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「養殖」にかわる新たなジャンルを作り出す〜そのヒントはクラフトビールから〜

宮崎大学‘‘初’’のベンチャー企業であり、2021年にSTI for SDGsにて​​‘‘科学技術振興機構理事長賞’’、ふるさと名品オブ・ザ・イヤーにて‘‘地方創生賞’’を受賞するなど、まさに時代の最先端を走るSmolt。

・・・と紹介されると照れてしまうSmoltです(笑)このような評価には身の引き締まる思いです。
ところで一見‘‘最先端’’とは程遠い地、宮崎で躍進する代表上野の根底には、どのような思いがあるのでしょうか。今回の記事では代表上野のインタビューをお届けします。

株式会社SMOLT 代表取締役 上野賢
岩手県釜石市出身。宮崎大学大学院 博士後期課程(在学中)。専門は「魚類生理学」。大学在学中の研究でサクラマス養殖に出会う。研究で生産現場を訪れ、生産者の熱意や現場の課題を感じたことをきっかけにサクラマス養殖の事業化を志す。研究に取り組む傍ら、事業化の可能性を探り大学院在学時にSmoltを設立。宮崎大学の学生としては初の大学発ベンチャー1号。大学のシーズを活用し、地域の水産業を豊かに、そして日本の魚食文化をいつまでも残していくためにサステナブルな水産資源の活用を目指す。


「好きなことをやる」その思いでSmoltを創業

‘‘好きなこと’’を一貫した人生

ーー高校までは岩手県に住んでいたそうですが、なぜ宮崎大学に?

上野 小学校から高校までは、空手一筋でした。また、観光したいから頑張って全国大会を目指す、といった、好きなこと得意なことにひたすら取り組んできた人生でした。

大学に来た理由も同じで、好きだった生き物の研究をしたかったのと、海洋生物環境学科という名前に惹かれたからです。大学に進学した当時は将来は好きなこととは割り切って就職しようと思っていました。

あとは、東北がとにかく寒いからですね。
南国感あふれる温暖な気候に憧れがあり、実際住んでみて宮崎の気候にとても満足しています(笑)


〜創業のきっかけ・決めて〜


ーーSMOLTを起業した時の思いを聞かせてください。


上野 実は、起業に対してこれといった思いはありませんでした。むしろ、昔から変わらず好きなことや興味のあることをやりたいという思いが強く、そのような興味を追求する手段の1つでした。

あとは、研究だけしていればいいのか、というところがありました。実は研究というものは、深く入りこめば入るほど視野が狭くなり、人々の生活とはかけ離れたものになりがちになると学生時代に実感したことがあります。
しかし、もっと広い目で見てみると、自分たちの研究は食べることにつながるし、そのためには皆様に買ってもらわないといけない。そんなことに興味を持って起業という道を選びました。

「起業」に強い思いやハードルを感じていたわけではないので、決め手や不安などは全くなかったですね。


創業から早3年、心境の変化と方向性の発見


経営者としての成長


ーー創業から早3年が経過しましたが、心境や周りの変化はありましたか?

上野 3年間のなかにさまざまな苦労と喜びがありました。苦労を1つ1つ乗り越えていく、その積み重ねの中で目指すべき方向性が漠然と見え始め、以前は「研究」を重要視していたのが、「美味しさ」や「食文化」を重要視するようになりました。

また、立ち振る舞いも変化したようで、これまで経営者の方から「上野くん」と言われることが多く、学生として見られることが多かったのですが、‘‘経営者の’’「上野さん」と呼ばれるようになり、一経営者として事業を担い、社会に貢献していく責任をより一層感じるようになりました


常に壁があり、常に成長していた

ーー具体的にどのような苦労がありましたか。

上野 経営者として、「今のままでは解決できない」という課題に多く直面してきました。
例えば、資金調達1つをとってみても、最初は経験がないので、どうプレゼンを作ればいいのか?どう伝えればいいのか?など、課題は山のようにあります。魚が死滅した時なんかも、とても悲しかったです。

同時に、そのような課題を乗り越える時が、自分としても会社としても、次のステージにいくポイントだったと思いますね。


SMOLTの目指す目標の変化

ーー「美味しさ」や「食文化」を重視するとは、具体的にどういうことなのでしょうか。

上野 起業当時は「研究を活かしたい」という気持ちが強く、サクラマスが目的の真ん中にありました。
今では、‘‘’’を目的の真ん中に置き、「美味しいものを消費者に届け、食を楽しんでもらうこと」が目標になっています。

まず美味しいものを作るのはもちろんのこと、食事を楽しんでもらうための商品設計を心がけています。例えば、弊社のブランド商品は全て小分けにすることができ、シェアすることで楽しんで食べてもらえます。

楽しんでいただくには、必ずしもサクラマスでなくてもいいんです。ですが、それを表現できるのはSmoltとしてはサクラマスが一番だと思っています!

ーーそのような心境に至ったきっかけは?


上野 生産者との協業の中で、彼らの「養殖」にかける思いが明確に伝わってきたからです。
Smoltは自社設備を持たず、養殖業者さんと提携して事業をおこなっています。彼らには、「こだわり」という言葉ですら失礼だと思えるくらい、事業への強いこだわりがありました。そんな彼らと、一緒に地域産業を作っていきたいという思いが出てきたことが要因ですね。
そこに収益のモデルを構築するのも、Smoltの役割です。


また、「食」の見方が変わってきているとも感じています。
例えば、世界ではタンパク危機が叫ばれ、昆虫食や大豆ミート、だいたい肉などが作られています。
しかし、多くの方は、食べたくないと思われるのではないでしょうか…
実際、お客さんや料理人との会話の中で、やはり彼らは美味しいものを食べることを求めていました。

そういったニーズもあり、食をただの栄養補給としてだけでなく、楽しみとして再認識させることが我々の役割であると思うようになりました。


SMOLTの成長の先には、‘‘人々の幸せ’’がある

大きな挑戦〜‘‘養殖’’のリブランディング〜

ーー今後、SMOLTが目指す方向性は。

上野 生産者のこだわりを届けるためにも、人々に食事を楽しんでもらうためにも、より多くの人に価値を届けたいと思っています。
しかし、実はそこには、大きな壁があるんです。

例えばあなたは、「養殖」という言葉にどういったイメージをお持ちでしょうか?
恐らく多くの方が、「天然」という言葉に‘‘新鮮で美味しい’’と素敵なお魚のイメージを持たれる反面、「養殖」に対しては‘‘安っぽい’’や‘‘不味そう’’といった悪いイメージを持たれるのではないかと思います。

そのようなイメージの払拭のために、「養殖」という概念のリブランディングが必要だと思っています

僕たちがサクラマスの育て方を大事にしていたり、ブランドをどう育ててアップグレードしていくか、お客様に伝え養殖のイメージを変えていくことを、今後やっていきたいことですね。

機能性を重視する大学の研究と比べると、「体験」という数値化できない課題を解決していくということで、良い意味で大学発ベンチャーらしくない挑戦ではあります。(笑)

ーー養殖のリブランディングとは、具体的にどういったものなんでしょうか?


上野  漠然としてはいますが、「養殖」ではない新しいジャンルを作りたいと思っています。他の分野で言うならばクラフトビールのようなものですね。
ああいった、‘‘信頼できるものを、信頼できる育て方で最高の状態を作っている’’、そんなこだわりが込められているものを届けることができればベストだと思います。

そのために現在、サクラマスの持つおいしさだけではなく、美しさ最大限に引き出すことに取り組んでいます。
効率よく養殖するのであれば、食べる部分が多い魚体を作れるようバイオテクノロジーを用いてそれを実現することはできます。
しかしそれをすると、魚が不格好になり、もともとサクラマスの持つ流線形の美しいフォルムを台無しにしてしまっています。

僕はキレキレに仕上がっている桜鱒を皆様に提供したいのです。(笑)

そういった取り組みによって、少しずつ「養殖」のイメージを変革していこうと思っています。

環境・社会への貢献


ーー最後に、地域社会や環境への貢献について教えてください。


上野 先ほど、Smoltは様々な人とパートナーシップを持っているとお話ししましたが、一緒に地域産業を持続させていくという点では、サステナブルを実現しているといえます。
大企業の集約的な生産方式では、どうしてもそれが蔑ろにされかねません。

また、温暖化に対しても向き合うことが必要になってきています。
昔は適地適作でその土地にあったものを作っていたのが、温暖化によって適地はなくなりつつあります
よって、温暖化でも食べられる生産体制と品種を作っていくことも、我々がやるべきことです。

実は今、サーモンは国内だけでなく、世界中で人気が出てきているんです。
皆さんあまりイメージがないと思いますが、アフリカや中東でも食べられていて、養殖の施設をわざわざ作る方もいるほどです(笑)

話がそれましたが、そもそも食文化とは、人類が、味わうために工夫し、時間とお金をかけてまで築いてきたものです。そんな「食文化を守るために地域産業の持続を支え、温暖化に対して向き合うことで、「美味しさ」や「幸せ」につなげていきます!

地域産業に根差し、時代の変化にも柔軟に対応し、ひたむきに「美味しいものを提供することで人々を幸せにする」ことを目指す上野。
「養殖」のブランディングという、これまで誰も挑戦したことがない課題に挑戦する彼の活躍に、これからも目が離せません。


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