高鷲渚「いつもお兄ちゃん、」〜『After…』【SS】


高鷲渚(あたしはいまお兄ちゃんと二人暮らし。お父さんとお母さんは、もうずっと海外で仕事をしていて、家を空けている)


祐一「…ふあ。おはよう、渚」
渚「お兄ちゃん。おはよう。今日も遅いね」
祐一「まだ正月休みだからな…」
渚「いつもお兄ちゃん、寝坊してるじゃない」
祐一「う。辛辣…」
渚「ふふふ。朝ごはん、もうできるから。卵はスクランブルでいいよね?」
祐一「うん。ありがとう」



渚(お料理とかお洗濯とか、家事はあたしの仕事。好きでやってるからいいんだけど。お買い物も楽しいし)
渚「あとは、えっと…。いつもお兄ちゃん、卵、ないと怒るからな……それでいつもスクランブル」
渚「たまには違うのにしてみようかな? 怒っちゃうかな?」
香奈美「あ。渚ちゃんじゃない」
渚「香奈美ちゃん」

渚(あたしとお兄ちゃんの幼馴染の香奈美ちゃん。お兄ちゃんと同い年。優しくて、えっと)

渚「あ、まだあいさつしてない。あけましておめでとう。香奈美ちゃん」
香奈美「ほんと。初詣の日には会えなかったもんね。今年もよろしくね」
渚「うん」
香奈美「持とっか?」
渚「ううん。ありがと。大丈夫」
香奈美「そう? 三が日明けてさっそくお買い物なわけ? ユウは相変わらずみたいね」
渚「あはは…」

渚(香奈美ちゃんはお兄ちゃんと仲がいい)

香奈美「どーせ朝もちゃんと起きてないんでしょ」
渚(するどい)
渚「今日はね、自分から起きてきた」
香奈美「へー。珍しいこともあるのね。渚ちゃん、気を遣って寝かしてあげてるんだ」
渚(するどい…)
渚「香奈美ちゃん、さすがだね」
香奈美「ユウと渚ちゃんのことは、だいたいお見通しってわけ」
渚(頼もしいなあ)
渚「香奈美ちゃんもお買い物?」
香奈美「うん。まあぶらぶらしてるだけ。一緒に歩かない?」
渚「そうだね」



香奈美「お正月が明けてちょっとしたら、いよいよあたしたちもユウたちと山登りだね」
渚「うん」
香奈美「渚ちゃん。ユウと登るの楽しみ?」
渚「え? うん。香奈美ちゃんも一緒だし」
香奈美「そっか」
渚「うん。そうだよ」
香奈美「うん」
渚「えっと…あたし、お弁当作るって言ったじゃない? 香奈美ちゃんの好きなの入れたげるから、リクエストあったら言ってね」
香奈美「あ、嬉しい。考えとくね」
渚「うん。お願い」



香奈美「そう言えば、ちょっと前の話なんだけど」
渚「なに?」
香奈美「渚ちゃん、文化祭で、あたしとユウの写真を」
渚「わ、わーわー。なんでそれ」
香奈美「ふふ。ユウに聞いたわけ」
渚「お兄ちゃんのばか」
香奈美「お気に入りなんだ?」
渚「あー……うん……」
香奈美「今度、あたしがユウと渚ちゃん撮ってあげるわよ」
渚「あ、ありがと。でもそれとこれは別」
香奈美「そう?」
渚「そう。だって、いつもお兄ちゃん、香奈美ちゃんと一緒じゃない。お似合い」
渚「お似合いっていうか……自然だよね。うん。お兄ちゃんと香奈美ちゃんの二人って」
香奈美「あはは。自然って、自然な表現ってカンジ。そうそう。一緒にいるのが当たり前なのよね」
渚「うん」



渚「香奈美ちゃん、これからもずっとお兄ちゃんと一緒にいる?」
香奈美「どうだろ。卒業して……まあお互いそのまま進学するから、そうかも。でもその先は、どうなるんだろ?」
渚「そっか」
香奈美「あ、でも」
渚「?」
香奈美「ユウって穂高に登ったあとどうするのかな。卒業までにって、ずっと目標にしてて、そのあとはどうするのかな?」
渚「…知らない」
香奈美「何歳になっても山には登ってそうだけどね。あのバカ」
渚「バカって。もう香奈美ちゃん」
香奈美「バカはバカよ。山なんて……ほんと、いいことないのに。渚ちゃんもたまには言ってやりなさいよ。待たされる身にもなりなさいって」
渚「あはは…」
渚「ううん、あたしはそんなこと…。香奈美ちゃんと違うし」
香奈美「あ、あはは。そりゃそっか。渚ちゃんはあたしみたいに口悪くないしね」
渚「あ、えっと、そういう意味じゃなくて」
香奈美「?」
渚「ほら。あたしは別に…いつかお兄ちゃんだって、家を出ると思うし。ずっと一緒ってわけじゃないもの。あ、お兄ちゃんと香奈美ちゃんが結婚すれば別だけど」
香奈美「はい? あはは。それはそれはないない」
渚(あ、久しぶりに見たこうなってる香奈美ちゃん。やっぱ面白い)



香奈美「そんなことないと思うけどな」
渚「え?」
香奈美「お兄ちゃんはお兄ちゃん、妹は妹でしょ? それはずっと変わらないわけ」
香奈美「ずっと一緒じゃなくたって、ずっと一緒じゃない」
渚「……」
渚「そうかな」
香奈美「そうよ」
香奈美「それに渚ちゃんが家を出る可能性の方が高いんじゃない?」
渚「それはないかも」
香奈美「即答。ふふ。そうなんだ?」
渚「うん」



香奈美「じゃ、ユウによろしく。休み明け、寝坊するんじゃないわよーって言っておいて」
渚「うん」
渚「香奈美ちゃん。ありがと」
香奈美「へ? なにが?」
渚「えっと…いろいろ。いつもお兄ちゃんと、あたしのこと、気にしてくれて」
香奈美「幼馴染だもん。あ、別に特別ユウのこと、気にしてるわけじゃないわけ。ばいばーい」
渚「はいはい。ばいばい」
渚「ふう」
渚「…やっぱ…香奈美ちゃんには敵わないかなぁ…」



渚「ただいま」
祐一「おかえり」
渚「うん」
渚「……」
祐一「? 渚、どうかしたのか?」
渚「なんでもない」
渚「ごはん、ちょっと待っててね。お買い物、片付けちゃうから」
祐一「手伝うか?」
渚「ううん。お兄ちゃんはゆっくりしてて」
祐一「あ、はい」
渚「別にじゃまってことじゃないから」
祐一「う、するどい。よく分かったな」
渚「ふふ。いつもお兄ちゃん、あたしが帰って来るとそわそわするもんね?」
祐一「面目ない…」
渚「そう言うなら、お風呂のお掃除でもする?」
祐一「あ、いや、それは」
渚「冗談よ」
祐一「あはは…。いつもすまん」
渚「冗談ですよー」



祐一「よし。やっぱやるよ。風呂掃除」
渚「え? いや、ほんとにいいってば」
祐一「いや、そうは言っても……。ほんとに正月休み寝てばっかだし…」
渚「それはまあうん」
渚「でも気にしないで。休みが明けたら、どうせまた穂高に向けて忙しいんだから」
祐一「まあな。でもさ」
祐一「俺、別にまだ渚のこと養ってるってわけでもないしな…」
渚「うん」
渚「うん? お兄ちゃん。いまなんて?」
祐一「え?」
渚「渚のこと」
祐一「え…あ、ごめん。つい。なんか勝手にこのままだとそうなるかなって」
渚「いや。嬉しいけど」
祐一「嬉しいのか」
渚「うん。かなり」
祐一「かなりか」
渚「かなりだね」
祐一「そうか」
渚「タイカレー?」
祐一「テンションあがりすぎだろ。いいよ。俺の好物ばっかり…このまえ誕生日に作ってもらったばっかだし…」
渚「うん。ごめん。ちょっと興奮しちゃった」



渚(そっか。お兄ちゃん、そうなんだ。そっか)
渚「ふふ」
祐一「おーい」
渚「はい」
祐一「買い物。片付け。止まってるよ」
渚「あ、ごめんなさい」
祐一「いや別に」
渚「そうだ。さっき香奈美ちゃんに会ったよ」
祐一「ふーん」
渚「気になる?」
祐一「なにが?」
渚「香奈美ちゃんのこと。おやすみのあいだ、会ってないでしょ」
祐一「そりゃまあ会う理由もないし」
渚(照れ隠しかな)
祐一「どうせ休みが明けたら会うしな」
渚「うん。…そうだね」
祐一「うん」
祐一「だからいいよ。休みのあいだくらい会うの、渚だけで」
渚「はー」
祐一「どうした」
渚「なんでもない。ばか」
祐一「どうした」
渚「なんでもないってば」
渚「でね。香奈美ちゃんと話ししたんだけど」
祐一「続くんだ」
渚「お兄ちゃんって、穂高に登って、卒業して、そのあとってどうするの?」
祐一「さあ」
祐一「登ってみるまでわかんないや」
渚「そっか」
祐一「うん。まあたぶん、変わらないと思うけど。また別の山を目指すんじゃないかな」
渚「そっか」
渚「じゃあそのときも」
祐一「?」
渚「あたし…いつもお兄ちゃん、待ってるね。えっと…ずっと待ってていい?」
祐一「いいよ。あ、でももし待ちくたびれたら放っておいてくれ」
渚「それはないかな」
祐一「即答。そうなのか」
渚「あ、それ香奈美ちゃんと同じ」
祐一「えっいやだ。なんだよそれ」
渚「ふふふ。教えない」
渚「ありがと。ごめん、じゃああたし、お台所行くね」
祐一「えー。うん」



渚「はー」
渚「ふー」
渚「…えへへ。うん、ごめんねお兄ちゃん、やっぱあたし好きだな」
渚「さ。ご飯作ろう」

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