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【道】 第14回 日本一短い国道 (国道174号/兵庫県)

神戸の中心街にあるJR三ノ宮駅から海に向かって南下すると、国道2号が横切り、正面は阪神高速の高架橋で空が遮られている。国道174号はその国道2号との交差点から始まり、阪神高速の下をくぐった先で終わってしまう。総延長たった187㍍。日本で最も短い国道だ。その先には日本を代表する貿易港の神戸港があり、手前に神戸税関の年季の入った建物がそびえている。

R174 神戸税関前にて


このような港につながる国道は全国には15路線あり、「港国道」と呼ばれている。ついでながら、日本で2番目に短い国道も、東京にある港国道だ。港区の日の出桟橋近くを走る国道130号で、総延長が約480㍍しかない。その他の港国道も数㌔㍍以内と、歩いてでも簡単に走破できてしまう短い路線ばかりなのが大きな特徴だ。

港国道の存在意義は何なのであろうか。日本は海に囲まれているので、必然的に貿易は港に頼らなければならなかった。港には人、モノ、カネ、情報が集まり、そこにつながる道には物流が生まれる。明治以降、政府はこのような貿易港につながる道路を重視してきた。国道174号も、日本最大の国際貿易港だった神戸港と幹線道路である国道2号を結ぶ重要な使命を帯びていたのだ。

この道路が国道に指定されたのは、半世紀以上前の1953(昭和28)年。この時代にはまだ高速道路はなく、当時の地図を見ると、神戸港には国鉄の貨物引き込み線が毛細血管のように広がっている。当時は鉄道主力の時代であり、昭和30年代から40年代にかけては国鉄と国道が日本の物流を支えていた。だが、時代の要請は鉄道からトラックを使った道路輸送へ、そして国道から高速道路へとシフトしてゆく。そのようなトレンドの変化が、港国道を陰の存在にさせた。

今では「日本で一番短い国道です」という案内標識も掲げられ、一種の観光名所となって人が訪れる174号。国道としての存在意義はもうなくなってしまったかのようにも思える。港国道はこの半世紀の経済や物流の変化を象徴する「国道遺産」として、その姿をとどめているのだ。

2011・1・8記
時事通信社出稿

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