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捨てて剥がして身軽になって

さて、海外出張に出てから早2週間が経過しまして、その間すっかりnoteに文字を打ち付けることもありませんでした。
理由は簡単で、とにかく忙しいのです。
朝から晩(というか未明?)まで働き詰めで、常に何か次の作業のことを考えているような状態。ベッドに横になってみても、頭が休まりません。


そんな中、日本から持ってきた本をようやく1冊読み切りました。

橋本紡さんの『猫泥棒と木曜日のキッチン』。

母親がある日忽然と姿を消し、弟との2人暮らしが始まった17歳の女子高生・みづき。
親がいないという事実にことさら感情を揺さぶられることもなく、淡々と日々を過ごすみづきですが、瀕死の猫――それも、すでに息を引き取りどろどろになった仲間たちの中からなんとか救い出した猫――を拾ったことをきっかけに、彼女の中の何かが動き始めます。

小さな命は、とても軽かった。命が重いなんて嘘だ。こんなに軽い。まるでなにも持っていないみたいだ。ああ、それなのに、どうして心のほうは重いのだろう。

『猫泥棒と木曜日のキッチン』橋本紡. 新潮文庫. 2008. p86

思春期の高校生にとって、親がいなくなるなんて、一大事です。わめき散らして、悲しみに暮れて、どうしようもなく取り乱したっておかしくない。それぐらいの、事件。
それをなぜか冷静に受け止めてしたみづきは、いわば「自分が大切にされるべき存在」であることを忘れていたのかもしれません。
でも、小さな猫の命に接し、それは等しく大切にされるべきだと気づく。
か弱い子猫と自らの境遇を重ねた……わけでは決してないのですが、子猫の澄んだ眼差しに、自らをふと重ねたのかもしれません。


とまぁ、しょうもない感想を書き連ねたのはいいものの、本題はそこではありません。

旅先に持ってきた本は全部で5冊ほど。
文庫がほとんどですが、1冊だけハードカバーもあります。
これが、荷物になるんです。

ほかに荷物がないのなら、大切に抱えて持ち帰ればいいものの、今回は仕事の出張。すでにキャリーケースには、業務で使う機材が30kgほど入っております。
となると、大変申し訳ないとは思いつつ、読み終わった本は旅先で手放さざるを得ないわけです。
ほんとうは、読み終わった本も大切に持ち帰り、再び本棚へ戻したいのですが……。

しかしながら、苦労して持ち運んだ甲斐があって、私は海外ですき間時間を見つけてこの本を読むという、とても贅沢な時間を過ごせたわけです。
感謝して、チェックアウトするホテルに置いていこうと思います。
また読み返したくなったら、日本で買えばいいやと思いつつ。


そんなわけで、少しだけ荷物が軽くなり、次の街へ向かいます。
この町の音や匂いを持ち帰ることができないように、この場所での読書体験を頭の中のお土産に。

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