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アナタの電話番号を訊いてもイイですか❓

「今日は大変お待たせしました。実は少し早く席が空いて、御電話を存じ上げていれば連絡出来たのですが・・・携帯電話の電話番号を教えて貰う事は可能でしょうか?」

散髪が終わって、クレジットカードで支払いを済ませた後、僕を担当してくれた美人の理髪師さんが僕の目を見て、突然そう言ったのである。

「全然大丈夫ですよー」

僕は内心少し動揺しながら、そう返事して、差し出された緑色のポストイットに自分の名前と携帯の電話番号をゆっくりと丁寧な字で書き記した。

メールアドレスも書けば良かったかなぁー。

散髪中から、その子の事を考えていた。タイプだなぁーと。年齢は30代後半か。利発的な瞳に清楚な雰囲気。

以前にも・・・忘れる位前にも髪を切ってもらったことがあったかも知れない。

しかし、「可愛い」と思ったのは今日が初めて。

「男」とは単純なもので、携帯電話の番号を訊かれただけで、いろんな想像をしてしまう。

「あのぉ、先日アナタの髪を切った者ですが。憶えていますか?今度、ご飯でも食べませんか?いや、お茶だけでもイイのですが」

こんな電話が知らない「携帯電話の番号」からかかって来て、それが彼女かも知れない。

断っておくが、もちろん僕は妻帯者である。

でも、想像の中では、彼女と食事を共にして、薄暗い小洒落たバーのカウンターで飲んでいるのである。

理髪店では見せなかった笑顔で彼女は笑う。コロコロと。僕の何気ない話を聞いて。

あの瞳にが忘れられない。僕をじっと見つめていたあの瞳が。

バーテンダーがいなくなった隙を見て、キスしようとする僕を彼女は巧みに躱わすのだろう。

電話、かかってこないかなぁ。最近、山田太一さんの本を読み続けているので、こんな「エロス」な現実夢を見ているのかも。

散髪までの間に喫茶店で白ワインを飲んだせいかも。

でも、ロマンチックな動物である「男」はそんな電話を待ち続ける。

現実的な「女」である彼女は、店の「お客様リストの備考欄」に今頃、僕の携帯の番号を書き入れているに違いない。

もし、万が一、彼女から電話がかかって来たら、「好きだと思った男性の電話番号をゲットする方法を咄嗟に思いついた彼女」の機転には舌を巻くばかりである。

この文章を京王線の駅のベンチで長々と書いている。

ちょっとだけ幸せな気分になった今日の「散髪」だった。

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