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【筋膜とは】超基本から専門知識までわかる10分間! 解剖学者が筋膜について解説してみた

筋膜について解説してみたいと思います。
筋膜とは、何か。

グレイ解剖学原著第4版(2019)より

解剖学の教科書にある記載を見てみましょう。

『筋膜は器官やさまざまな構造物の間に存在する結合組織で、それらの構造物を支持するとともに、互いを隔てあるいは連結している。脂肪を含み器官などが動きやすくするとともに、血管や神経の通路にもなっている。』

ポイントは、筋膜がどこにあるかということ。
器官や様々な構造物の間を埋めているような場所に位置しているんですね。

そして結合組織であるということ。
結合組織だということは、その主な構成要素が膠原線維(collagen fiber)からなります。
そしてその役割としては、周りの構造物を支持したり、隔てたり、あるいは連結しているといった特徴があります。

図: 臨床のための解剖学 第2版 (2016)より

筋膜は、主に筋を包み隔てているような構造物です。
下腿の横断面の図を見てみましょう。

下腿の横断面で、まず骨がありますね。
脛骨、腓骨がありまして、その周囲に下腿の筋がこのように配置されています。
そしてこれらを包み、周りを囲んでいるのが筋膜です。
この筋膜は周りを包みながら、一部が筋と筋の間にまで入り込んでいき、筋間中隔になります。
この筋間中隔も広い意味では筋膜のようなものです。

そして、骨膜に癒合していたり、骨間膜に連続していったり、そして神経や血管を包んでいる神経血管鞘にも連続していったり、このように筋の周りを包みそして間を隔てるように入り込んでいく。
これが筋膜になります。

図: 人の生きた筋膜の構造(2018)より

こちらは筋膜を撮影した内視鏡画像です。
筋膜は結合組織ですので、主に膠原線維(collgen fiber)からなります。
こちらの写真見ていただくと、膠原線維が立体的な構造を作り出しているのがわかります。
筋膜の「膜」というと、2次元的な広がりをイメージするかもしれませんが、実際はこの
膠原線維が3次元的に配置されて、立体的な構造を作り出しているんですね。

図: ja.wikipedia.orgより

さて、筋膜の語源を見ていきたいと思います。
筋膜(fascia)の語源をさかのぼることで、その意味するところ、その本質的な意味をとらえることができるでしょう。
古代ローマまでさかのぼって見てみましょう。

こちらに2つの用語を上げています
「fascis(ファスキス)」と「fasces(ファスケス)」。
単数形の方のfascisは、『束』を意味するラテン語です。
何かを結びつけたり束ねたりする『帯』や『紐』といった意味を含んでいます。
そして、この複数形「fasces」は、『物の周りに木の束を結びつけたもの』を意味します。
それがこのイラストですね。
この木の束が結んであるものがfascesです。

このfascisやfascesが、fascia(筋膜)の語源なんですね。
意味としては「束ねるもの」「結ぶもの」「包むもの」といった意味があります。
なので人体において様々な構造物を包んでいるもの、それがfascia(筋膜)なんですね。

ちなみにfascism(ファシズム)の語源も同じくfascisやfascesです。
ファシズム、例えば独裁制や軍国主義、排外主義、全体主義などといった形で、「人々を束ねていく」といったイメージ。
それが、同じような「束ねるもの」「包むもの」といった語源に由来するんですね。

そして、「筋膜」という言葉は「fascia」の和名です。
fasciaは先ほど観ていただいたように「包むもの」を意味します。
人体において包むものは結合組織であり、包まれるものの大半は筋になります。
なのでfasciaは「筋膜」と訳されたんです。
人体において筋が大きなボリュームを占めますので、たいてい包まれるものというと筋なんですね。
なので、この筋膜という言葉には「筋」という言葉が含まれて、「筋膜」と訳されたんです。

しかし人の身体の中で包まれるものは必ずしも筋とは限りません。
包まれるものの大半は筋ですが、全てではないんですね。
なので、内臓や血管、神経も包まれる対象となり得ますので、筋膜という名前がついていますが『筋以外を包む筋膜もある』ということに注意が必要です。

内臓の周辺などにある筋膜の例をいくつか見てみましょう。
つまり包まれるものは筋だけじゃないんですよ、っていうことなんです。

例えば、頸筋膜は頸部の内臓、血管、神経などを包みます。
癒合筋膜(fusion fascia)と呼ばれるものは結腸と後腹膜(腹膜後隙)を隔てています。
腎筋膜は、腎臓と腎周囲脂肪を包みます。
前立腺筋膜は、前立腺を包みます。
直腸筋膜(mesorectal fascia)と言われるものは、直腸と直腸周囲脂肪を包みます。
そしてDenonvilliers’(デノビエ)筋膜は、直腸と前立腺を隔てています。

このように、筋以外のものを包んでいる筋膜も色々あるわけです。
それら全ては何かを包んでいたり、隔てていたりといった点で、fascia(筋膜)という意味に対応しています。

図: Schleip et al. (2012) より

近年はこの筋膜を含めた線維性結合組織を、その線維配列と密度で捉えるとうまく整理できるのではないか、という考え方が出てきています。
ここでいう線維配列と密度というのは、筋膜をはじめとする線維性結合組織を構成している膠原線維の配列と密度のことを指します。

こちらの論文からの図に日本語を重ねてみます。

図:Schleip et al. (2012) より

横軸はどのくはい規則的に線維が配列しているかという指標で、縦軸はその線維の密度(密に集まっているのかそれとも比較的疎にパラパラと散らばっているのか)です。
図の下の方、密性の結合組織から見てみますが、密性の結合組織の中で線維配列が不規則なものというと、これがまさに筋肉の周りを覆っている『固有筋膜』がそれにあたります。
線維配列は不規則で、密に集まって、いわば膜状になって筋を包んでいる。

それよりもやや規則的に線維が配列している密性結合組織は、『腱膜』に相当するでしょう。
さらに規則的で、一定方向に線維が配列している密性結合組織として『靱帯』というものもあります。
そして、それよりもさらに規則的に一定方向に線維が配列している密性結合組織として『腱』というものもありますよ、ということなんですね。

これらの密性結合組織より線維の密度が低いものとしては、例えば内臓を覆うような筋膜っていうのは結構なんでもありです。
密性なものから疎性なものまで、そして線維配列も不規則なものから規則的なものまであの色々あります。
筋肉を被っている筋膜は筋肉内にも入り込んでいくんですね。その線維が『筋内筋膜』になり、これはまあまあ不規則で比較的疎性な結合組織ですよ、ということなんです。
線維配列がかなり不規則で疎性の結合組織というと、皮膚の直下にある『浅筋膜』がそれに相当するでしょうということなんです。

こちらの考え方、整理の仕方のポイントは、『それぞれの用語、その概念がオーバーラップしている』ということなんです。
例えば、この図の真ん中下あたりのものを見てみますと、線維配列の規則性がこの程度の密性結合組織というのは腱膜と呼んでもいいですし靱帯と呼んでもいいですよねという。
このようにそれぞれの用語、その概念がオーバーラップしている、厳密に分かれているわけではない、というのがポイントです。

さて、この筋膜(fascia)なんですが、実は結構わかってないことが多いです。
その性状、広がり、走行、周囲の構造物との関係、機能、病態との関わりなど、わかっていないことが実は結構多いんですね。
なので、この筋膜(fascia)は『人体最大の未開領域』と言われることもあります。

まとめです。
筋膜は、
・様々な構造物を『包むもの』
・膠原線維を主成分とする結合組織
・線維配列と密度である程度は整理することができるが、実は結構わかっていないことも多い

以上、筋膜の解剖について解説でした。
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