史上最速の桜【30日間毎日note:その2】
今年の開花は、観測史上最速だったそうだ。例年と比較すると、2週間も早い。
花を待ちわびていた癖に、「早すぎる」と、文句を言いたくなるのだから、人間は勝手な生き物だと思う。
あっという間に散ってしまうのではないかと不安だったけれど、案外、長持ちしてくれて、カメラロールには、沢山の写真と動画が残された。
今年は、花を見る度に思い出した。
——来年も、桜の季節を迎えられるといいな。
父と顔を合わせる度に、そう思っていた、去年の春を。
花見どころか、自力で散歩に出る事も出来なくなっていたけれど、昨年の桜の時期、まだ父は、自分の家で暮らしていた。母と妹に我儘を言いながら。
沢山の花見の記憶。
食事の制限がある癖に、母の作ったおにぎりを、幾つも食べようとして、家族全員から止められる父。
食べ終わるや否や、懐から文庫本を取り出して、読み耽る父。
お気に入りの幾つもの並木道。その下を気ままに歩く父。
その姿を、もう見る事は無いのだとは、未だに実感が薄い。桜が散って随分経ったというのに。
史上最速で咲いた花と、叶わなかった願い。
恐らくは、いつかの桜の時期に、思い出すのだろう。沢山の花見の記憶のひとつとして。
その事が、ありがたくもあり、切なくもある。
お目に掛かれて嬉しいです。またご縁がありますように。