見出し画像

背徳感を楽しむ~岩井勇気「僕の人生には事件が起きない」を読んだ


ハライチ岩井さんのエッセイ集「僕の人生には事件が起きない」を読んで考えたことを、脳内関西人の富田氏(仮名)と林氏(仮名)の会話風でお届けします。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

林: ハライチ知ってるやんな?

富田: おお、澤部と、相方誰やったっけ?顔は出てくんねんけど。

林: 岩井。

富田: せやせや、岩井。この前のM‐1で、憑依芸見せてたな。

林: 新境地やったな。その岩井が書いたエッセイがおもろいらしく、読んでみてん。

富田: ハライチ漫才風のノリツッコミか?

林: いや、そういう面白さやなくて、タイトルの通りごく日常の話ではあるんやけど、なんかおもろいねん。切り取り方と表現の仕方が。

富田: 独特の世界観持ってそうやもんな。たとえば?

林: いっちゃん好きやったんは、水筒にあんかけラーメンの汁を入れて持ち歩いたっていう話。

富田: 普通、あんまり持ち歩くもんではないよな。

林: めっちゃハマったインスタントラーメンがあって、麺は普通やけど、スープが濃い目でめちゃうまかったらしい。

富田: ラーメンはスープが命やもんな。

林: そのスープをやな、水筒に入れて持ち歩いたらいつでも飲めるやん、って思いついてんて。

富田: 天才やん。

林: 駅のホームとか交差点とかレジ待ちの間とか、そういうごく日常の中で、公衆の面前で、人知れず水筒からラーメンスープを飲むという行為に背徳感を覚えて興奮したらしい。

富田: なんかゾクゾクするな。

林: 極めつけに、公園で子供が遊んでいるの見ながら、その子供を凝視しながら飲んだらしい。

富田: あの目つきでかぁ。犯罪スレスレやん。でもなんかええな。俺もカレーでやってみよ。

林: さすがに匂いでバレると思うで。あと、同窓会が嫌いっていう話。

富田: いかにも嫌いそうやな。

林: なんで嫌いかっていうと、昔話で盛り上るんは、「学生時代は楽しかった」っていう記憶に大人になっても縛りつけられる呪いに見えるらしい。さらには、同窓会を主催する人は、私生活と仕事がうまくいってて自慢したい、でもなんか満足してなくて、学生時代の楽しさのピークを更新したい、同級生より上に立ったことを確信したい人たちや、って切り捨ててる。

富田: ほんまに会いたい人とは別に同窓会やのうても会うしな。

林: ぎょうさん人が集まるパーティも嫌いらしい。

富田: ぽいな。

林: 見ず知らずの人が集まってるのに、楽しそうに振る舞っとかな「感じが悪い」とか、「空気読めない」と言われかねない雰囲気が嫌いやねんて。

富田: その気持ちはようわかる。けど、そこで嫌いと言える人はなかなかおらんよな。無理に合わせるんやなくて。

林: 無理に合わせるどころか、あえて場をシラけさせようという企みをやった話もあったわ。最後に相方の澤部に関する分析があってんけど、なかなか面白い人間分析やった。澤部っていうのは自分というものがなく、周りが求めるリアクションをそのまま出せるのが強みらしい。普通、オリジナリティを出したくなる気持ちが邪魔するところ、本人が完全に「無」だけに、受け手が良いと思うであろうことをストレートに出せるんやって。

富田: そら制作側としては重宝しそうやな。

林: 「表向き陽の澤部が陰の部分を詮索されないのも、薄々“無“に気づかれているからで、そこを探っても意味がないと皆どこかで思っているのである」ってぶった斬ってて、ここだけ読むとボロカスや。けど、全体的なトーンはディスるわけでもなく褒めるわけでもなく、不思議なバランスの分析やった。

富田: 澤部についてそんな考えたことなかったけど、納得感はあるな。この1~2分で、おれも澤部について一生分考えてしもたわ。


<おしまい>


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?