見出し画像

人生を共に過ごしてきた、銀製品の魅力。

銀製品の魅力は色々あるが、高価な素材という以外にも手に伝わる独特の温度感や、空気と触れていると硫化して黒ずんでくる。この独特の黒ずみや当て傷やこすり傷が人生を共に過ごした時間の記憶と重なったりする。
思いおこせば、学生の頃から好んでアンティーク調のものを集めたりしていた。それは、幼い頃に憧れた祖父の持ち物が強く影響していたのかもしれない。今まで、万年筆やボールペン、腕時計など、人生を共に過ごしてきた銀製品の魅力について語りたいと思う。

エボナイトの偏愛はこちらから


銀製品やパーツの魅力

普段よく使うスイス製の機械式時計にドイツ製万年筆や英国製のボールペンたち。

銀製品は長年使い込むことで、小キズや変色も独特のあじわいになり、深みが出てくる。ハレの日の装飾品とは違った普段使いの「道具」としての役割をちゃんと兼ね備えているのが銀製品の魅力の1つだ。金の華やかさとは異なり、どこか控えめで温かみのある輝きがいい。

ミラノの古時計屋で出会った時計は20年近く共に人生過ごした戦友である。

腕時計などは、小さな凹みや小傷は逆にその使い込んだ歴史を感じるし、使い続けることで世代を超えて家族代々引き継いでいくことができる。経年劣化も楽しむことができる銀製品は、日本人が大切にする美意識、「侘び」「寂」に通じるものがある。

銀製品の純度と、その証明

英国製ボールペンのホールマーク

銀製品は、その純度が99.9%以上のものを純銀(Fine Silver)と呼ぶ。銀は純度が高いほど柔らかく、加工も困難なため実用品というよりはハレの日の装飾品などに使われる場合が多い。
普段使いの銀製品で一番多いのはスターリングシルバー(Sterling Silver)といわれるシルバー925だ。純度が92.5パーセントのシルバー合金のことを指す。残りの7.5%は主に銅で構成されており、シルバー単体よりも硬度が高く、強度も増す。私の時計も万年筆も、全てがこの925の銀製品だ。
アンティークシルバーの世界ではスターリングシルバー以上であれば「純銀」と表記するのが通例となっている。それにならって現在の時計業界や筆記具業界でもスターリングシルバー製のものを「銀無垢(ぎんむく)」と呼ぶことが多い。
銀製品の純度を保証するために、例えば欧州では銀製品にホールマークと呼ばれる、純度などを証明する刻印を打刻する。各国様々だが、ブランドやメーカーごとに番号や文字が割り振られたり、納税を証明するマークがあったりと、ホールマークや、その意味を読み込むことも銀製品を所有する楽しみでもある。

スイス製機械式時計の裏蓋に打刻されている"925"とホールマーク

銀製品の硫化

私たちが普段目にする銀無垢製品の黒ずみを"酸化”と表現することが多いが専門的には"硫化”と呼ぶらしい。銀の原子が硫黄の原子と結びついて、銀が「硫化銀」という黒いサビのように見える現象がおこる。これはこれで銀無垢製品のアジではあるが、しばらく使用せずに放置しておくと、ほぼ真っ黒になってします。これは空気中のわずかな硫黄分に反応したためにおこる現象だ。

腕時計の尾錠も硫化して・・味わいのある感じになる(個人的意見)

また、時計のように身につけたり、筆記具のように手で触れていると皮膚や爪などのタンパク質に含まれる硫黄分に反応して、その部分だけが特に黒ずむことがある。
対処法としては、水を入れた容器に重曹とアルミ箔を入れると硫化銀が化学反応である程度元に戻ったり、市販のクリーナーなどがあるので詳しくは専門業者に聞くのがいいだろう。ちなみに私は「銀磨き」と呼ばれる布で、使用前と使用後に磨いて適度な燻銀感をキープしている。

変色防止コーティング

真ん中の、輝き失せない銀のパーツがコーティングされたもの。

昭和の時代の筆記具に関しては、ほぼ銀無垢の状態が多いように記憶している。そのため、銀製の万年筆やボールペンはパーツも含めて、硫化現象によって黒ずんでいた。これを「燻銀の味だ」、これぞ「銀無垢、本物の証だ」などと胸を張っていたが、平成の頃になると百貨店の筆記具売場から「新品で買ったとのに、黒ずんできた」とクレームが入るようになった。

日本で販売し始めのころ、D-NのDVはオーバーサイズもオリジナルもミニも味わい深かった。

販売時にしっかりと説明していなかったり、そもそも販売員も銀製品の知識がなかったりだったが、その旨をイタリア側にその旨を伝えると「日本人には銀(スターリングシルバー)の価値がわかっていない」と言われたのを思い出す。

奥の3本のキャップ・リングは銀無垢、手前はロジウムメッキ加工を施したキャップ・リング・

「シルバー部位の変色をなんとかできないか」。あまりにも同様の声が多かったために、メーカー側に伝え続けると、シルバー・パーツの変色防止のためにロジウム・コーティング加工を施すようになった。ロジウムをコーティングすることにより銀の硬度を上げることができ、銀が帯る若干の黄色い色味を抑えることができ、シルバー色がより銀色に輝く効果を得られた。

賛否が分かれる、銀製品やパーツの味わいとは?

こうして、平成から令和と時代の移り変わりと共に、銀製品や銀製のパーツを取り巻く環境は変わり、今では一部アクセサリーブランドの商品を除けばほぼスターリング・シルバー製はロジウム・コーティングなどを施したものになってしまった。
コスパ、タイパが幅を利かす時代は、極力当たり障りのないものを善しとする傾向が強くなっていると感じる。

いろいろな変化が、そのモノの価値を上げてくれる

銀製品や革製品など、特に使い込むほどに味わいが増すモノたちは、経年変化を楽しむことも1つの"価値"として、大切に所有する意味に気づかせてくれる。

ヴェジタブルタンニンで鞣した革も銀無垢と同じ、使い込むほどに味わいが増す。

それは、時代遅れの感覚なのか、それともずっと続く不変の価値観なのか。

難しいことを考えるのはやめて、とりあえずいつものように手に馴染んだものたちと今日1日をご機嫌に過ごそう。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?