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パントマイムに必要な体作り #9

ステージや路上でパフォーマンスをするパントマイミストの姿をご覧頂いた事があるだろうか。銅像のようにその場にとどまる彫像(スタチュー)パフォーマンスや、ロボットのような不思議な動きをする人、ステージ上でのアクロバティックな演目やコミカルなショーまで、パントマイムと一言で言えど様々なアプローチによって活躍している。

そんなパントマイムをメインとして活動する人たちは、どのように体作りをしているのか。テクニックや表現、作品作りにおけるお稽古が必要なのは言わずもがなではあるが、肉体作りとしての筋トレや柔軟体操、スタミナを付ける為の走り込みなどなど、やっているのかやらないのか。およそ知られていないであろうパントマイミストの肉体訓練事情の一側面をお話してみたい。

そもそも肉体訓練は必要なのか

結論から言うなら、めちゃくちゃ重要な側面であると自分は考えている。人前に立つという性質からして、その商売道具である肉体を鍛えないというのは言語道断だ!というのは精神的な意味付けの一つだが、肉体を鍛えていないと表現の幅が狭まってしまうというのが一番だろう。

言葉を用いずに肉体一つで物語を展開していくパントマイムにおいて、体を”扱える”ようになっておかなくてはならない。肉体言語において、体の可動域が制限されていることは、使える言葉数が減るようなものではないだろうか。可動域は狭いより広い方がインパクトは大きく、動きも鈍くするよりキレよくすることの方が当然難しい。肉体表現の幅が1〜50の人より、1〜100ある人の方が上限の分出来ることが増えるという話だ。下げる事は意識すれば出来るが上げることは難しい。いつでも上限高く出来ることを維持する為にトレーニングを続けていくのではないか。

レッスンにおけるトレーニングの割合

自分自身、最初はレッスン生として門を叩き、後に舞台へ出演するパフォーマーとなっていくのだが、一般の受講生と共に基礎的なレッスンをみっちりと毎週かかさず行っていた。11年学ばせて頂いた団体【SOUKI】において、パフォーマー養成コースは火曜、木曜、金曜の3日間、それぞれ2時間がレギュラーの稽古時間となっていた。そこでは基本的なテクニック練習もするのだが、体作りをしている時間も非常に多かった。

火曜の夜は筋トレとストレッチ、そしてウォーキングなどを用いたバランス感覚や体幹を鍛える時間が前半1時間、自身が初めて体験レッスンに参加させて頂いた時も、このきちんとしたトレーニングがあったからここでお世話になろうと決めたことを覚えている。木曜はランニングが45分、そこからパフォーマンスに必要なアクロバットやダンス要素を習得する為の身体操作に特化した練習、筋トレや柔軟性を上げる為の訓練も並行して行っていた。出来ないことは出来るようにしていく!というようなレッスンで、真夏でもエアコンの使用はなく、汗の水たまりが出来ていたことも良い思い出だ。

また金曜の夜は必ずバレエのレッスンがあった。クラシックバレエの基礎はパントマイムにおける指先足先までも神経を行き届かせる意味で物凄く有益な時間だったと思う。姿勢ひとつ、所作一つが意味を持ってしまうパントマイム作品において、自分の体を隅々までコントロールできるということは必須な要素であった。これもまた柔軟性と筋力、体幹を上げていく稽古であった。

体作りの意義

何のために体作りをするのか。それは、パフォーマンスのクオリティに直接影響を与えるからだ。テクニックを使うための体、プロゴルファーだって野球選手だって、技術の練習は当然行うが、それと並行してフィジカルトレーニングをしているのと一緒だ。

たとえば柔軟性がないとできない動きがあり、体幹が鍛えてなければ、その場で微動だにしないことや、同じスピードで全身を動かすことができない。照明で目潰しをくらっているような状況でもバランスを崩さずに同じ速度で歩き続けたり、ショーの内容によってはアクロバティックな動きやダンス的な表現も出てくる。スタミナがなければ1時間半にも及ぶ公演でステージに立ち続ける事ができない。

自分より先輩にあたるパントマイミストの方々も、大変厳しいトレーニングを積んで来られている方ばかりだった。走り込みなどの基礎ひとつでも密度も時間も濃くやっていらっしゃる。たとえば太っちょなキャラクターであっても、年齢を重ねて多少動けなくなってきたとしても、元々やるべきことをやってきたから永く続けていられるのだろう。

永く続けて行くために

パントマイミストとして活動するのに体作りは切ってもきれない重要な課題だ。一般的な社会人が就業時間は自身の仕事に従事しているように、パフォーマーにとっては体を作ることも仕事の一つだ。パントマイムの魅力の一つとして、歳を重ねても長く培った技術や表現力で作品を発表し続ける事が出来るという側面もあるが、基本的な肉体鍛錬は必ずやってこられているものだ。

肉体鍛錬は面倒だし、しんどいものではあるが、やりたくないとか気が乗らないなんて言うのは職務放棄のようなものだろう。どこかでそのサボりが自分の能力を著しく劣化させる日が訪れる。難しければある程度強制される環境に身を置くのも一つの手だろう。とにかくやるかやらないかの世界だ。舞台に立つとは人より高いところに立つということだ、人並みではいけない。地道で目立たない時間こそ大切にして行きたい。

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