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『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』大ヒット記念!ファミコン世代に贈る洋楽ヒット考察

2023年4月に公開され驚異的なヒットを記録している映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の影響で、ELO「ミスター・ブルー・スカイ」やボニー・タイラー「ヒーロー」のストリーミング再生数が急上昇した。そういえば最近、映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズやNetflixドラマ『ストレンジャー・シングス』など、80年代をテーマにした映画やドラマが話題となり、その効果で当時の洋楽ヒット曲にも注目が集まる現象が続いている。この現象の陰になにがあるのか?深掘ってみました。


■現代のヒット映画を陰で支える80's洋楽カルチャー

 ワールドワイドで爆発的な人気を更新中のアニメーション映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』。日本公開の4月28日から国内興行成績のトップ戦線を激走し、6月19日の時点で120億円を突破。洋画アニメ作品の歴代3位となった。そして全世界映画興行成績では、『アナと雪の女王』を抜いて歴代アニメ作品2位をマーク。日本生まれ世界育ちのマリオが、1位の『アナと雪の女王2』と『アナ雪』のワンツーフィニッシュをぶち破る快挙を成し遂げたのだ。
 まさしくスーパーな映画の主人公・マリオの声を演じるのはクリス・プラット。映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズのメインキャスト、ピーター・クイル/スター・ロードも演じる彼が、アニメの世界ではマリオとなって大活躍中となるわけだ。この2作品は、同じ役者が主演という点だけでなく、劇中にクラシックロックやポップスが流れ、しかも使われ方が秀逸という共通項がある。ゲームの『スーパーマリオブラザーズ』が発売されたのが1985年ということもあり、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の中では80年代のヒット曲が使われ、しかも単なるBGMではなくキャストの心情やシーンの意味合いを補足するように流れてくる。
 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』では、主人公のピーターが母親の形見としてカセット・テープとウォークマン常に持ち歩き、“最強ミックス”と題されたカセットの70年代の楽曲が劇中できらびやかに鳴り響く。さらに最新作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』では、マイクロソフト社の携帯音楽プレイヤー・Zuneに入っている80年代から2010年代の音楽が映画に華を添えることとなった。
 80年代と言えば、Netflixの人気ドラマ『ストレンジャー・シングス』も欠かせない。80年代が舞台なだけに、聴こえてくるのは当時の音楽。新シリーズの公開されると常に音楽も話題となり、最近ではメタリカの「マスター・オブ・パペッツ」やケイト・ブッシュの「Running Up That Hill(邦題:神秘の丘)」がバズったのも記憶に新しい。

 このように、最近の映画やドラマで80年代などのクラシックロックが頻繁に使われている。そのきっかけは、やはり制作陣がモロにその世代というのは大きいだろう。
 マーベル・スタジオの社長であり、『アイアンマン』から始まるMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の全作品でプロデューサーを務めるケヴィン・ファイギは、1973年生まれの50歳。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の監督のジェームズ・ガンは、1966年生まれの56歳。クリス・プラットはちょっと下の世代にはなるが、1979年生まれの43歳である。つまり40~50歳代の父親としてがんばってる世代が、多感な時期をリアルタイムで過ごしたのが80〜90年代となるわけだ。
 制作サイドが、懐かしい音楽が流れる作品のターゲットとして、同世代を見込んでいるのは間違いない。実際『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のプロデューサーのクリス・メレダンドリも、懐かしさや最初にマリオのゲームをプレイしたときの感覚を呼び起こしてほしいと、80年代の音楽を選曲した理由をインタビューで語っていた。
 だが、単にオジサンが懐かしがっているだけでは、80年代・90年代の音楽やカルチャーが今これだけもてはやされるわけがない。古い昔の音楽が話題の映画やドラマで使われ最新ナンバーとなり、新たなタグを付けることで若い層までガンガンに浸透。その連鎖によって、今も80年代の波が続き、Y2Kファッションがトレンドになったりという現象が起きているわけだ。

 80年代はテクノロジーが急速に進化し、デジタルが身近になり始めた時代。80年代アイテムのファミコンとウォークマンは、家でゲームが出来て、外で音楽が聴けるという大革命を起こしたのである。つまりは、スマホが世の中を支配する今に直接つながるスタート地点が80年代だったと言ってもいいだろう。音楽も様々なジャンルが乱立し、ファッションも多様化が進んだことで、結果的に掘り甲斐たっぷりのレガシーが残った。もはや、80年代という時代そのものがガジェット的である。そこから70年代、60年代と辿ったり、逆に90年代、00年代と面白いものを掘り進めるのもかなり楽しいはずだ。あらゆる世代を巻き込み、ディグる精神を高ぶらせる80年代。それらを踏まえて『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』で使われた楽曲から派生するエピソードに触れていこう。


■ミスター・ブルー・スカイ/エレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)

”Mr. Blue Sky”を収録したアルバム『Out of the Blue』

■Electric Light Orchestra - Mr. Blue Sky (Official Video)
視聴▶ https://www.youtube.com/watch?v=aQUlA8Hcv4s

 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のエンディング、そして『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』でも冒頭で流れたりと、高揚感溢れるサウンドがたまらないELOの「ミスター・ブルー・スカイ」。この曲は、1977年11月に発表された彼らの2枚組アルバム『アウト・オブ・ザ・ブルー』に収録されているナンバーだ。
 ELOはストリングスとシンセサイザーを融合したサウンドで、過去と未来を音楽で自在に行き来するというSF的な要素を含んだロック・バンド。音楽版”バック・トゥ・ザ・フューチャー”ともいえる彼らの楽曲は、ビートルズや60年代のポップスやソウル、50'sのロックンロールをオーケストレーションとシンセでダイナミックにアレンジし、聴き心地バツグンのポップ・ミュージックとなっている。
 バンドのロゴがUFOモチーフになっていたり、初期作のジャケットはヒプノシス、この『アウト・オブ・ザ・ブルー』のジャケットはアース・ウインド&ファイアーなどで知られる長岡秀星がイラストを手がけていたりと宇宙規模の世界観がある。ライブでも巨大なUFOを降臨させたりと、リーダーのジェフ・リンにはどこかNERD=オタク的な空気を感じてしまう。そう考えると、ELOの「トワイライト」がドラマ『電車男』で使われていたのもぴったりなマッチングに思える。
 ELOのタイムレスな楽曲は映画との相性が良いのか、多くの作品で使われている。「ミスター・ブルー・スカイ」は上記の2作以外にも『エターナル・サンシャイン』で、「オーロラの救世主」(原題:Livin' Thing)は『ブギーナイツ』で聴かれた。またELOは、1980年にオリビア・ニュートン=ジョンの主演作『ザナドゥ』のサントラ(LP時代のB面)を手掛けたこともある。タイトル曲「ザナドゥ」は、オリビア・ニュートン=ジョンとELO名義で発売され、バンドにとって初の全英シングル・チャート1位となった。
 1986年にELOは事実上の解散状態となり、ジェフ・リンはソロやプロデューサーとして大活躍。ジョージ・ハリスン、ボブ・ディラン、トム・ペティ、ロイ・オービソンらとのバンド:トラヴェリング・ウィルベリーズとしても大ヒットを生んだ。
 しかし、彼のELO魂はネヴァーダイだった。2001年にELOとして約15年ぶりのアルバム『ズーム』(Zoom)を発表。そこから更に15年の年月を経て、2015年にJEFF LYNNE'S ELO名義でアルバム『アローン・イン・ザ・ユニバース』を発表する。再始動したELOは、約30年ぶりのワールドツアーも敢行。世界中のファンがELOの楽曲の素晴らしさを再確認。同時に彼らに衝撃を与えたのは、もじゃもじゃヘアー&サングラスという以前と全く変わらないジェフ・リンのルックス。それは、時代を行き来するジェフ・リンがマーティ・マクフライ化した瞬間でもあった。そのときの彼の勇姿は、2017年に発売された映像作品『ウェンブリー・オア・バスト~ライヴ・アット・ウェンブリー・スタジアム』でも確認できる。
 話が飛躍したが、これを機に、ファンタジックでありながら普遍的なポップセンスに溢れたELOにしか出せない音楽をぜひとも味わって欲しい。

■Jeff Lynne's ELO - Turn to Stone (Live at Wembley Stadium)
視聴▶ https://www.youtube.com/watch?v=kXpjF1qtpt0


■サンダーストラック/AC/DC

"Thunderstruck"も収録された『Iron Man 2』

■AC/DC - Thunderstruck (Official Video)
視聴▶ https://www.youtube.com/watch?v=v2AC41dglnM

 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』で、マリオがレース対決に挑む車選びのタイミングで流れるのがAC/DCの「サンダーストラック」。アンガス・ヤングが刻むギターに、野太い“サンダー!”のコーラスが重なり、ブライアン・ジョンソンの熱いボーカルが入って曲が豪快に開けていくというワクワク感みなぎる100点なイントロがとにかく印象的なナンバーだ。この曲は、AC/DCが1990年9月に発表したアルバム『レイザーズ・エッジ』に収録されていた1曲。この曲は映画『デッド・プール2』でも使われていた。
 AC/DCも映画での使用度がとても高い。無数のアンガスが出てくるMVが有名な「フー・メイド・フー」は、もともとは1986年の映画『地獄のデビル・トラック』(原題:Maximum Overdrive)のために書かれたナンバー。作家で、この作品で初映画監督を務めたスティーヴン・キングが、ファンであるAC/DCにオファーしコラボが実現した。
 1993年の「ビッグ・ガン」は、アーノルド・シュワルツネッガー主演映画『ラスト・アクション・ヒーロー』のための書き下ろし曲。この曲のMVにはシュワルツネッガーが出演しているのだが、これがかなりヤバい。シュワルツネッガーは、ステージ上でバンドの周りを徘徊したあと、スクールボーイのアンガス・スタイルに変身。アンガスと一緒に名機SGを弾きダックウォークを決め、さらにはアンガスを担いで大砲の上を闊歩するという素晴らしい内容となっているので必見だ。
 さて、MCUとAC/DCと言えば映画『アイアンマン』は強力な絆で結ばれている。シリーズ1作目で「バック・イン・ブラック」が流れ、『アイアンマン2』はサントラ盤がまるごとAD/DCのベスト盤という状態であった。『アベンジャーズ』でも曲が流れたが、トニー・スター/アイアンマンを象徴する音楽がまさにAC/DCなのである。
 さらに話の輪を広げると、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のマリオカートのカーチェイス・シーンは、AC/DCと同郷のオーストラリア映画『マッドマックス』を彷彿させるものがあった。『マッドマックス』の1作目の冒頭で、ナイトライダーがAC/DCの「俺らはロッカー」(Rocker)の歌詞をモジってアジるのは有名なエピソード。シンプルで熱いAC/DCのロックンロールは、スクリーンの中の登場人物もクレイジーにさせてしまうのだ。ぜひみなさんも、AC/DCのサウンドで魂を存分にたぎらせてほしい。

■AC/DC - Shoot To Thrill ("Iron Man 2" Version)
視聴▶ https://www.youtube.com/watch?v=xRQnJyP77tY


■ヒーロー/ボニー・タイラー

"Holding Out For A HeroHolding Out For A Hero"が収録された映画『Footloose』Original Soundtrack

■Bonnie Tyler - Holding Out For A Hero (Official Video)
視聴▶ https://www.youtube.com/watch?v=bWcASV2sey0

 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』で、ピーチ姫の猛烈なしごきに耐え特訓するマリオを応援するように流れるのが、1984年の大ヒット映画『フットルース』の挿入歌でもあったボニー・タイラーの「ヒーロー」だ。
 英・ウェールズ出身のボニー・タイラーは、女ロッド・スチュワートと呼ばれたハスキーボイスが特徴的なブロンドの美人シンガー。華やかに見える彼女だが、成功を掴むまで時間が掛かった苦労人である。60年代から下積を重ね、1975年にレコードデビュー。だが、喉のポリープの手術後に医師のストップを聞かずに歌い続けたために、ハスキーな声がさらに掠れるという出来事に見舞われる。歌手生命の危機と思われたが、1978年のシングル「愛は哀しくて」(原題:It's a Heartache)がイギリスやアメリカでもチャート上位にランクインというミラクルが発生。80年代に入り、レコード会社を移籍したタイミングでさらなる転機が訪れる。1983年に発表したドラマチックな壮大なバラード「愛のかげり」(原題:Total Eclipse of the Heart)が、全米で4週連続1位となったのだ。この曲を手掛けたのは、全世界で4,300万枚以上(!)の売り上げを誇るモンスター・アルバム、ミートローフの『地獄のロック・ライダー』(原題:Bat Out of Hell)で全楽曲をコンポーズしたロックオペラの雄・ジム・スタインマンだ。
 彼女は勢いに乗って、アルバム『スピード・オブ・ナイト』(Faster Than the Speed of Night)も大ヒットとなり、その成功が「ヒーロー」につながっていくのだ。この曲もジム・スタインマンが手掛けた楽曲で、大袈裟なまでの激アツ・アップチューンはインパクト絶大。日本では、1984年の大映ドラマ『スクール☆ウォーズ』のテーマ曲、麻倉未稀がカバーした「ヒーロー」でも馴染みが深いだろう。泥臭いまでのドラマチックな楽曲は、山下真司演じる熱血教師感と最上級のマッチングである。大映ドラマからの派生といえば、1985年のドラマ『ヤヌスの鏡』の主題歌で、椎名恵が歌う「今夜はANGEL」も強烈な印象を残した。この曲は映画『ストリート・オブ・ファイヤー』でファイヤー・インクが歌う「今夜は青春」(原題:Tonight Is What It Means to Be Young)のカバーで、またもやジム・スタインマンが手掛けたナンバーだった。

■Fire Inc. - Tonight Is What It Means To Be Young (Audio)
視聴▶ https://www.youtube.com/watch?v=iVr15gWYUek

もはや話がマリオでもマーベルでもなくなってしまったが、わずか3曲でもこれだけ掘れるのだから音楽は奥深い。映画や80年代ナンバーをきっかけに、あらゆる時代の音楽をディグってもらえたら、きっと楽しんでいただけるはず。(文:土屋恵介)


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