中で似たものに紐づけて理解しようとします。これはどうしたってそうなるし、先入観のない人なんていないのです。でもその時、「ビンゴ!そうだよね、そうだと思った」で済んだら、既知の物事についてただ確認作業をしているだけになってしまう。そうではなくて「なんでそれがこうなるんだ?」というクエスチョンを与えてくれるのがアートだと思うのです。

それで、ラマナ・マハルシです。
私はヨガを少しだけかじったことはありますが、インド哲学に関してほとんど無知と言っていいので、この方を知らなかったのですが、1879年南インドに生まれ、17歳で死の淵を体験したことで家族や学校から離れて山に篭り、真実の自己=「真我」を探求し、心の解放の道を説いた聖人、つまり "シュリ" ・ラマナと呼ばれた人です。

本書は、師であるラマナが弟子の質問に答えるような形で教えを説いています。ラマナ自身は17歳で俗世を離れているので、達観しちゃっていますが、弟子は普通に仕事を持っていたり家庭があったりして、現代の私たちと同じような悩みを抱えています。つまりは、現実的な生活を送りながら、どうやって真実の自分を探求するんですか、という悩みです。
その問答を読みながら、私自身は納得できるところもあったし、理解不能なところもありました。でもそれで良いのだと思います。これを読めば真実の自己にたどり着く方法が分かってしまう、というような安易なものではないはずなのです。

ところで、ラマナ・マハルシは、インドの偉大な指導者マハトマ・ガンジーに慕われ、また心理学者のユングなど西洋世界にも少なからず影響を与えています。本書に引用されているユングの文章から一部抜粋しましょう。

東洋の国々は、その精神的な財産の急激な崩壊に脅かされており、彼らの場に入ってくるものは必ずしも西洋の心の最善のものばかりではない。それゆえに人々は、シュリ・ラーマクリシュナやシュリ・ラマナのような聖者を、現代の預言者とみなすのかもしれない。(中略)彼らの生涯と教えは、西洋文明、その物質的技術的、および商業的関係からなる世界の、すべての最近のできごとの中にあって、魂の要求を忘れてはならないという印象的な警告を形作っている。政治的、社会的、知的分野における息づまるような獲得および所有への衝動、西洋人の魂にあって明白になだめがたい情熱をかき立てずにはおかない衝動は、東洋にあっても絶え間なく拡大しており、見逃すべからざる結果を生じる恐れがある。

ジンメル著『自己への道ーパガヴァン・シュリ・ラマナ・マハルシの生涯と教え』より


ユングの存命中(1875-1961)に書かれたこの文章が指摘している「恐れ」は、すでに半世紀を過ぎた今でも世界を覆っています。しかし今、少しだけ「衝動」にブレーキがかかりつつあるのは良い兆候です。この本は1982年に書かれていますが、その頃よりはラマナの声が私たちの心に深く響くような気がしています。

あなたは自分の至福に満ちた状態に無知だということだ。無知は次から次へと続き、至福である自己にヴェールをかける。努力はただ、この悪い知識であるヴェールをはぐことに向けられればよい。

ラマナ・マハルシ


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日曜朝のギャラリーでの対面開催と平日夜のオンライン開催がございます。詳細は下記リンクから!

Gallery Pictor 学びをシェアする読書会《自我を手放すことの自由 –究極のメタ認知力に学ぶ》

ギャラリーでの対面開催 → 5月22日(日) 9:00-10:30
オンライン開催 → 5月24日(火) 20:00-21:30


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